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ヒカリとキオク  作者: 有沢 諒
ひかりときおく
19/45

ヒカリさまになった理由

この回はめちゃくちゃ説明文です。すみません。

 翌日、病院で診てもらう。

 といっても、記憶が戻ったので簡単な診察とカウンセリングだけだ。


 でも、診察のときに記憶が戻ったと医師に話すと、戻ったといっても、全部じゃないかもしれないと言われる。

 私みたいに自分に関することをすべて忘れてしまった場合、いっきに全部思い出すほうが珍しいのだとか。

 確かに、自分が誰かとか生年月日とか、リュウのこと両親のこと、セイのこととかも思い出したけど、本当はまだ思い出してないものがある可能性もゼロじゃない。

 思い出してないから自分ではわからないわけで。


 カウンセリングではそれを確認するために、過去にさかのぼって記憶を確認するってことをやった。


 すると。


「引っ越してくる前のことを覚えていない・・・?」


 実は小学2年のときに、私たち家族はこの町に引っ越してきて。

 そこからリュウともお隣同士になった。

 10年前のことだ。


 リュウのことはすべて思い出していたから、忘れたままのことがあるなんて思いもしなかったんだけど。

 それより前の記憶が全く戻っていなかった。


 幼稚園のときにすごく懐いていた先生のことも。

 引越し前に通っていた小学校の名前や、クラスの番号すら覚えてなくて。

 帰宅後、引っ越す前に住んでいた家の写真とかを見ても、全くわからなかった。


 もしかしたらほかにもまだ忘れていることがあるのかもしれない。

 そんな不安がないわけじゃなかったけれど。

 今までの、自分のことすら全くわからなかったときと比べたら、小さい頃のことを覚えてないくらいどうってことない。


 お母さんたちはちょっと不安そうな顔をしたけど。

 小さい頃のことを良く覚えてないなんてこと、普通だってあることだし。

 もしかしたら、今後なにかのきっかけでまた思い出すかもしれないんだから、気にしすぎも良くないと思って。


 それよりも現実の問題は。



「・・・学校、行きたくないな・・・」


 部屋でハンガーに吊るされた制服を見て呟く。


 記憶がないからしかたないんだけど、ほとんど素の状態で学校に通ってしまった。

 なにもかもが「ヒカリさま」らしからぬ行動で。

 今更、もとの「ヒカリさま」の行動をとるのは逆に恥ずかしい。


 でも、だからといって素の状態の自分で接するのもやっぱり恥ずかしいし。


 ・・・でも、リュウとの事もあるし、素でいくしかないんだよね。


 そもそも「ヒカリさま」なんて、呼ばれたくて呼ばれていたわけじゃないし。


 ・・・ただ、友達をつくりたくなかった、それだけで。



 中学のときに、友達をつくらないと決めた。



 私はもともと友達が多くなくて。

 小学校の頃、転校してきた時も、なかなか新しい環境に慣れなくて、馴染めなかった。

 それに、すでにできている友達の輪に入るのは難しくて。


 ただ、そのときはリュウが居た。

 家が隣だからって、けっこう我が物顔で家にも遊びに来ていて。

 本当のことを言うと、そういうちょっとずうずうしいところが最初は苦手だったんだけど。

 なかなか打ち解けられない自分をいつも仲間に誘ってくれて。

 そうして、徐々に打ち解けて、女の子の友達もできた。


 ただ、目立つのが苦手で、できるだけ大人しくしていたつもりなのに、私はよくクラスの男子にからかわれたりしていて。

 それを助けてくれたのもリュウだった。


 記憶喪失になって、いろいろリュウに助けられたけど、考えてみたら昔から私はリュウに頼りっぱなしなのかもしれない。


 だから、中学のとき、リュウと離れてから周囲とうまくいかなくなった。


 私たちの通っていた中学校はかなり大きくて。

 小学校3校がまとめてひとつの中学校に進学するから、1学年10クラスくらいあって。

 同じ学年でも、近くの教室の子達は把握できるけど、遠くの教室になると、部活が一緒だったりしない限り接点が全くない。


 そんな状況で、リュウとはクラスが離れてしまい。

 家では今までどおり会うけれど、学校では顔を見ないことも多かった。


 小学校のときに同じクラスだった子もほどんどいなくて。

 人見知りで人付き合いが苦手だった私はかなり戸惑った。


 そんなとき、声をかけてくれた子がいた。


 その子はすっごく華やかな女の子で。

 すぐにクラスの中心的な存在になった。

 男の子とも気兼ねなく話せる子で。

 明るくて社交的。

 私とは真逆な感じだった。


 彼女はなかなか仲のいい子がつくれなくて、ひとりきりだった私を気にかけてくれて。

 移動教室のときに、声をかけてくれたのをきっかけに話すようになった。

 話すといっても、彼女の話をただ聞いていることの方が多かったんだけど。

「ヒカリは聞き上手だね」なんて言われたりして。

 お互い一番仲が良いって思えて、親友ってこんな感じなのかなって思った。


 ・・・でも、結局それはただの思い込みだったんだけど。


 3年生になってしばらくした頃。

 突然、無視されるようになった。

 話しかけても答えてくれなくて。

 理由も良くわからなかった。


 誰よりも一番仲が良くて、親友だと思っていたのに。

 それが全部自分の思い込みだったってことがショックで。

 悲しくて、悔しくて、つらかった。


 理由もわからなくて、そのうち、クラスの女子たちはクラスの中心だったその子にならって、同じように無視をするようになって。

 男子はそんなことなかったけど、もともとリュウ以外の男子は、小学生に頃にからかわれたりした思い出が強くて苦手で。


 結局はひとりになった。


 でも、本当はそんな状況でも声をかけてくれる女の子が居たりもした。


 だけど・・・。


 自分から遠ざけた。

 もともと無視されだした理由もわからないし。

 無視をされるだけで、いじめとまではいかなかったけど、その子が同じようになったら申し訳ない。


 そして、そのときから友達をつくらないことを決めた。


 中学はそのまま卒業して、高校になっても、親しい人はつくらなかった。

 その上、ひとりでも大丈夫と周囲に思わせるために、不安そうな態度は見せないようにしていた。

 じゃないと、またひとりの自分を気にかけてくれる人が現れちゃうかもしれないと思って。


 毅然とした態度で、周囲の人たちとは一定の距離で付き合った。

 最低限の挨拶や受け答えはするけど、個人的なことは訊かれても話を逸らして答えなかったり。

 常に笑顔で居るように心がけた。


 そういえば、リュウはそんな私のことを「盛大に猫を被ってた」なんて言ってたけど。

 別にそういうつもりはなかったんだけどなぁ。


 ただ、そういう行動は逆に目立ってしまったみたいで。

 弱みを見せないように、きっちりまじめに行動するように心がけていたせいもあるかもしれないけど。


 そう、リュウが言っていたとおり、いつの間にか「ヒカリさま」なんて呼ばれるようになって。


 それに、あれだ・・・。


 私は基本的に目立つのが嫌いなので、自分の容姿はあまり好きじゃない。

 けど、わかってる。自分の顔が人目を引くことは。

 そして、「ヒカリさま」なんて呼ばれるようになった頃から、やたらと男子に告白されるようになった。


 でも、はっきりいって学校での自分は・・・つくりもので。

 本当は気が弱くて目立つのも苦手なのが自分なのに。

 ひとりで大丈夫って見せるために勉強もがんばっていたけど、逆に成績でも目立つようになってしまったのは誤算だった。


 告白してくる人たちはそんな本当の自分とはかけ離れた、『なにをやらせても完璧』みたいな、学校での上辺だけの私を見ている人たちで。


 もともとリュウが好きだった私は、誰とも付き合うつもりはなかったけれど、それ以前に告白されると騙しているみたいで、申し訳ない気持ちになった。


 でも、だからこそ全て躊躇いなくお断りすることが出来たんだけど。

 万が一、付き合うことになったとしても、がっかりさせるだけだと思って。

 ただ、告白してくる男子は女子に人気のある有名な人たちばかりで。

 告白されるだけでまた注目を集めてしまって、ものすごく困った。


 そんなことをしているうちに、同じクラスの人たちだけではなく、いろんな人に「ヒカリさま」呼びされるようになって。


 ・・・そうだ、結局はリュウも嘘を吐いていたわけではなくて。


 クラスで浮いていたのが呼ばれだしたはじまりで。

 そのうち告白されても絶対断る「ヒカリさま」って名前がほかのクラスや後輩たちにも広まったのだ。

 記憶がなかったとはいえ、リュウには本当に八つ当たりだったから、悪いことをしちゃったな。


 ってわけで、いまさら「いろいろ完璧なヒカリさま」を演じるなんて無理だ。


 記憶のなかった自分は、ほとんど素で行動していたし、なにより不安でリュウやユリちゃんに頼りきりだった。

 あんな姿を見せておいて、いまさら表面を装ったところでバレバレだろうし。


 そもそもリュウがいるのにポーカーフェイスでいられる自信がない。

 リュウも今までみたいに他人の振りなんてしてくれないだろう。


 それに・・・。


 リュウがほかの人と仲良くしているのを見るとむずむずする。

 それは記憶のないときにも感じていた、もやもやとした感情で。

 リュウとは高校では3年生になって初めて同じクラスになったんだけど。


 実は、それからずっと感じていたことだった。


 自分から他人の振りをしてって言ったくせに。

 本当は学校で話せないことが寂しくて。


 矛盾してる・・・いろいろと。


 本当は気が弱いくせに、完璧な優等生の「ヒカリさま」を演じたり。

 リュウに「話しかけないで」って言ったくせに、寂しくなったり。

 だから、記憶喪失なんてバカげたことを引き起こしたのかもしれない。

 自分では気づいてなかったけど。


 私、無理していたのかな・・・。


 だから、これはきっと良いきっかけなんだ。


 心の奥底では、記憶を無くしてまで今を変えたかったんだとしたら。

 今更怖気づいてもしょうがない。


 リュウもいるし、なるようになれ! よね?



 制服から視線をはずして、勉強机の小物入れを開ける。

 そこにはいろんな種類のバレッタが入っていて。

 中から一番のお気に入りを取り出した。


 高校に合格したお祝いにリュウがプレゼントしてくれたもの。

 アクリルパーツの蝶と小さめの花があしらわれた、シルバーカラーのバレッタ。

 今まで学校につけていくことはなかったんだけど・・・。


「うん、明日はこれでいこう!」


 決意を込めて口に出す。


 きらりと微かに光を返す蝶を見ていたら、なんとなく勇気付けられた気がした。



超短編予定で書き始めたための説明不足を一気に解消しようと足掻いた結果がコレで・・・うまく本編に組み込めない力量不足を痛感しました(^^;

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