表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名門貴族の変嬢  作者: 双葉小鳥
ギルド長の閑話 
86/104

第四話 自宅

 王宮から自宅玄関内に転移した私は、玄関扉の鍵を閉め。

 魔術での干渉を不可能とするべく術を展開、発動させた。


「チッ……」


 苛立ちまぎれの舌打ち。



「おかえりなさいませ。今日もご機嫌斜めですねぇ」



 足音無く、廊下の奥から現れたのは幼いころより見慣れた老執事・カロン。

 彼は穏やかな笑みを浮かべている。



「どこかの土地が消し飛びましたかな?」

「違う」

「ふむ。ではまた、ルフィス候ですかな?」

「……その名を出すな。頭が痛くなる」

「おやおや。相当なトラウマですなぁ……ほっほっほっ」

「………………」

「さてと。今朝早くからのお出かけでしたから、さぞお腹が減っているでしょう。昼も過ぎておりますが、昼食を用意させましょう」


 カロンはそう言い。

 踵を返した。



「お部屋にお持ちしますよ。それまでは着替えてゆっくりなさい」



 首を捻ってこちらを向き、笑みを浮かべ。

 彼は再び廊下の奥へと消えた。


 ……私の意見を聞くように見せてまったく聞かない。  


 咎めぬのかと良く聞かれはするが、カロンは私が物心ついた頃より存在している。

 家族と言っても良いほどの存在だ。

 咎める気など毛頭ない。

 父であり、祖父であり、良き理解者だ。

 私はそんなカロンの言葉に従い、私室に戻った。



 ―――――――――


 ―――――――



 

 着替えようとしてふと、ジャケットを置いて来てしまったことを思い出した。


 が。


 また今度で良いと考えなおし、タイを解き、ソファーの背に掛け。

 鳥が描かれたシルバーのカフスを外し。

 身を屈め、ローテーブルの上に置き。

 身を起こしつつ、シャツの第一ボタンを外し……――


 視界の端に寝台が映った。



「……………………やられた……」



 …………嗚呼。

 何故私は屋敷の鍵を先に占めたのだろうな。

 優先すべきは術式であっただろうに……。

 否。

 それ以前に、あの馬鹿どもを去り際に解凍するのではなかった……。

 後悔しても意味はないが軽率だったことは否めない。

 あちらにはあの馬鹿が居たというのに。


 若干鬱々としつつも寝台に近づき、娘の形をした人形を見た。


 狸の前に出した際のジャケットを羽織っただけの裸同然の姿ではなく、色白の肌に純白のドレスを身に着け。

 淡い栗色の髪は左肩から出すように三つ編みされ。

 それを止めているのはドレスと同じ色のリボンと花飾り。

 右側頭部には真珠のあしらわれた大きな花飾りがある。


 …………そして。


 何故かベールまでもが頭に載っていた…………。 




 思わず片手を顔に当て、天を仰いだ。

 天よ。

 神よ。

 私のこのざまがさぞかし、おかしかろう……?


 ………………今は楽しむが良いさ。


 私は死後、そちらに向かった際に貴様を狩りに参るゆえ。

 楽しみにしておけ……。



「ふ……ふふ」



 嗚呼。

 ドゥヴィラスに懇願されようともあの馬鹿どもを氷漬けにして留めておくべきだった……。


 後で覚えておけ、ゼグロ。

 貴様は固める。


 狸は手足を縛って吊るす。


 屑は自慢の錆色の髪に黒を混ぜ、まだらに染めてやろうではないか。   


 ……あぁ、そうか。


 そうだな。

 あのシスコン女をけしかければ良いのか……。


 『お前の妹にあらぬ目を向けているぞ』


 と、告げればよいのか。 

 なに、嘘でもなければ真実でもない言葉だ。

 きっと。


 あのシスコンは突進していってくれようて…………。 



「く……はははっ…………」



 明日、覚悟しておくが良い、馬鹿どもめがっ……。




 ――――ガシャーーンッ!



 唐突に出入り口より響いた音。

 気になりそちらを見てみると、顔面蒼白のカロン。

 足元には砕けた食器と散らばった料理。



「そ、んな……。そんな、ばか、な……。私の自慢の坊ちゃんが、幼き頃より眉宇秀麗、文武両道で魔導師の上位者たる、私の自慢の主人が……!」

「おい。カロン……?」



 震える己が両手のひらを見つめ、頭を左右に緩く振るカロン。


 どうしたんだ急に。



「ロリコンだったなんてっ……!」

「いや。おい――」



 人を変態みたいに言うな。


 

「随分ご無沙汰だったのは知っていたが、少女を拉致して、そんな恰好をっ…………!!」



 いや、なんでご無沙汰だと知っているんだ?

 というより落ち着け。

 カロンよ……。

 お前の健康に悪い。



「うそ、だ……嘘だ! 私は、私はっ……!」

「落ち着――」  

「そんな風に育てたつもりはないっ!!」

「いや、だから――」

「正気に戻れっ! この愚か者ぉぉぉ!!」



 そう言ってカロンは両手に長剣を出現させ、襲いかかってきた。



 ……とりあえず、話を聞け…………。


 後、その体に障るから興奮しないでくれ。

 また血圧が上がるぞ……。



「だから落ち着けと言っているだろう……」

「問答無用っ!」



 右手に持つ剣を私の頭上に振りかぶったカロン。

 そんな彼の動きを、術を展開、発動させ。

 止めた。



「体に障る。頼むから落ち着いてくれ」

「……!!」

「すまない。言葉は出ないようにしてもらった。そうでなければお前は話を聞かぬのでな」

「…………!」

「これはとある依頼でな、報告をして押し付けてきたつもりが、押し付けられたようだ」



 鋭い目でにらんでくるカロンに背を向け。

 娘の方を向いた。

 今の今まで全力で見なかったことにして、知らなかった事にしたかったが。

 娘の胸の上で組まれた指。


 その上に置かれた一通の手紙を手に取った。



 ―――――――――


 ―――――――

 カロン

 榛色の髪と瞳を持つ、ランの執事。

 齢五十四の戦える執事。

 ラン相手だと思い込んだら話を聞かない人。

 ラン以外であればそんなことはなく、しっかり話を聞き、状況を把握する出来た人。


 やっと人形の容姿判明。

 名前、生死、年齢不明。

 ランがロリコン扱いされる顔。

 淡い栗色の髪と色白の肌。

 ウエディングドレス着用。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ