3-06.第四王女メアリス
「NO」と言える主人公と言えば聞こえは良いのでしょうけど・・・。
様々な意味で人を選ぶ主人公ですね(苦笑)
どうして私はここにいるんだろう。
今、私は絶賛混乱の最中にある。
今座っているソファはアメリア達曰く体重が軽すぎると言われる私でも綿の海に沈む程の材質のもの。
目の前の机は大理石だろうか? 白くて独特な模様を持っていて触るとひんやりするので間違いないだろう。
床に敷かれているカーペットもまた凄い。
ペルシャ絨毯だったっけ? 絨毯とカーペットって違いはなんだろう? まぁいいや。
兎に角赤を基調としていてその中に複雑な模様が描かれたカーペットが敷かれている。
周りはもう見たくもない。これ見よがしに金とか白金とかがふんだんに使われた絢爛豪華な品々が並べられてるとだけ言っておこう。
緊張で吐き気がする。庶民な私にはこういう高級感溢れる部屋は落ち着かない。ギルドマスターの部屋みたいな庶民より少し上くらいの部屋なら許容出来るし、それなりに落ち着いて過ごせるんだけど。
私達の拠点も屋敷じゃないかって? 見た目だけね。中はギルドマスターの部屋と同じ感じだよ。
庶民の暮らしより少し上くらいの家具が設置されてる。高級なのはあまりない。
私達平民だし、ハンターだしね。貴族じゃない。身の丈にあったものにしてるんだよ。
「・・・・・」
無意識で隣のアメリアの手を強く握る。
彼女も何も言わず私の手を握り返してくれる。
それだけで緊張が少しだけマシになる。アメリアが一緒にいてくれて良かった。
私だけだと耐えきれずに今頃失神してしまっていたかもしれなかった。
どうして私達がこんなところにいるのか。
理由は単純。王族の方々に城に誘われたからだ。
アクセサリー屋を出てアメリアと腕を組んで歩いているときにいかにもな馬車が近づいて来て。
嫌な予感はした。その予感が大当たり。私達の隣で止まった馬車から顔を見せた人が王族だと名乗ってその上で私達に共に城にくるよう言われて今に至る。というわけだ。
一介の平民・ハンター如きが王族の誘いを断れる筈もない。
止む無く私達はドナドナされた。
ここまでの道中も最悪だった。
目の前には第四王女様。アメリアは普通にお喋りしてたけど私は終始委縮してた。
アメリア凄いよ。そのコミュ能力を私に分けて欲しい。ただ王族相手でもタメ口なのは寿命が縮むかと思ったかな。王女様はそんなこと気にせずに話していたけど。
「失礼致します」
ぼんやり考えごとをしていたらメイドさんが入室してきた。
黒のロングなワンピースに白のエプロンとホワイトブリム。
分かってる。ここのお城の人達分かってるよ! 王道いいよね。
ミニは私は好きじゃないんだぁ。趣味は十人十色だから好きな人のことは否定しないけどね。
これはあくまで私の趣味だから。ねっ。
「謁見の前に湯浴みをお願いしたいのですが」
メイドさんはそう言って私達を廊下へと促そうとする。
王城のお風呂だからきっと素敵な体験が出来るのだろう・・・とは思う。
思うのだけど。
アメリアをちらりと見る。
恋人の裸を見られたくない。私も見せたくない。
過去にそういうことがあったのも事実だけど、あの頃と私達の関係は全然違う。
アメリアは私の大切な・・・。
郷に入りては郷に従え。そういう諺もあるけど嫌だ。我が儘なのは分かってる。けど。
「洗浄魔法」
私とアメリアに使用する。
これで湯浴みしたのと同じくらいには綺麗になった筈だ。
メイドさんに仕事を奪ってごめんなさい。の気持ちを心に話しかける。
「これで湯浴みはしなくても大丈夫ですよね? お仕事の邪魔をしてしまってごめんなさい。それから私とアメリアはハンターなので動きやすい服装でいることが必要です。ドレスは遠慮させていただきます。ごめんなさい」
「それは・・・」
メイドさんは戸惑った様子。
私達のことはきちんと世話するように上から言われているのだろう。
それがこう拒否されてしまうと彼女達は立つ瀬がない。
かと言って強制すれば私達の機嫌を損なって最悪の場合帰られる。
そうなると粗相をしたのは誰かという責任問題などになって・・・。
「あの、私達も仕事なのでお世話させてはいただけないでしょうか?」
頭を下げられても困る。
上と私達との板挟み。
メイドさんは大変だなっていうのは良く分かる。分かるよ。分かるから我が儘言ってるって理解してる自分の心が物凄く痛い。良心の呵責があれ。
「・・・・・」
メイドさんは頭を上げない。無言でずっと下げ続けてる。ここは私達が折れるべきか。こういうのキツイ。
助けを求めてアメリアを見ると『私に任せるよ!』という顔。
私はそれを見て決断を下した。
「ごめんなさい」
メイドさんは引き下がっていった。
上に報告するんだと思う。
迷惑かけてごめんなさい。
やっぱり何も悪くない人にこういう仕打ちをしてしまうこと胸が痛む。
これであのメイドさんが私の嫌いなタイプの人であれば先の決断に少しも悩むことなかったのにって思う。苦手だ。偽善者って言われてもいい。でも仕方ないじゃん。私はこういう性格なんだから。
「帰りたい」
そう呟いたときに扉を叩く音。
「どうぞ」言うと入室してきたのは先程とは別のメイドさん。
「お茶とお茶菓子をご用意しました。姫様の用意が整うまでもう暫くここでお待ちください」
紅茶のいい香り。お茶菓子もさすが美味しそう。
淹れ終わるとメイドさんは部屋の隅へ。
プロだ。私達に意識させすぎないように気配を薄いものにしてる。
"トンッ"と軽く肩を叩かれる。
叩いた者は当然アメリア。
口に長細いお茶菓子加えてる。
それでこちらを見て私に「んっ!」とそれを差し出してくるということは。
私知ってる! ポ〇キーゲームだよね。アメリアはそれがやりたいんだよね。
私、それ教えたっけ? ところでメイドさんこっち見てるけど?
「んー」
うっ、可愛い。もういいや、いいよね。見られてる? 知らない。アメリアとポ〇キーゲームしたい。する!
それはそうとアメリア。私達がそれするとさ、違う形になるのは分かってるよね!?
私はアメリアが咥えているのとは反対の方向を咥える。
よーい、スタート。
ほら言った通り。ポ〇キーゲームはその趣旨を私達に奪われ、いかに早く相手にキスするかなゲームになり、細長茶菓子はあっという間に消えて距離の詰まった私とアメリアは唇と唇を重ねた。
後ろからメイドさんの息を飲む音が聞こえた気がするけど、多分気のせい。
鼻を手で抑えていたように見えたのも多分気のせい。
ところでアメリアは私の罪悪感を少しでも紛らわそうとしてくれたんだよね。
ありがとう。アメリア。
謁見。国王様にでも会うことになるのかと身構えていたら会うのはまた第四王女様だった。
この王女様、馬車の中でアメリアと話してたのを聞いてたんだけど自称王族の中で一番王族らしくない王族でそのため市井によく出かけては民と触れ合って過ごすのだそう。聞きながら物語ではそういうのよくあるけど、実際に王族がそういうことをするのはどうなんだって他人事ながら思ってた。苦労するのは王女様の付き人。大変だと思うよ。万が一そんなことがあった日には文字通り物理的に首が飛ぶからね。それで済めばいいけど、下手したら家族もとかあり得ないことじゃない。ここはそういう理不尽が普通にまかり通る世界だ。法は偉い人のためにあると言っても過言じゃない・・・んじゃないかなぁ。
白に桃、赤に黄。色とりどりの美しい花々が咲き誇っている定園。
百合の花が多いな。王女様の趣味なのかな。
その一角で私達はお茶をいただいている。
王族とか貴族ってどうしてこうお茶ばかり。
お腹がタプタプだよ。残しても文句言われないかな。もう飲めない。
それにしても不思議。どうしてこんなにお茶飲んで平気なんだろう。
私達の飲み方が何か間違えるのかな。
アメリアも私と同じでさり気なく紅茶遠ざけてる。
王女様が一口紅茶を口にした後、話し出す。
「今日は突然お誘いして申し訳ありません」
動作が優雅。市井によく行かれるって言ってたから失礼ながら活発で平民っぽい方なのかと思ってたらそんなことなかった。まごうことなき王女様だ。
「それで今日お誘いした理由なのですけれど」
「うん、それ聞きたかったの。理由は何?」
「ちょっ、アメリア。不敬だよ!!」
「構いませんわ。むしろどんどんそのように話しかけてください。わたくし、恥ずかしながら同年代の友達がおりませんの。それで皆様を。あ、いえ。それだけではないのですが」
「他の理由は?」
うぐっっ。王女様の許可得ているとは言っても心臓に悪いよぉ。
アメリアに視線を投げても通じないだろうしなぁ。
一応やってみた。微笑みかけてくれた。可愛い。幸せ。
・・・違う。そうじゃない!!
心の中で別の意味で悶えている私を置き去りにして話は進む。
「市井でよく皆様のお噂をお聞きして一度お会いしたかったのです。とても美しくとても聡明でとてもお優しい方々だとお聞きしました」
「それ誰が言ってたか知らないけど嘘だよ」
「えっ!?」
「ボク達は聡明じゃないし、優しくもない。大体行き当たりばったりだから。美しい・・・はユーリは確かに美しいけど。ん~~、美しいじゃなくて可愛いだね」
「ふふ、アメリア様もお可愛らしいですよ」
「あれ? ボク名前名乗ったっけ?」
「先程ユーリ様がお呼びになっていましたよ。それにそうでなくても皆様のことは市井の方々よりも承知しております。わたくし、[[紅の絆]]のファンですので」
「そうなんだ? じゃあ聡明とか嘘だって分かってたんじゃないの?」
「そうは思いません。現にアメリア様はわたくしと関わりを持てればユーリ様に得があると思ったからこうしてお会いしてくださってるのではありませんか? そうでなければ貴女はわたくしの誘いでも断っていたと思います。その気になればアメリア様はこの国の転覆も可能でしょう?」
「・・・王女様は何処まで知ってるの? 他の王族も同じようにボク達のことを知ってるの? もしそうなら」
「知っているのはわたくしだけですわ。そうですね、知っている範囲と言えばユーリ様は神殺しの狼と樹木精霊様との契約を結ばれる程の方というところでしょうか」
「王女様。狸だよね。で? ボク達に何をさせたいの?」
「え? ですからお友達になっていただきたいのです。それだけですよ?」
「本気で言ってる? 断った場合は?」
「本気ですわ。断られても仕方ないと思います。寂しいですけれど」
「・・・変な人」
「よく言われます」
「だろうね。ユーリ、ユーリ? あれれ? ユーリー?」
ん? 誰か呼んでる? あ、アメリアが私を呼んでる。返事しなきゃ。
「ごめん。呆けてた。どうしたの? アメリア」
「この王女様・・・。名前何?」
「申し遅れました。わたくしメアリス・フォン・ルハラと申します。メアリーとお呼びください」
「分かった。ユーリ。メアリーと友達になろう。きっと色々助けてくれるよ」
「友達? 何がどうしてそうなったの? 王女様と友達って恐れ多くない?」
「ダメ・・・でしょうか?」
う。そんな悲し気な顔しないでくださいよ。
こんなの、断れないじゃん。
「分かりました。えっとメアリー様? よろしくお願いします」
「様はおやめください。・・・そうですね。わたくしも言葉遣いを市井のものにします。そうしないと皆様も接しにくいですよね。ゴホンッ、では改めて私はメアリーですの。よろしくなのですの」
「「・・・・・」」
「あ、あれ? どうしたのですの? ユーリさん? アメリアさん? あれー?」
「あ、あの。メアリー様」
「メアリーですの」
「ねぇ、メアリー」
「はいですの」
「その、聞いてもいい?」
「なんでもどうぞですの」
「「その言葉遣い誰に習った?」」
私とアメリアの声が重なる。
もうね、びっくりだよ。
「ですの」ってそんな独特の言葉遣いの人市井にいないよ?
まさかこれが王女様の市井の普通な話し言葉と思ってるんじゃ。
ないよね? あ! 王女様がメイドさんを見た。あのメイドさんはお風呂に誘いに来た人だよね。
「マーガレット、これはどういうことですか? 貴女が市井の人はそういう喋り方だと教えてくださいましたよね? わたくしも何かおかしいとは思っていました。誰もそのような話し方をしていないんですもの」
「そ、その。申し訳ありません。姫様。実は私の尊敬するネリア様から習ったのですが」
「ネリア。というと貴女がたまに槍を習っている師匠でしたかしら?」
「はい。そのネリア様がそのようにおっしゃっていたので。後、百合の意味も」
「百合の意味、ですか?」
「いえ、なんでもございません」
メイドさん、どうして私とアメリアをチラチラ見るんだろう。
ネリア。ネリアねぇ。どっかで聞いたことあるような。
少し喉乾いたかも。冷めてるけど紅茶を・・・。
「ハァ、貴女の師匠は変わった方ですのね」
「ですが姫様、今日ユーリ様とアメリア様にお会い出来たのは私の師匠・コーネリア様が2人の予定をこっそり私に教えてくださったからですよ?」
"ブーーーーーーーーっ"紅茶拭いた。ごめんなさいごめんなさい。
コーネリアァァァァァァァァア。犯人あんたか。
「ユーリ」
「そうだね。帰ったら問い詰めないといけないね。あははははっ」
乾いた笑いしか出ないよ。
私とアメリアは落ち着いた後ため息を吐く。
それを見て心配そうにする王女様ことメアリー。
「あの、私と友達になってくれるっていう言葉は無効になったりしないですよね?」
「はい。勿論です。じゃなかった。勿論だよ、メアリー」
「ハァ、良かったですの。安心ですの」
「それは結局そのままなの?」
「もう沁みついてしまったのでこのままにしますの」
そっかぁ。ほんと、うちのコーネリアが変なこと教えてごめんなさい。
叱っておきます。ともあれ。
「「これからよろしくね。メアリー」」
「はいですの」
私達はそれぞれ握手を交わす。
こうして[[紅の絆]]は王女様という恐れ多い友達と・・・。
「そうだ。皆様の後見人は任せてくださいね」
「「ありがとう(ございます)」」
この国での頼もしい後ろ盾を得た。
おかしい。真面目な話を予定していたのに気が付いたらギャグ風味。
相変わらずうちの子達はプロットを無視しますね。




