3-07.一つの夢が叶った日。そして物語は続く。
半年後。
これまでBランクハンターだった私達[[紅の絆]]はついにAランクハンターとなって国のお抱えハンターとなった。本当はもう少し早くそうなる筈だったのだけど、これまで保留になっていたのだ。
というのも学園がまだ完全には落ち着いていなかったから。
そのせいで私達もギルドマスターも双方に忙しくこれまで折り合いがつかなかったのだ。
ギルドマスターとメアリーの人材発掘のおかげで漸く教師陣が揃った学園を私達は後にする。
元特別クラスの面々もハンター復帰。
何人かはそのまま教師を続ける者もいるようだけど、適材適所。残る人達には頑張って欲しい。
「こうなると少し切なさを感じますわね」
コーネリアがぽつりとそんなことを言う。それに同意する私達。
依頼の上での仕事だったけど、そこそこ長い間努めたため感慨深い。
正門を出て学園に振り向く。レンガ作りの校舎。その前に立っているのは学園の生徒達と教師陣。
その中にはトロールもいる。
彼は本当ならそこにはいない予定だった。
貴族に配慮して学園の教師陣を任命したこの国の国王。
国王は学園の生徒達や私達[[紅の絆]]を始めとしたハンター、ギルドマスター、他に関係各所から苦情が入り慌てて配下に学園の実態を調査するよう命じた。それを請け負ったのはよりにもよってメアリーだった。国王は身内に甘い。王位継承権が何位であろうとも国王には関係なく皆自分の可愛い娘・息子達。
国王は止めたがそこはメアリー。普段から市井にしょっちゅう出かける者が止まる筈もない。
メアリーは私達に護衛の依頼をした上で学園に潜入調査を開始した。
結果、メアリーは自身の父親である国王を糾弾した。
「お父様は無能なのですか!!!?」
そのときのメアリーの剣幕は忘れようにも忘れられない。
国王もすっかり委縮してメアリーに言われるがまま。
途中私達に助けを求めるような視線を送ってきたのは知ってるけど、私達は全員で気が付いてないフリをした。巻き込まれたら堪ったものじゃないし、ね。
その後トロール学園長ことトロル・フォン・メタボルには辞職勧告書が王家から送られた。
それを見たトロールは真っ青になって失神しそうになっていたものの、それを助けたのもまたメアリーだった。
「学園長を辞して研究者として学園に残りませんか?」
なんとトロールは学園長になる前は魔道具の研究開発をする学者だったのだという。
成果もそこそこ収めていたとか。それが学園長。畑違いすぎでしょう。なんでそんな話受けたかなぁ。
トロールは考えた末、メアリーのその話を受けた。
学園長の後釜にはマーガレット。あのメイドさんが就任した。
メアリーさ、こう言うのもなんだけど、学園私物化するつもり満々だよね。
何しようとしてるんだか。こわぁ。
そのトロールと目が合う。
こちらに頭を下げるトロール。
随分丸くなったものだ。
彼は上に立つより下にいた方がその力を発揮出来るタイプなのかもね。
私も頭を下げる。
続いて生徒達に手を振ってこれから先を応援。
「皆、頑張ってね」
「「「「はい、先生方これまでありがとうございました」」」」
生徒達は卒業したら良いハンターになるだろう。
なんたって私達がやらかしまくりつつ育てた生徒達だ。
その日が楽しみだよ。
◇
それから私達はハンター稼業に戻った。
ここのところ何故か魔物が多い。
狩っても狩っても数日したらまた目撃情報が多数入る有様。
魔物大行軍が近いのかもしれない。
そうなる前に1匹でも多く狩っておかなくちゃならない。
「魔力銃」
「付与・雷」
ギルドの指定はAランクだったっけ?
マンティコアが倒れ伏す。
「「「「「お疲れ様」」」」」
『お疲れ様』
それを見てハイタッチを交わしあう私達。
今日も私達はギルドに魔物の遺体を持っていく。
そんなハンター稼業の傍らで私達は新しい仕事を始めた。
「「「「「いらっしゃいませー!」」」」」
『いらっしゃいませ』
飲食店。【カプリース】その名の由来はそのまんま。その日のメニューがシェフの気まぐれで変わるから。
残念ながら専属従業員がまだいないので週に2日も開ければ良い方なこの店。
屋敷の近くの離れを改造したこのお店。
離れを始めて見たときはここに住んでた人<多分使用人?>はろくでもない生活を強いられてたんだろうなぁって思ったんだけど、それはまた別の話。
全部改修してそのときの面影はもうない。
昔は石の塔みたいなの。今は小洒落たパン屋みたいな外観だ。
私は調理場に立ってお客さんからの質問に応える。
「ユーリちゃん、今日のメニューは何?」
「今日はトゥキビのスープとほろほろ鳥のソテー、カルボラーナもどき、野菜サラダですよ。ちなみにいつものようにパンは食べ放題です」
「嬉しい。ここのお店は料理は勿論だけどパンも美味しいから」
「分かる分かる。でもそれだけについつい食べ過ぎちゃうよね」
「あー・・・。で、でも討伐で体力使ったし、平気よ。きっと。・・・ユーリちゃん、大丈夫よね?」
「そうですね。ハンターの皆さんはおっしゃっているように体力使いますし、暴飲暴食しなければ大丈夫だと思います」
「うっ、しそう」
「やりそうね私達。ここのお店開いてること少ないから開いてるとついはしゃいじゃうのよね」
「お店を褒めていただいてありがとうございます。もう少しで料理お持ちしますのでお待ちくださいね」
「「「「はーい」」」」
我ながら美味しく出来た。と思う料理を提供。
お客さん達の反応を見る。
「美味しい」
「これは、美味いな」
「ん~、パンも柔らかくて甘くて大好き。これが食べ放題なんてねー」
「お母さん、これ美味しい」
「ふふ、良かったわね」
うんうん。評判は上々だ。
このお店は平民向け。良心価格に設定してる。
初めの頃は外観のせいかなかなかお客さんが来てくれなかったけど、私達が全員で客引き<常識の範囲内でね>するっていう地道な活動のおかげで訪れてくれるようになった。
皆、笑顔が零れてる。
私の叶えたかった夢の一つがここにある。
「ふふっ」
それを見ていると私も自然と笑みが零れる。
スープをよそってカウンターへ。
ウェイトレスをしてくれている仲間達を呼ぶ。
「料理あがりました。お願いします」
「「「「はーい」」」」
『はい』
返事は全員。そしてやってきたのはアメリア。
「あ、アメリア。よろしくね」
「うん! ねぇ、ユーリ」
アメリアが手招き。私は素直に傍に行く。
「どうしたの?」
「大好き」
キス。見ていたお客さん達から歓声が上がる。
「百合ね」
「百合だな」
「お母さん、百合ってお花?」
「お花もだけどあの女性達のように女性同士でお付き合いをしている人達のこともそういうのよ。尊いわね」
「そうなんだぁ。ハンナも将来百合になるー」
「あらあら。じゃあお相手はお隣のモニクちゃんかしら」
「えへへー」
「あっ、あっ・・・、私も相手を。相手をー」
「うぁぁぁぁぁ」
「ユーリ? 嫌だった?」
「嫌じゃないよ。むしろ嬉しいよ? でもね」
このお店、料理の他に私達のバカップルぶりも売りになっちゃってる。どうしてこうなった。
後、百合って何故そこまで広がってる? ううん、私原因知ってる。コーネリアとマーガレットさんだ。
最近本作って出版しやがったんだよね。そのせいで王都は大変なことになってるよ。
これは貴族・平民問わずにだ。
ほんとにもう、やってくれたよ。2人。
ため息を吐くと店の扉が開く。
"カランカランッ"ドアベルつけてるから良く分かる。
「「「「「いらっしゃいませ」」」」」
『いらっしゃいませ』
「こんにちはですの」
「メアリー!?」
王女様! このお店は貴女が来るようなお店ではないですよ?
「ユーリさん? 何か言いたいことがありますの?」
「いえ、別に」
「まぁいいですの。今日は食事のついでに報告があってきましたの」
「報告・・・ですか」
「そうですの」
メアリーがカウンター席に座って私達全員を呼ぶ。
全員が集まったところで小声で。
「わたくし、隣国の第三王女と結婚することになりましたの。10日後にその方がこの国に嫁いでいらっしゃるのですがこの国までに何かあるといけませんわ。そこで[[紅の絆]]の皆様に護衛依頼を出したいのですが受けてくださいますか?」
「おめでとうございます。それはもう」
「当然だよ」
「ええ、勿論ですわ」
「やらせていただきます」
「任せといて」
『リリーに従うわ』
「皆さん、ありがとうございます。ではよろしくお願いします」
「「「「「はい」」」」」
『賜りました』
結婚、か。アメリアがこっち見た? 言いたいことは分かるよ。
メアリーの話が終わると私達はそれぞれの持ち場に戻る。
少ししてメアリーとその護衛の方々に料理を提供すると皆、顔が綻んで幸せそう。
私の料理で一時でも幸せになってくれるの嬉しいな。
私、料理作るの好きで良かった。
◇◇◇◇◇
後日、ユーリ達は隣国スルート王国へ向け旅立つ。その最中。
-----------------------------------------
「冒険だぁ」
「ユーリ、楽しそう」
「うん!」
「えへへ。ねぇ、ところでユーリ。ボクもそろそろユーリと結婚したいなぁ。子供も作りたい!」
「えっ。も、もうちょっと待って?」
「ユーリ、ボク言ったよね? あまり待たされると強制的にユーリをお嫁さんにするかもって」
「アメリアと結婚はしたいよ? でもお金いるでしょ? 頑張って稼ごう。そしたら、ね」
「うん! それで結婚したらすぐ子供作ろうね。宿るのはユーリのお腹だったらいいなぁ」
「ソ、ソウダネ」
アメリアからの求愛に翻弄されてみたり。
-----------------------------------------
「山賊だぁぁぁ」
「こういうのをテンプレって言うんでしたわよね?」
「うん、そう」
『この馬車を襲うなんて運がない人達ね』
「本人達は多分女性だらけで俺達ついてるって思ってますよ。きっと」
「以前会った盗賊もそうだったよね」
「あいつユーリのことふざけた目で見たから殺していい?」
「じゃあ行くよ」
「「「「「おー」」」」」
『はい』
たまに起こる事件に巻き込まれてみたり(テンプレともいう)しながら。
-----------------------------------------
ユーリ達の物語はまだまだこれからも続く―――。
これにて第三部は完結となります。




