人形のまま
『……実は、道が分からなくなって。気がついたらここに流されてしまって……』
と。
まぁ。
そんなわけで。
ゼグロさんにここに来た流れを説明。
ゼグロさんはなるほどとうなずき。
「迷子か」
と。
私の心を抉った……。
『えぇ。まぁ……』
「……でも、変だね。リースが言うような人ごみが城内に押し寄せたことも、城門があっぱらぱーなんて、ありえないことだよ」
『え? じゃぁ、私、どうしてここまで……?』
「さぁ? 不思議なこともあるもんだね」
『えぇ。本当に』
「さてと。泣き止んだことだし、仕事に戻らないと」
『あ……。ご迷惑をおかけしました』
「あぁ、いいって。気にしないで」
『ですが……』
「大丈夫大丈夫。じゃ、またね!」
『あ、はい』
そう私が返事を返すよりも早く、ゼグロさんはいなくなっていました……。
転移の術式ですね。
さて。
何十人でやっと発動して、転移できるのはたったの一人と言う祖国の王宮魔導師達は、この国ではどれほどの力の持ち主となるのでしょう…………?
なんて。
とてもとても失礼な疑問が頭をかすめた。
だから私はその疑問を早々に忘れ。
踵を返し、家路につきました。
……といっても、まぁ。
人形になったまま城門を過ぎたところで、『何故人形になっているのか』を思い出したのでゲートを使って屋敷に帰りました。
…………私ったら、うっかりし過ぎね……。
でも。
そんなうっかり屋な私でも、直接屋敷内にゲートを繋げるなんて事。
出来るわけないでしょう……?
だから私。
良くわからないのだけれど、何処かの町の広場に居るの……。
広場中央には色とりどりの花が植えられた花壇があって、その真ん中には今日の日付と現在の時刻。
冬の90日の十一時二十三分を示している魔力掲示板があるの。
私はそれを眺められる位置に置いてあるベンチに腰掛けて……人形のままだということに気がづいた。
…………今更、人型に戻っても奇妙よね……。
もう良いわ。
このまま人形でいましょ……。
……あぁ。
それにしても。
せっかく市に出かけたというのに、何も買えなかったわ……。
お姉様のお話だと、面白いものがたくさんあるとのことでしたのに……。
はぁ……。
…………あら?
ちょっと待って。
以前ミリーに掛けられていた記憶操作の術……。
あれって、もしかして……たいしたことなかったのかしら…………?
そして。
私はそのたいしたことのない術を解除することすら――……やめましょう。
空しくなるだけだわ……。
過去の事は忘れましょう。
それでなければ、この国の人々が異常なのだと。
認識を改めましょう……。
……まぁ、今更なのですがね…………。
『うふふ……。空しい…………』
泣きたくなるわ……。
私はそこまで考えて、膝を抱えて立てた膝に頭を載せた。
『どうせ……私なんて魔力が盛大に偏っててまともに扱えないし、部屋の明かりすらつかないし、蛇口すら回らないし、コンロも使えない。全面介護状態のダメ人間ですよ。使用人をしてくれている皆が居なければ私なんて、私なんて……』
嗚呼。
本当に、私は皆に迷惑をかけているのね……。
しかも。
今日も盛大に迷惑をかけたし。
何より、心配させちゃったよね……。
……こんなことになるなら。
もう少し、ちゃんと考えるべきだったわ…………。
後。
ここ。
どこ、かしら……?
『ふっ……くっ……ぅ~~~~~っ』
再びあふれ始めた涙に、私は両手で顔を覆った。
いくらゲートでどこへでも行けるからって、油断し過ぎたのよ……。
というより。
ここはどこ?
屋敷とどれくらい離れているの?
そもそもここは屋敷のある国なの?
このゲートはどこへでも行けるみたいなのよ。
だから、海を越えていたりしないわよね?
あぁ、でも魔力掲示板があるということは、大陸から離れてはいないのよね?
だって。
魔力掲示板だなんて……。
って。
どっちにしても私――
『また、ひっ……まい、ごっ…………!』
くやしい……。
なにに悔しいのか、ですって?
そんなもの。
自分に対して以外にないでしょう?!