11.チート能力使用と旅立ちの決意
お使いと個人的な買い物を終えてシンシア師匠の家に戻ってきた。
荷物は全部アメリアに持ってもらった。
いやー、ね? これでも途中までは幾つか持ってたんだよ? ほんとだよ?
でも体力なさ過ぎて途中で力尽きてしまった。
ぜーぜー言って苦しむ様を見せてしまってアメリアにまた心配をかけた。反省。
どうにかして体力つけないとなぁ・・・。
森の近くまではアメリアが荷物を運び、森の前に着いたら人気が無いことを確認した上で獣化。
この時止めるのが一瞬遅くてアメリアの服が無残なことになってしまった。
悲しそうな顔してたのに胸が締め付けられたよ。
せっかくユーリに買ってもらったのにって泣きそうな顔してた。
頭撫でてあげて抱きついて「また買ってあげるから」って約束したら機嫌治ったけど、同衾の約束は不要だったよね? 一緒にお風呂も不要だったよね? 気が付けば要求を飲まされてた。おかしい。いつの間にか私が何かしたみたいになってるような気がする。その辺り問おうとしたけど・・・。
《ユーリ好き》
って屈託のない調子で言われたらもう何も言えない。
私はため息をついてアメリアの要求を全部飲むことにした。
森の中はアメリアの背に跨って荷物を守りながら進む。
「重くない?」って聞いてみたら《全然、ユーリはもっとお肉つけないとダメだよ!》って怒られた。藪蛇だった。
かくしてシンシア師匠の家。
ここからはシンシア師匠にも協力してもらってマウリの町で考えたことを1つ1つ実行に移していく。
まずは町で買ってきた調味料・香辛料をシンシア師匠の錬金術で増やしてもらう。
私も錬金術使えるけど、魔法と違ってどうも勝手が分かりにくくて・・・。
シンシア師匠のほうが得意なのでお願いした。
錬金術は等価交換。
交換に何を使うのかと思っていたら世界樹の葉。
ただの葉だと私は思っていたけど、これ1枚煎じて飲めば少量の魔力回復及びそこそこ深い傷<骨に達するくらいの切り傷など>をたちどころに治癒してしまう上級治療魔法と同じ効果が得られるらしい。交換品としては充分。シンシア師匠が次々調味料と香辛料を増やしていく。
後、調理器具も幾つか作成をお願いした。これは世界樹の枝と鉄鉱石に加えて、なんと! 真銀魔鉱石ことミスリルで作るらしい。なんて贅沢な調理器具。私とアメリアの武器もついでに作ってくれることになった。調理器具・私の武器、杖・アメリアの武器、剣。全て芯はミスリル。それだともし人に見られたら何かと問題になりそうなので世界樹の枝と鉄鉱石でカモフラージュ。表面はただの木、或いは鉄製品にしか見えないものが出来あがった。
「ふん。我ながらなかなかの出来だねぇ」
満足そうなシンシア師匠。
アメリアは出来あがった剣を手にはしゃいでいる。可愛い。
シンシア師匠はその様子を見て防具も作ることにしたらしい。
これによりアメリアは現在村娘風衣装の上に中身・ミスリル、外身・スチールの胸当て、ガントレット、グリーブ、革ベルト、それに剣と冒険者っぽくなった。
「アメリアかっこ可愛い~」
素敵なので頭を撫でてあげようとしたら何故か私が撫でられた。
くっ。身長差・・・。
暫くの間されるがままにされてアメリアが満足したらシンシア師匠に作ってもらった杖を早速持って外に出る。
中身・ミスリル、外身・世界樹の枝で作られた杖。見た目は普通の木作りで上の辺りがぐるっと円状になってる感じのファンタジー物でよく見るそういう杖。
杖に魔力を通す。
ミスリルだけあって魔力の伝達が素早く行われる。
師匠が媒体にミスリルを選んだのもこのためだろう。
この世界にはミスリルの上位に真金金剛石ことオリハルコンがあるけど硬さは他に追随を許さないものの魔力を伝達させるとなるとやはりミスリルには一歩も二歩も及ばない。
ミスリルは【魔鉱石】と言われるだけあってそういう力があるのだ。
魔力を持たない者が持つ武器としてはオリハルコンがいいのかもしれないけど、体内に魔力を持つ者が使うならやはりミスリルだろう。使い方次第でオリハルコンを超える場合もある。
土魔法を使用して庭に畑を作る。
次に肥料を畑に撒いて土と馴染ませて栄養を与える。
それから種だったり、球根だったり、挿し木だったりをする。
これは作る作物で元が変わるからだ。
野菜と果物。地球産の物と名前は違うけれど見た目は同じなので出来あがる味も同じだろうと買ってきた。
アップルがアープル、オレンジがオーレン、キャベツがキャベイツっていう具合。
分かりやすい。
ここで私のユニークスキル・木魔法を使用する。
これは樹木精霊の関係者? な私だけのチート能力。
作物の成長を促進させることが出来る。
魔力を畑に与える。
地球産と同じくらい。ううん、それ以上に美味しくなるように願い・味をイメージしながら畑に魔力と水魔法で水を与える。
「美味しく育てー」
一言いうだけで出てくる芽。
「美味しく育てー」
もう一度同じ言葉を発するとあっという間に作物は育ち、実をつける。
チートだよね。隣で成り行きを見守っていたシンシア師匠は少々呆れ顔。
チート能力にではなくこんなことに魔法を使う者は見たことがないという。
魔法は戦闘用と考える者が多いのだろう。魔物がいる世界なのだからそれは仕方がない。
けれどそれだけにしか魔法を使わないのは勿体ないと思う。
だって魔法だよ? 地球だと綺麗なものとか見て感動したりすると「魔法みたい」って言うことあるじゃん。
それがこの世界では本当にあるんだからさ、【魔法】をそういう用途に使いたいよ。
そんなことを考えててふと思う。
ああ、私・・・。もしかして人を喜ばせたいのかな?って。
人嫌いな筈の私が人を喜ばせたいって変な話だけど。しかし考えたことに違和感はない。
気付いてしまったら私はもう・・・。
「師匠」
顔を見るのはなんか少し怖いから正面を向いたままで。
私はシンシア師匠に自分の胸の内を明かした。
◆
シンシアはユーリが目的を見つけたことに目を細めていた。
何処か不安定で目に輝きが無いとは言わないが曇った目をしていたユーリ。
それが今は輝きに満ちた目をして自分が育てた作物と世界樹を見ている。
ユーリの目には既に別の何かが映っているのだろう。
シンシアは小さく笑う。
旅立ちを決意した弟子にしてやれること。
「10日だ。旅立ちはそれからにしな。あたしの持てる技術をユーリとアメリアに叩き込んでやる」
大賢者と呼ばれるまでに至った技術を。
シンシアはユーリが頷くのを見て自分も頷き家に向かい踵を返すのだった。
「明日から忙しくなるよ」




