城にて
* * *
『さてさて。
ミラクル迷子なリスティナ。
彼女は果たしてお家に帰れるのでしょうか?!』
とまぁ。
ふざけた音声が頭の中にこだました気がするが、気のせいだ。
「ラン? どうした?」
そう問うのはゼグロ。
私はたまたま通った廊下で、たまたま窓の外に目を向け。
思わず立ち止まっていた。
「……デカい餓鬼が迷子?」
「は? 寝言?」
「お前は、私がこの状況で寝ているとでも言いたいのか?」
「いや。言ってみただけ」
「………………」
「そんなゴミを見るような目で見んなって! 冗談だろ」
「……はぁ…………」
この馬鹿は時折本気で言う時があるから、実に厄介だ。
「…………なぁ。俺、あの魔力と髪の色、見たことあるんだが……」
「……私以上にかかわりのある貴様であれば、当然であろう」
「いや、まぁ……そうだけど……何であんなとこで泣いてるの?」
「知らん」
「ですよねぇ~! ちょっと俺、行ってくるわ」
「あぁ」
こうして、厄介ごとをゼグロに押し付け。
私はギルドに戻った。
……机上の書類は、狸に呼ばれ出て行ったとき以上に増えていた…………。
理由は簡単。
ギルドの書類整理をしていた者がとうとう倒れたそうだ。
最後の二人同時に、な……。
よって。
その仕事が私に回ってきた、ということだ。
…………私に死ねと……?
* * *
……どうしましょう。
これから……。
私、実はどこをどうしてここに来たか。
なんてこと分からないわ……。
だって。
今までこの国のお城になんて、魔術で強制的に、あっという間に召喚されていたんだもの……。
だから当然。
道なんて知るわけないじゃない!
どうやって帰ればいいの……?
…………あ。
ゲートがあった……。
そうよ!
ゲートで帰ればいいのよ!!
もう、そうと決めたらさっさと人形に戻って――。
「こんな所でどうしたの?」
聞きなれた声がしました。
誰かしら?
そう思って顔を上げました。
すると。
何故か。
目の前にしゃがみこんで私を見つめるゼグロさんが居ました。
『ゼグロさん……』
「あ~あ。目が真っ赤。じっとしててね」
『はい……』
そう言ってゼグロさんは片手で私の頭を軽く固定するようにして、もう片方の手の人差し指に白と黒の混ざった小さな陣を作り。
私の額のあたりに向けた。
……なんだか目がむずむずします。
「ちょっと気持ち悪いかもだけど、我慢ね」
『はい……』
私が返事をした少しあと。
ゼグロさんが「多分これで良し」と。
そう言って私の頭から手をどけた。
……なんだかまだむずむず…………。
…………よし。
擦っちゃえ!
と、まぁ。
そんな考えでごしごししたら、ゼグロさんからやんわり叱られました……。
……なぜ……?
「擦っちゃダメだって。また赤くなるよ」
『ぅ……。でも、むずむずして…………』
「う~ん……。良くわからないけど、しばらくしたらなくなると思うよ」
『そうなのですか……?』
「まぁ、多分」
『……多分、ですか…………』
「まぁね」
にっこりとゼグロさん。
そんなゼグロさんに、私は不安を感じました……。
……本当に、このむずむずは無くなるのかしら?
と言うより。
私の体は治癒は効かないと……。
「コレ、ただのおまじないだから」
『おまじない……?』
「そう。まぁ【おまじない】とかいて【呪い】って呼んだりするけどね」
『……え…………?』
それって、本当に大丈夫なのかしら……?
と言うより。
なんて物騒なものをかけて下さったのかしら?
もしものことが起こったらどうするの?
なんて。
ゼグロさんに限ってないわよね!
お姉様じゃないのだもの。
よかったわ!
ホッとしました。
「で。どうして泣いてたの?」
…………まぁ。
そうなりますよね……。
……別に。
私だって、好きで泣いてなんていません!
ちゃんと理由はあるの……。




