自覚した本音
戸が閉まって、部屋に二人きりになると、なんとも言えない雰囲気。
リュウの怒っているというか不機嫌そうなオーラが漂ってきて。
元凶のセイ君はさっさと退場しちゃうし。
とりあえず、謝っておくべきかなって思って。
「あの・・・なんか、ごめんね?」
上目遣いで言うと、リュウは一瞬動きを止めて、はあっと大きな溜め息を吐いた。
「・・・お前、それ意味わかって言ってんの?」
「え」
意味って・・・リュウが不機嫌そうだから・・・って、不機嫌な意味ってことよね?
セイ君が私を撫でていたのが気に入らなかったってこと?
それを面白がっていたセイ君がむかつくとか?
でも・・・。
「セイ君は、兄妹みたいなものだし、今のだって面白がってただけで、リュウが気にするようなことじゃ・・・」
「・・・だから、意味わかってないだろ」
「え」
急に手を取られて引き寄せられる。
ぎゅっと抱きしめられて。
「例えお前が兄妹みたいだと思ってたって、相手が同じように思ってるとは限らないだろうが」
「え? でも、セイ君は・・・」
「だからっ・・・もし、本当に相手が同じように思ってたって・・・嫌なんだよ、俺は」
・・・ほかの男に触らせんなよ。
耳もとで囁くように言われて。
どきっとして、胸がぎゅっとなって。
「うん・・・ごめんなさい」
謝りながら、でも嬉しくて。
リュウの胸におでこを付けて、服の裾を少し掴む。
「・・・これからは、気をつける」
言うと、リュウの腕が緩んで。
至近距離で見上げると、急にリュウの顔が赤くなった。
え?
「あ~ていうか、お前さっき赤くなってなかったか」
今は自分だって赤いくせに慌てて言うからちょっと首を傾げて。
「さっき?」
「セイに頭を撫でられてたときだよ」
ああ・・・と思って。
「学校、行きたくないなって思って」
ぽろっと本音が口に出た。
「は? それでなんで赤くなるんだよ」
「だって、それは・・・」
リュウがあからさまでバレバレだったから・・・って。
慌ててリュウの胸を押して離れる。
「・・・学校ではこういうのダメだからね」
とりあえず、釘を刺す。
本当のことを言うと、ここ何年もまともに人付き合いをしてこなかった自分には、恋人同士の付き合いって言うのが良くわからない。
人前でどういう態度でいればいいんだろう?
けど、とりあえず学校でこんなことをされたら、困る。
恥ずかしくて、本当に学校に行きたくなくなっちゃうから。
リュウはちょっと驚いたみたいに目を瞬かせて。
急にニッと楽しそうな笑みを浮かべた。
「お前、学校で俺にどんな態度とったら良いかわからないから、学校に行きたくないとか思ってるんだろ」
言い当てられてドキッとして、でも素直に認めるのも癪で、そっぽを向く。
「だって・・・いまさら、素の自分を見せるとか・・・恥ずかしいんだもの」
リュウに・・・っていうよりみんなにどんな接し方をしたらいいのかわからない。
それも本心だったから言うと、リュウは呆れたような顔をして。
「バカだな~。ヒカリはホント、そういうとこ気にしすぎなんだよ」
「でも・・・私、みんなを騙していたようなものだし・・・」
「そんなことねえよ。・・・ま、確かに盛大に猫被ってたのは確かだけどさ。別に素のお前を見たからって、誰も怒ったりしないと思うぞ」
リュウは苦笑をこぼして。
「それに、ユリちゃんとかさ、記憶のないお前見て、意外と普通で安心したって言ってたんだぞ。・・・きっと、今のお前とも仲良くしてくれるはずだからさ。友達になればいいじゃん」
「友達・・・」
思わずごくっと唾を飲み込む。
ずっと、避けていた関係だ。
だけど、でも・・・このまま自分を偽ったままでいられないことくらい、もうわかってる。
本当は、記憶をなくしてまで今の状況を変えたかった。
それが自分の本心だったんだって自覚したんだから。
ただ、友達だと思って、それがまた自分の勘違いだったら・・・。
それを考えると怖くなる、でも。
「リュウ。・・・友達ってどういう関係なのかな?」
「は?」
突然の質問に鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、リュウはぽかんとして。
それでも、どうしても訊きたかったから、じっとリュウの顔を見る。
「どうって・・・一緒につるんで楽しかったらそれで友達だろ?」
心底不思議そうな顔をして言われて。
あっさりとした答えに気が抜けた。
一緒にいて楽しかったら・・・か。
そういえば、私はあの子といて楽しかったのかな?
その後のことがつらすぎてあまり良く思い出せない。
楽しかった気もするけど、どこか気を遣っていたような気もする。
「あとは・・・そうだな。本音が言い合えたら親友じゃねえかな」
親友・・・。
やっぱり、私は何か間違っていたのかもしれない。
ずっとムキになって友達をつくらないって決めていたけど。
本当に友達だ、親友だって思っていたのなら。
あのとき、あの子とケンカになってでも、『なんで、どうして無視するの?』って、問い詰めればよかったのかもしれない。
それすら怖くて出来なくて、逃げてしまった。
いまさら気づいても遅いけれど・・・。
でも。
「そうね・・・ユリちゃんと友達になれたら嬉しいな」
これからは、変えられる。
”今”はまだ間に合うから。
それに、リュウも居てくれる。
いつも甘えっぱなしだと思うけど、やっぱり一緒にいるだけで安心できる。
学校でも大丈夫だって、不思議と信じられたから。
「リュウ・・・明日から、またよろしくね」
「なんだよ、突然あらたまって・・・・・・って、あ、ヤバ」
リュウは突然焦った声を出すと部屋の戸を開けて、階段の下を見下ろす。
「どうしたの?」
「さっき、おばさんに夕食の準備が出来たから、お前を呼んできてくれって言われて、ここに来たんだよ。・・・時間食いすぎた」
それを聞いて、慌てて二人でリビングに下りると。
「あら、もう話はすんだの?」
特に怒った様子もなくお母さんが言って。
首を傾げると。
「ヒカリの記憶が戻ったばかりで、いろいろ話したいこともあるでしょってセイ君が言うから、呼びにいくの遠慮してたのよ」
続いた言葉にセイ君を見るとニッと笑みを見せて。
「さて、主役も来たし、そろそろはじめますか」
なぜかセイ君が場を仕切って、それぞれが食卓に着く。
テーブルにはお母さんが腕によりを掛けて作った料理が並んでいた。
しかも私の好きなものばかりで。
「今日はヒカリの記憶が戻ったお祝いよ。だから、いろいろ助けてくれた二人も呼んだの」
お母さんの説明に、なるほど、だからリュウもいつものベランダからじゃなくちゃんと階段から上がってきたわけだと納得して。
「ヒカリ、本当に記憶が戻ってよかったな」
「うん、ありがとう」
改めて言われて、笑顔を返す。
本当は、迷惑をかけてごめんなさいって謝りたい気持ちのほうが大きいんだけど。
お祝いって場にはふさわしくないと思って、感謝を言葉にした。
食事は和やかな雰囲気で進んで。
途中でセイ君が。
「ヒカリ、少し変わったんじゃないか」
「え」
突然の言葉に驚いていると。
「良い意味でね・・・前より明るくなった気がする」
「・・・そう? 自分じゃ良くわからないけど・・・」
「ま、リュウ君のおかげかもしれないけどね」
耳に顔を寄せて小声で言われてどきっとすると。
「・・・近すぎ」
リュウの低い声が聞こえて、びくっとして離れる。
だけど、セイ君は不機嫌そうな顔を隠しもしないリュウを笑って見ていて。
また、からかわれてる・・・リュウも反応がわかりやすいから、いじられるんだって気づけばいいのに。
ちょっと呆れが入って苦笑して。
そんな私の様子にリュウは余計にすねたみたいになって。
それからリュウの機嫌を直すのに、時間がかかってちょっと困ったりしたけど。
全体的には楽しい夕食になって、ああ、私、本当に戻ってきたんだなって、実感したんだ。
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さて、次から頑張って学校に行きますか!




