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名門貴族の変嬢  作者: 双葉小鳥
ギルド長の閑話 
92/104

第九話 がれき

「ぅっ……ん~…………」


 魔力回復のための眠りより目が覚めた。

 室内に差し込む光は淡い夜の色をしている。

 入り口付近に取り付けた壁掛け時計は午前四時を示していた。

 日付は不明。

 だが、私の体は相当長い間眠っていたことを示すかのように、少し首を動かしただけであちこちに痛みが走った。 

 が。

 いつまでも寝てはいられない。

 私は肘に力を入れ。

 ゆっくりと上体を起こそうとし――何故か抱え込んでいた女の淡い橙の瞳とぶつかった……。

 女――と言うよりは少女、だな。

 私は目の前の現実に、言葉を失い。

 その少女を自室に残したまま、己がギルドに移動した。

 単なる現実逃避だ。

 仕事ならば自宅でもできるのだから……。

 

 ………………。

 …………………………。

 …………そう言う訳で。

 確かに、移動した……はずなのだが…………。

 がれきの山の前にいるのはなぜだ……。

 がれきしか無い。

 否。

 正しくは、『見渡す限りが破壊されている』……。

 この現実に何も考えられなくなり、ただただ立ち尽くした。



 ―――――――――――


 ――――――――


 いつまでそう、立ち尽くしていただろうか……。


「……ギルド、長…………?」

「え? あ……」

「ます、た…………」



 聞き覚えのある声が聞こえた。



「本当だ、マスターだ……。 マスター……っ!!」

「目が、目が覚めたんだなっ!」

「ギルド長! ギルド長ーー!!」



 駆け寄って来たのは、中年の男二人と幼さのある少年。

 三人が三人とも目に涙を浮かべている。

 とりあえず状況を把握するため問うた。



「これは、何があった……」

「ぁ……。ぁあ、それは……その、なぁ?」

「ぁ、あぁ……だな……」

「はい……です…………」



 右から左に顔を見合わせ、意味のない言葉を吐く男ども。

 質問の答えにはなっていない。

 だが、ある程度は把握した……。


「セイニィ・ルフィス。か……」



 化け物の名を出すと、三人が三人。

 一斉に青ざめ、震えだした……。



「あれは、あれは……ばけものだ…………」

「人を人とも思っていない……」



 今更、何を……。

 あの化け物が私たちを人を人と認識していたとでも思っていたのか……?



「あんな、ちから……ひと、じゃない、人なんかじゃ、ありませんっ……」


 震える声でそう告げた少年は激しく怯えていた。

 まぁ。

 当然だな……。

 特級、上級、中級、下級。

 そのランクのうち。

 彼らのように薬草を集めたり、家事手伝いなどを担当してくれている中級や下級では、な……。

 恐らく、報告に来ていたところで出くわしたのであろう。

 憐れの一言に尽きるな。

 …………はぁ。

 これにより、何名ほど除名を願ってくるだろうか……。

 ……ギルドの者たちに怪我がなければ良いが……。



「他の者たちはどこだ?」

「……少し離れたとこの仮設のギルドだ」



 中年の男の一人がそう答えた。

 男の表情などから、ある程度は把握したが、念のために問う。 



「…………ここに、人手は……?」

「……魔術を使える奴ら全員、国境と山奥で戦闘中と聞いてる」

「嗚呼。ここいらに居るのは俺らみたいな、報告に来た中級以下のギルド員だ」

「…………そうか……すまない」  



 謝罪を口にし、男たちからがれきの山に目を移す。

 軽く息を吸い、吐くとともに、術式を展開。

 術式は言うまでもなく修復のものだ。

 発動させるとともに、体に溢れていたものが術式を伝い、体からあふれた。 

 刹那。

 がれきと化していた魔導師ギルドの本拠地である。

 『魔獣討伐・薬草採取・家事手伝いなどなど、なんでもござれ。来るもの拒まず去る優秀な者は引き留めたい組合』と言ったふざけた組合の建物が修復された。

 ふざけた組合名を考えたのはゼグロだ…………。

 こちらは了解してなどいないと言うのに、私を勝手に長に設定し、立ち上げ。

 私に押し付けてきた。

 なんでも、『おもしろそうだったから』なのだそうだ。

 

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