3-05.左手の薬指、その意味は
ギルドマスターとの対話から数日。
彼は約束を守ってくれた。元特別クラスのクラスメイト達を臨時講師として派遣してくれたので学園の方は一先ずは落ち着いて来た。一時はどうなることかと思ったけど、一段落ついて良かったよ。
依頼であり、私自身も思うところがあったから貴族を排除したわけだけど、そのせいで再び休園なんかになっちゃうとちょっとね。寝覚めが悪い。生徒達に罪はないしね。いやまぁ、そういう意味では貴族達にも罪はないんだけどね。だけど1日で逃げ出すような彼らがあのまま学園を牛耳ってたらきっとろくでもないことになってたと思う。だから私は反省はしない。
そう言えばそんな中でも少しはまともな貴族もいて心を入れ替えて頑張ってくれてる人達もいる。
どうして残ったのか話を聞いてみると、周りに甘やかされてこれまではなんでも出来る。自分は強い。などと思い込んでいたのが私達に手も足も出せず敗北したことでこれまでの人生自分は甘やかされてきたのだと悟って心を入れ替えたとか、逆に何も期待されず自暴自棄になっていたが私達が涼しい顔で貴族達を圧倒していく様を見て目標を見つけた気がしたからその目標に向かって頑張りたいとか。彼らは話してくれた。そのときの彼らは憑き物が落ちたみたいな顔してた。その顔見てると貴族社会も色々あるんだなぁって思ったかな。改めて、ね。
ああ、そのどちらでもなく私達目当てなのもいた。
交際やら結婚やら申し込んできて鬱陶しくて鬱陶しくて。
そんな彼らとは個別にお話をして一応引き下がってもらった。
懲りてなさそうなのもいたけど、ね。
そんな学園事情。
今日は休日。朝起きてすぐにアメリアに一緒にお出掛けしようと誘われたので王都を2人歩いている。
久しぶりに2人きりだからかな?
気持ちが妙に高ぶってる。
繋いだ手から浮かれた気分がアメリアに伝わったどうしようなんて考える。
ただでさえ私の心はそんななのに、私の歩くペースに合わせて歩いてくれてるアメリアの気遣いが嬉しい。
さり気なく周りに気を配って万が一にも私になんらかの危害が加えられないよう気にしてくれてることも私はちゃんと気付いてる。
馬車が通る道から反対側に私を歩かせてくれてることも。
良い意味で心が掻き乱される。大好きだな。幸せだなって感じる。幸せ過ぎて怖い。
こういう気持ちって本当にあるんだなって知ったよ。
アメリア。私の恋人。その顔を見てたら彼女もこっちを見て目と目が合っちゃって照れ臭くなってつい視線を逸らしてしまった。
――――まずい。今のは良くない行動だった。
アメリア傷つけてしまったかも。
すぐに反省して逸らした視線を元に戻す。
と、アメリアはまだ私を見ていた。
「あ・・・」
「えへへ。ユーリは絶対またこっち見るって思ったんだ。だってユーリ、ボクのこと好きすぎるもんね?」
その顔は明るい。怒ってないのかな? 傷ついてないのかな? アメリアが言う通りに私はアメリアが大好きだから気になる。
「怒って・・・ないの?」
聞くとアメリアは「なんで?」と聞いた後、小さく首を傾げた。可愛い。
「だって私、視線逸らしちゃったから」
「でもユーリはすぐボクを見てくれたよ?」
「そうなんだけど。でも・・・」
「ユーリってほんっと可愛いよね。だからボクは・・・」
「ん?」
「ユーリ、走れる? 急ぎで行きたいとこあるの」
「え? うん」
アメリアが私の手を引いて走り出す。
その手がさっきまでと違って少し汗ばんでるのは走り出したからかな?
商店街で賑わう人々を次々に後ろにしていく。
今日は露店にも目をくれない。
目的地までまっしぐら。
「ハァ・・・ハァ・・・」
アメリアはちゃんと私の速度に合わせて走ってくれてるんだけど、そろそろ息が切れてきた。
「ア、アメリア・・・。ちょっと休憩」
「着いたよ」
私が限界を感じたとき、丁度着いたらしい。
その場で立ち止まって荒くなった息を整える。
アメリアがそんな私を見て頭を撫でてくれ始めた。
「ごめんね? ユーリに合わせたつもりだったんだけど速かったかな?」
「そんなことない。私が体力なさすぎなだけだから・・・すー、はーーーー。もう平気」
アメリアを見て笑顔を向ける。
彼女は困ったような顔をして私を抱き締める。
どうしたんだろう? 私、困らせるようなこと言ったかな?
謝ったほうがいい? だけど意味も分からず謝ったらアメリアはきっと気を悪くする・・・よね。
「アメリア、私何かしちゃった?」
「どうして?」
「だって何か困った顔してたから」
「・・・ごめん。だってユーリが可愛すぎて。あの笑顔ははんっ、そく」
ちょっと苦しい。力入れすぎだよ。アメリア。余裕は何処いったの?
「ユーリの心臓凄くドキドキしてる。まだ息苦しい?」
「大丈夫。その、恋人に抱き締められてるのが嬉しいだけだから」
「っ。ユーリ。ユーリはボクを幸せで殺す気なの?」
「え? 死んだら困るよ。私、もっとアメリアと幸せになりたいもの」
「・・・・・・・もうこのままずっと離したくない」
「嬉しいけど、皆見てるよ?」
ここそれなりに人通りあるしね。
「そっか。それならユーリはボクのだって牽制になるね」
「そんなに心配しなくても私はアメリアの恋人だよ?」
「ハァ・・・・。ユーリ」
アメリアがゆっくり離れる。
顔が真っ赤。口を開こうとしては閉じてる。何か言いたいのかな? 私はアメリアの言葉を待つ。
「好きに際限がないって知ってたのに改めて自覚させられた気分かも」
「私もだよ?」
言うとアメリアはまたまた困った顔。
「ユーリ来て」言うと彼女は漸く来たかったお店に私を連れて歩き出す。
アクセサリ屋さん? ここで何買うんだろう? もしかして指輪・・・とか?
入店するとすぐに駆け寄ってくる人の好さそうな女性店主。
猫系の獣人族。店主は笑顔を浮かべてアメリアに話しかける。
「いらっしゃいませニャン。今日はどういった品をお探しですかニャン」
あ、これ演技だ。語尾に「ニャン」とかあざとい。接客用なんだろうな。女性特有の勘のようなもので店主のあざとさを見抜いて私はアメリアの服の裾を引く。アメリアなら万が一、ううん、億が一にもそんなあざとさにやられるなんてことはないだろうけど、まぁ一応。私の存在のアピールだ。
「おや。後ろの方は・・・」
店主が私に気付く。睨まれた。なるほど、アメリアに気があるってわけか。
この店主は私の敵に認定。もし私のアメリアに手を出したら戦争だ!!
「・・・魔道具系のアクセサリも置いてる?」
一触即発。そんな私達のことなど何処吹く風。アメリアはのほほんと店主に尋ねる。
聞かれてアメリアに笑顔を向ける店主。私を見て勝ち誇った顔をしたのが非常にムカつく。
「勿論ございますニャン。指輪ですかニャン? ネックレスですかニャン? 腕輪もありますニャン」
「指輪も欲しいけど、チョーカーもある?」
「ありますニャン。ありますニャン。ミスリルとバイコーンの角と皮で出来たものになりますニャン。少々お高くなりますニャンが大丈夫ニャン?」
なんだろう。語尾、段々聞いてるだけで苛々してきた。
アメリアに色目使ってるし。当のアメリアは意にも介してないけどさ。
気に入らない気に入らない気に入らなーい。
「それ見せて」
「はいニャン」
店主が店の奥へ。引っ込んですぐにまた出てくる。手には先程言っていたチョーカーとミスリル製らしき指輪。
チョーカーの色は黒。デザイン的には細め。前と後ろの中央にミスリル製の四角い金具が取り付けられている。前の金具は大きめ。魅せるためといったデザイン。後ろは単純にホック金具。指輪はシンプルな地球だとシルバーリングと呼ばれる感じのもの。
どちらも似合う女性には似合うんじゃないだろうか。
何気なく"じっ"と見ていると店主は私の視線からそれを隠した。
とことんソリが合わないな。面白くなくて私はそこから離れて店内の冷やかしを開始する。
アメリアの声が聞こえる。
「で、これはどういったところが魔道具なの?」
「伸縮自在で取り付け・取り外しが持ち主しか出来ないようになってるところニャン。それと保証期限が500年なところですニャン」
「その持ち主っていうのはどうやって認識するの?」
「えっと魔力を流すのニャン。それで登録可能ニャン」
「なるほど。それ買うね。あ、指輪は二つちょうだい」
「本当は大金貨2枚と金貨2枚になりますニャンが。その、お客様の連絡先を教えてもらえたらお安くも出来るニャン」
なっ。なっ!? 黙って聞いてたらいけしゃあしゃあと。
地位を利用してアメリアと近づこうとするなんて。許せない。職権乱用でしょう。それ。
「実は一目でお客様に・・・」
「はい、大金貨2枚と金貨2枚」
私が2人の間に割って入ろうとする前にアメリアはさっさと支払いを済ませる。
店主の手から商品を持ち上げてアメリアは私の方へ。
「ユーリを誰にも盗られたくないから・・・。ボクなりの牽制」
"カチッ"まずそんな音がして私の首に何かがつけられたことが分かる。
次に"しゅる"と音がしてそれが私の首にフィット。
続いて指に指輪が"そっ"と嵌められる。それもフィット。
左手の薬指。アメリアはその意味を知っててしたのかな。頬が熱くなる。
見ると彼女の顔も赤い。それはつまり分かってて私にそうしたということ。
「ボクにもつけてくれる?」
言われて指輪を手渡されたので私もアメリアの左手薬指に。
ペアリング。ミスリルの輝きが綺麗。
「似合ってる。ユーリ、可愛い」
「ありがとう、アメリア。幸せ・・・だよ」
「うん、ボクも」
「「えへへっ」」
アメリアに抱き着く私。遠くで店主が呆然とした顔でこちらを見ているのが目に映る。
舌を出すくらいのことはしてやるべきだったかな? 考えたけど無視することにした。
そうして用が終わった私達は店を後にした。
四の鐘が鳴り響く。
人々がその音に気を取られている間に・・・。
周りを素早く確認して・・・。
「アメリア」
「んっ?」
「大好き」
私はアメリアの頬にキスをした。




