幕間02.権力は味方だと心強い
「おっと、嬢ちゃん達ちょ~っと待ちな!」
フラグ回収。更にテンプレも回収。
私達に声をかけてきたのは筋肉隆々でスキンヘッドな男だった。
その男は私達の前に腕を組んで仁王立ち。
自分より頭一つ分から二つ分は背の低い私達を見下ろしつつ睨みで威圧をかけてくる。
ここでお約束通り騒ぎだすモブな冒険者達。
「おい、あいつゴンザレスじゃねぇか?」
「まじだ! 銀ランクのゴンザレス」
「新人殺しの異名を持つあいつか。あーあ、あの嬢ちゃん達可哀そうになぁ。ありゃ泣いちまうぞ」
銀ランクとか新人殺しとか、色々言われてるけど私はその名前がツボにはまってしまう。
ゴンザレス。名は体を表すっていうけどピッタリすぎる。
私達の前に立っているその男は確かにゴンザレスって感じの男だ。プロレスラーにいそう。
「ぷっ」
ここで笑ったら火に油。
必死に笑いを堪えて私は受付嬢さんを見る。
それは助けてって合図だったのだけど、何を勘違いしたのだろう? 受付嬢さんは私の意図とは全然違うことをなにやら説明し始める。
「冒険者にはランクがありまして・・・。最初が青銅ランク、次が鉄ランク、銀ランク、金ランク、真銀ランクという具合で上がっていって最後が真金金剛ランクとなります。なのですが真金金剛ランクは現在この大陸に3人しかおりませんので事実上真銀ランクが最強ランクのような形になっています。最もこのランクも100名もおりませんので滅多にお会い出来ませんが。・・・話がずれてしまいましたね。銀ランクのゴンザレスさんは新人・初心者を終えて中堅と呼ばれる冒険者となります。悪いことは申しませんので、その・・・衝突は避けておいたほうがいいかと思います」
「おぅ、長々とありがとよ。ってわけだ。お嬢ちゃん達。冒険者は遊びじゃねぇんだよ。おままごとなら帰って庭ででもやりな」
ドヤ顔が物凄くムカつく。
この、完全に人を見下した態度が気に食わない。
誰でも最初は初心者なのに。
っというか何故お遊びとか決めつけられないといけないんだろう。
小説の主人公達の気持ちがよく分かる。
これは実際に言われると苛々するわ。
「おい、聞いてんのか!」
己の言葉に特に反応を示さない私達にゴンザレスは苛立ちを感じ始める。
それでも無視していると私の服を掴んで目と目を合わせて啖呵を切ろうとし。
ここで様子を見守っていたアメリアが動いた。
黙って剣を抜いて私とゴンザレスの中間へ。
その刃をゴンザレスの首に突きつける。
「うおっ!!」
その一連の動きが見えなかったのだろう。
驚き、私から手を離すゴンザレス。
アメリアはそれを見て剣を収めようとする。
「次はないから」
そのセリフに逆上。
「ふざけんじゃねぇ!」
ゴンザレスはアメリアに殴りかかろうとする。
それを見てアメリアはすぐさま剣を再び振ろうと動くがそれより早く我慢出来なくなった私がやらかしてしまった。
掌底の如くゴンザレスの体に両手を突き出して風魔法発動。
横竜巻で冒険者ギルドから叩き出す。
外に出てからは縦竜巻に変えて紐なしバンジーを楽しんでもらった。
泣いて喜んでた。最後はもう全身からいろんな水分を溢れさせて何か叫んでた。
モブ冒険者達もやりたそうにしてたけど、その前にギルドマスターが出てきて残念ながらこのアトラクションは中止となった。
再開は次にまた私達に暴言とか吐くやつが出てきたらかな。
反省? してないよ? 私達被害者でしょう?
ギルドマスターに自身の部屋に連行される。
ゴンザレスの素行をギルドとして詫びつつもやりすぎだという言葉。
まだ苛立ちが収まってなかったので「そういうギルドの甘さが今まで好き勝手させてきたんでしょう」と微笑みながら言うとギルドマスターは黙ってしまった。
「異例だがお前さん達は俺の権限で鉄ランクからスタートさせる。これで今回の件手打ちにしてくれ」
買収ですか。そうですか。まぁ、面倒くさいし、もうこれ以上あいつが私達に関わらないって約束するならそれで手打ちにしてもいいんだけど・・・。
でも聞いておきたいこともあるんだよなぁ。
「最後に聞いておきたいことがあるんだけど」
「なんだ」
私がそう切り出すとギルドマスターは警戒丸出しの表情。
組織の長たる者が気持ちを顔に出しすぎるのってどうなの?
そう言えばうちの学校のクラス担任も私を苛めるときは楽しいって表情に出てたっけ。
じゃあ・・・いいのか。
「今まであいつのせいで。特に女性は何人くらい冒険者になる夢を途絶えさせられたの? 又同じように女性冒険者は何人くらいあいつに好きなようにされたの? ギルドはそれに対してどう対処したの?」
「それは・・・」
ギルドマスターから表情が消える。
ほんとに分かりやすいな。この人。何人も犠牲になった。それでギルドは何もしてないって丸分かりだよ。
「なるほど。よく分かりました」
私は、私達は顔に侮蔑の色を浮かべて席を立つ。
扉を開けて廊下に出ようとするとその前に立ち塞がるギルドマスター。
「何の真似ですか?」
「まだ答えを聞いてない」
「答え?」
「手打ちの件だ」
「ああ」
私は冷ややかに笑む。
感情を押し殺し、出来るだけ冷たく言い放つ。
「一部の男のために女性を犠牲にするギルドで登録なんてするわけないじゃないですか。するならちゃんと仕事してるギルドマスターがいる町で登録しますよ」
「なっ!!」
ギルドマスターは絶句。なんで絶句? 私何か変なこと言った? 当たり前のことだよね?
「ではごきげんよう」
最後にわざとシンシア師匠の紹介状をちらつかせて部屋を出る。
顔面蒼白だった。シンシア師匠の言う通りこの国では絶大な効果を発揮するんだね。
持ってて良かった。後ろ盾。権力は敵にすると厄介だけど、味方になってくれると心強いね。
この町の冒険者ギルドは数日後、突然の組織改編が行われたとかなんとか。
役職が総入れ替えになり、素行の悪かった冒険者が軒並み登録抹消処分を受けて闇ギルドや盗賊落ちに。
そのせいで一時期治安が悪くなったらしいけど、その頃私達は別の町で冒険者登録を行ってそこで暫く活動していたので詳しいことは知らない。
◇
その日の夜。
宿の美味しい料理を食べて部屋に戻り、洗浄魔法でさっぱりした私は昼間のことなどすっかり忘れていい気分で部屋でくつろいでいた。
ベットの上でスマホをぽちぽち。女の子の日的な意味で体に不調がくるまでの日数を調べてそろそろだということを知る。
あの痛み。私は月によって波があって酷いときは動けなくなる。
来てみないと分からない。今回は軽いといいなぁなんて思っていたら右横から差し込む影。
「ユーリ」
「何? アメリア?」
スマホを弄るのをやめ、電源を切って鞄にしまう。
一部始終を見届けてアメリアが私の体を跨ぐようにしてベットに乗っかってくる。
「約束覚えてるよね?」
「約束?」
「今夜は寝かせないっていう」
そう言えばそんなこと言ってたっけ。
結局あれはどういう・・・。
「ユーリ」
アメリアの顔が迫ってくる。
唇が唇に重ねられる。
「止まらないから」
『『手伝う!』』
その日あったことはご想像にお任せします。
こちらからは以上です。




