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黄昏を抱く魔女  作者: 不二香
14/41

13 闇の精霊に会う魔女

今回は短いです

 気が付くとクララは、暗い場所に一人で立っていた。

 上も下も、前も後ろも、右も左も、黒一色で塗りつぶされている。足の裏に地面の固さを感じているので、宙に浮いているわけではないことがかろうじて分かった。


 よく似た場所を知っている。精霊の世界だ。何度か紛れ込んだことがあるから、クララは落ち着いていた。

 出口を探して、歩き始める。


 先ほどから契約を結んでいる精霊の名を読んではいるが、応答はない。きっとここは精霊の世界でも特殊な場所、現実から隔離されている場所だ。

 しばらく歩いていくと、不思議な鎖がぶら下がっているのを発見した。青から緑色、オレンジを経て茶色に変化していく鎖だ。鎖には精霊の力が込められている。


『ほう。久しいな』


 声がしたかと思うと、今まで何もなかった場所に目隠しされた男の姿が浮かび上がった。幼い少年のようにも見えれば、百を超える老人のようにも見える。黒い世界であっても、その髪が黒く、肌も漆黒の色をしているのが分かった。目隠しの部分だけ、煤けた白い布で、異様に浮かび上がっていた。

 彼は罪人のように、鎖にとらわれていた。

 じゃらりと、重い音が黒い世界に響く。


「久しい?」


 ここを人が訪れるのが久しいということか。


『いや、もしかすると会ったのはついさっきか? 忌々しい時の精霊の鎖のせいで、時間感覚が曖昧だ』

「あなたは闇の精霊ね」


 クララが尋ねると、男はにやりと口元を歪めた。


『半分あっていて、半分間違っているな。私はただの闇ではなく、憎悪。そして絶望だ。魔王のなりそこないだよ』

「じゃあ、あなたが魔獣の原因?」 


 まさかいきなりあたりを引くとは思わなかった。この精霊が抱える問題を解決できれば、スピリュティアを襲う魔獣が消えるはずだ。


『そうとも言えるし、違うともいえるな。私はきっかけにすぎなく、裏で糸を引くのはいつだって人間だよ。そうだろう? 精霊はいただってそこにあるだけで、そのものはないもしない。人間が望むからこそ、行動を起こす』


 そう。精霊はいただって、人間の気を引きたい。だからこそ守護をし、命を削って何かを与える。


「魔獣の発生を止めてほしいの」

『わたしに契約を持ち掛ける気か?』

「私が与えられるものなら、あげるから」

『ではそなたのすべてを』


 闇の精霊に言われて、クララはひゅっと息を飲み込んだ。腕の一本、死後の魂くらいは覚悟していたが、まさかすべてと言われるとは思わなかった。

 闇の精霊はくつくつと笑う。


『冗談だ。どのみち、私はほかのものとの契約中だ。そなたとは結べない』

「じゃあ、その契約を破棄させれば、魔獣の発生を止めてくれるのね?」


 今後魔獣が出現しないのであれば、命くらいは安いものだと思った。ウィザダネスに嫁ぐものがいなくなるが、ウィザダネスにとっての脅威もなくなるなら、それを理由に攻め込むのをやめてはくれないだろうか。


『なぜそれほどまで、魔獣に固執する?』

「……スピリュティアを守るために」


 確かに今は、まだ騎士団で魔獣の襲撃から守り切れている。だが、フィルストを襲った魔獣がこれからも大量発生するというなら、騎士団ではかなわない。精霊の魔法は、絶対ではない。


『命を懸けてまで守るものなのか』

「そう。約束だから。神の庭に還った両親との」


 魔獣が発生するよりももっと前に還らぬ人となった両親がクララに託したもの。それは森の魔女としての矜持。クララがクララたる所以の物だ。


『考えてやってもいい。魔獣発生の仕組みを止めるのではなく、スピリュティアの保護を』

「ありがとう」


 クララはそういって鎖ごと闇の精霊を抱きしめた。彼からは、ふと懐かしい匂いがした。


「でも、どうして今なの? どうせなら、この国に入った時に現れてほしかった」

『おそらく、そなたを守る力が強すぎるのだ。無防備の今、ようやくわたしを見ることができたのだろう』


 そういわれて、クララは自分の現状を思い出そうとした。


「あ」


 確か、露天風呂で倒れたのだ。しかも、素っ裸のまま。


「うわ。ごめんなさい。もう行くわ。また会えるよね?」

『そなたの守護が弱まっているときは、あるいは……』


 言葉の後半は聞こえなかった。クララの周りに精霊たちが集まってくる。闇が光りに退けられ、闇の精霊の姿が急速に遠のいていく。


 ――あるいは過ぎ去った時の中で。


 闇の中に、精霊の言葉だけがポツリと取り残された。


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