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この世界が私の居場所 ~明るく楽しむ異世界生活~  作者: 彩音
第三部 一つの夢が叶うとき編
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3-04.当日だけで

 3日後。学園が本格的に動き出すそのときから私達はお仕事を開始した。

 トロールは意気揚々と学園にやってきた私を見て苦虫を噛み潰したような顔をしていたけど、ギルドの推薦とあってはさすがに断ることも出来なかったのだろう。

 抵抗することもなく大人しく私達を受け入れた。

 

「おはようございます」

「あ、おはようございます。手筈通りにお願いしますね」

「はい、任せてください」


 元特別クラスのクラスメイト。現ハンターの何人かにも協力を要請しておいたんだ。

 その協力してくれる皆とも落ち合い、私達はまず最初に教員が集まる教員室に行く。

 ・・・扉を開けただけでうんざりしてしまった。


「これは・・・予想はしていましたが」

「ですわね」


 アンナとコーネリアの倦怠を隠しもしない声のトーン。

 私はアンナとラナの2人が私達のパーティに加入してから2人に「さん」の敬称を付けるのを取りやめた。


「何々? どんな感じ?」


 ラナがアンナの体の脇から顔を出す。

 直ぐに引っ込んだ。

 私に向かって口パクで「帰って良い?」って私だって帰りたいよ。

 嫌な気持ちは分かるけどさ、仕事だからね。頑張ろうね。私も頑張るから。


「おやおや、何か臭いと思ったら平民の・・・へぶっっっ!!」

「嫌だわ。ほんとに・・・・がふっ!!」


 何か言おうとしていた女性教員2人がそれを言い終わる前に壁に向かって吹き飛んだ。

 私の隣にはその原因なアメリアがいる。目が据わっていて怖い。


「今、ユーリのこと臭いとか言ったよね。他にもそう思った奴いる・・・?」


 新任早々問題起こして。アメリアってほんとに私のこと好きすぎだよね。

 

「アメリア、落ち着いて。ね?」

「う~~~、でも」

「後でキスしてあげるから」

「分かった」


 ふぅ。機嫌治って良かった。

 さて、私は改めて教員室を軽く見る。

 見事に貴族ばかり。アメリアのおかげで今は黙っているけど、もし何もなければ私達は罵詈雑言を浴びていたことだろう。

 この貴族達からどうやって学園を乗っ取るか。

 すでに計画はある。皆で考えた。

 要はこいつら自らもうここにいたくないとそう思わせればいいのだ。

 そのためにはギルドマスターが言っていたように剣・魔法・知識でこいつらを圧倒して泣かしてしまえば・・・。

 私は小さくほくそ笑んだ。温室育ちの貴族の心がどれくらい持つか楽しみだ。


-貴族-

 三の鐘が鳴り終わろうとする頃、貴族達は早くも涙目になっていた。

 剣を教えていれば「それって何を相手にしようとしてるの? 地面に這う虫?」と心底不思議そうな顔をして獣人(セルリア)の少女に聞かれ、その言葉で怒って我を忘れて模擬戦を申し込めば秒で地面に沈まされ、魔法を教えていれば「それ詠唱終える前に貴女が死にますよね? 後威力弱すぎ・・・」と森守人(エルフ)の少女に言われ、これまた模擬戦を申し込めば秒で地面。剣も魔法も適わず知識で巻き返そうと座学を教えていれば『そこ間違ってますわ』と森守人(エルフ)? の美女から突っ込みが入って正しい知識を披露された挙句に貴族の教え方にダメ出しをされる。最早全員精神的にボロボロだった。

 これまで彼らは苦労したことなどなかった。好き放題して許されてきた。

 故にこんなことは初めての仕打ちで早くも心が折れたのだ。

 これが貴族でも家の後継ぎなどであればまだ教養など叩き込まれているからマシだっただろう。

 ところが次男・次女、それより後に生まれた子息・令嬢とくれば政略結婚の道具に役立てば良いというくらいに程々に教養をつけられて後は割と放ったらかし。そんななのであっという間に家の意向を笠に着るしかない・世間を知らない我が儘貴族が出来上がる。

 勿論、そうじゃない貴族だって沢山いる。そういう立場だからこそ親や兄・姉を見返そうと奮闘する者。領民のために何か役に立つことをしようと探し、見つけ出して実行する者。後継ぎより優秀な人物となり、結果的に代わりに後継ぎとなる者など。

 しかし悲しいかな。ここに集まった貴族はダメ貴族ばかりだったのだ。

 彼らは最終的に1日の授業が終わった後、その殆どがトロールこと学園長に辞表を出して学園を去った。


 嘘でしょ。

 トロールに学園運営のことで話があると言われ、学園長室に呼ばれた私は今日1日だけで貴族教師の殆どが学園を辞めたと聞いて呆然としていた。

 私達のせいだとトロールは眉間に青筋を立てて責任追及をしてくる。

 こうなった以上は私達全員がいなくなった教師の分まで仕事を今後ずっと肩代わりするか、或いは女性らしい(・・・・・)恰好をして辞めていった教師貴族達に謝罪しに行くかと。

 女性らしい(・・・・・)恰好ってなんだろうね?

 女だから、女のくせに、女なら。そういうのほんっとに腹が立つ。

 勝手に決めつけて見下して何様のつもりなのかって本気で思う。


「聞いているのかね?」

「聞いてます」

「どうするつもりだ? お前達のせいで人手不足になったんだぞ。このままだと学園は・・・」


 煩いなぁ。トロールのくせに。でも一理あるか。このままというわけにはいかないよね。

 仕方ない。あまり気乗りしないけどギルドマスターに相談してみるかぁ。


「これだから女は・・・」

「急用が出来たので失礼します」


 私はトロールの頭皮に最上級治癒魔法(グレーターヒール)をかける。

 代償はトロールの頭皮限定生命力。

 これで二度と頭髪が生えてくることは無い。

 たまに使わないと魔法の腕錆びるかもだしね。

 いい練習させてもらってありがとうございます。

 私は気分爽快で学園長室を退室する。

 その後ろでトロールが何か喚いていた気がするけど気のせいだろう。

 ああ、練習相手になった代金請求かな。

 銀貨3枚。私はトロールに投げ渡した。

 それでいいよね?


-ギルドマスター-

「嘘だろ?」


 学園に潜入させたBランクハンター・[[紅の絆]]ユーリから報告を受けた俺は思わずそう言ってしまった。

 幾らなんでも早すぎる。まさかこんなにも奴らが打たれ弱いとは思わなかった。

 冗談であって欲しい。もう一度ユーリに聞く。だがユーリは無情にも首を横に振ってこれが真実であると俺に告げる。


「そういうわけで人手が足りなくなったんですけど、どうしたらいいですか?」

「どうしたらってお前・・・」


 どうしたらいいんだろうな。俺が聞きたい。

 ハンターを派遣するか? しかしハンターというのは良くも悪くも粗暴な奴が多い。教師が務まりそうな奴なんて・・・。


「これは提案なんですけど、暫くの間元特別クラスのハンターを全員学園に派遣してもらえませんか? 当面それで凌ぐとしてその間にギルドマスターは手を尽くして代わりの教師を探してください」

「いや、なんで俺が」

「なんでって・・・。国に任せてたらトロールが増殖するかもしれないからに決まってるじゃないですか。将来魔物の討伐依頼を受けたはいいが実際に会うと怖くなって逃げだすようなハンターばかりになってもいいなら貴方が仕事をする必要はないですけどね?」


 顔は笑っているが目は笑っていない。

 そんなユーリの顔を見ながら俺は彼女が言ったことを想像してみる。

 いや、それどんなハンターだよ。呆れ果ててモノが言えんわ。

 そんなのばかりになるのか。終わるな。この国。皆移住を考えるだろう。俺もそうするわ。


「分かった。俺が責任を持って探しておく。それまですまないがユーリ達には教師として仕事をしてもらいたい。頼めるか?」

「報酬は?」


 報酬ってお前。まだ毟り取ろうとするのか。いい性格してやがる。

 そういうところ。ハンター向きの性格だし、嫌いじゃないぜ。


「1ヶ月大銀貨5枚」

「少ない。金貨1枚」

「大銀貨7枚でどうだ?」

「金貨2枚」

「増えてるじゃねぇか」

「金貨2枚と大銀貨1枚」

「おいちょっと待て」

「金貨2枚と大銀貨2枚。ほらさっさと決めないとどんどん増えますよ?」

「くっ、分かった。金貨1枚で手を打とう」

「金貨2枚」

「くそっ。俺の負けだ。それでいい」

「ではそういうことで。契約書書いてくださいね。また嵌められたら堪らないので」

「ああ、分かった」

 

 俺はユーリに言われた通りに契約書を書きそれを見せる。

 ユーリはなんらかの魔法を発動した?


「おい、今のはなんだ?」

「契約魔法です。約束を破った場合、貴方になんらかの不幸が訪れることになります。例えば全身の毛が抜け落ちるとか。なので、破らないでくださいね」


 なんだその恐ろしい魔法は。聞いたことないぞ。


「そんな魔法・・・」

「私だけの特別な魔法です。そういう私も効果と使い方を知ったのはつい最近なんですけどね。・・・信じられないなら破ってみたらいいですよ?」


 あの顔は破ると本気でそうなるという顔だ。

 俺は伊達にハンターを何人も見てきていない。

 ある程度嘘か本当かくらいは分かる。

 だから断言出来る。ユーリは嘘をついてない。

 破ったら全身の毛が無くなるとは恐ろしすぎる。

 これは絶対に破ることは出来ないな。


「金貨2枚か。ギルドは大損だ。それだけ出すんだ。それなりの結果残せよ?」

「全員・・・。はさすがに約束出来ないですけど、それなりの人数の生徒達を今のDランクハンターないしはCランクハンター程度の強さにまで上げる。くらいまでなら約束しますよ」

「・・・お前、さらっと恐ろしいこと言ってるが自覚あるか?」

「えっと・・・。ギルドは何か困ります?」

「いや、困らないが。むしろ大歓迎だが」

 

 本当に出来るのか? 出来そうだな。[[紅の絆]]は全員何処かおかしいからな。しかも全員自覚無しと来てる。昔は多少なりとも自分達が通常のハンターより逸脱してるって自覚があったアンナとラナもこの頃は変わり果てて平然とした顔でギルドがAランク認定してる魔物を持ってくるようになったんだよな。もう誰も止める者がいないとか、こいつら何処に向かってるんだろうな。

 ハァ、やめだやめ。考えても無駄だって、これ。

 俺は深くため息をつき、すっかり冷めた茶に手を伸ばす。


「幸せが」

「それ、絶対言わないと気が済まないのか?」


 お前も結構ため息つくだろ。

 ギルドで目撃してるぞ。


「では失礼します」

「ああ、報告お疲れさん」


 ユーリが部屋を出ていく行く。

 その途端部屋の外から聞こえてくる声。


「ハァ・・・、疲れた。癒しが欲しい」


 気持ちは分かる。

 分かるがせめてもう少し離れてから言ってくれ。

 後、今お前ため息ついただろ。

 そういうとこは歳相応の少女なんだがなぁ・・・。

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