組織
高天原高校の一行は呆然とする報道陣を残し、甲子園へ向かった。
しかし騒ぎは、それからだった。
乱の発言は数分もしないうちに全国へ配信された。
『ハワイを取ったんだから勝ちでいいだろ』
『いや百年前の戦争と現在の国力は別問題だ』
『高校生相手に歴史学者が本気になってるぞ』
『でも言われてみると妙な話だ』
『高天原村の歴史教科書を見てみたい』
『野球の話をしろ』
情報網は瞬く間に沸騰した。
歴史学者、政治評論家、軍事評論家、経済学者までが議論へ参加し、午後には「高天原史観」という言葉まで生まれていた。
だが、その騒動をまったく別の場所から見つめる者たちがいた。
暗い部屋だった。
照明はない。
壁一面を占める巨大な画面だけが、室内に青白い光を投げかけている。
画面には報道陣に囲まれた乱の姿が映っていた。
「目立ちすぎたな」
男の声がした。
「いずれこうなることは分かっていたでしょう」
今度は女の声だった。
「高天原村という名前が全国へ知られた。これは好ましくない」
別の男が答える。
「逆ではないか」
沈黙。
「好機だと言っている」
「何の?」
「隠しておく必要がなくなる」
画面の中で、乱が記者たちへ笑顔を向けていた。
「まだ早い」
低い女の声がした。
「彼ら自身、何も知らない」
「だからこそだ」
誰かが笑った。
「甲子園へ出た以上、もう後戻りはできない」
再び沈黙が訪れた。
暗闇の中に何人いるのかさえ分からない。
男なのか女なのか、それぞれの顔も姿も見えなかった。
ただ、最後に一人の声だけが響いた。
「しばらく見届けよう。高天原の子供たちが、どこまで行けるのかをな」
画面が消えた。
部屋は完全な闇に包まれた。




