★ 『第十話』 石
静かな暗い闇と居心地の良い暖かさ。
それはとても気持ちが良くて、ホッとします。
もうずっとこうして居たいわ……。
でも……。
それなのに、まぶしい…………。
「んぅ…………」
もう、朝なの……?
早いわ。
もう少し、この居心地のいい場所に居たいのに……。
…………後少しだけ……。
「とりあえず、起きない?」
「ぅっ……ぃゃ……」
「『いや』って……。困ったな……」
……………………ん?
あら?
今、知らない男性の声が……しなかった、かしら?
私の気のせい?
……そうよね。
気のせいよね。
だいたい、私が知らない声を寝室で聞くはずがないもの。
でも、もしかしたら……。
「あ。起きた?」
目を開けてみたら、視界一杯に青い髪を後ろになでつけた、紫色の瞳。
その瞳の目尻は垂れていて……。
そうね。
なんだか胡散臭そうな顔をしているわ。
「うん。酷いな……」
胡散臭そうな人はそう言って笑ったの。
……一層胡散臭かったわ。
って。
そうではなくて。
「あなたは……だれ…………? それに、ここは……?」
そうなの。
見渡す限り真っ暗。
もう、本当にどこなのかしら。
お屋敷の外ならテノール達が心配しちゃうわ。
「大丈夫。君はどこにも行っていない。俺が来ただけ」
「あなたが、『来た』……?」
「うん。俺が君の夢の中に来ただけ」
「…………ゆ、め……?」
「そう。夢」
胡散臭い人はそう言いました。
何のことやらさっぱりわかりません。
分からないものは分からないということで、考えるのを放棄します。
「いや。ちょっとは考えよう?」
呆れ顔で苦笑されました。
何故かしら?
「あと君、色々覚えようね。人の顔とか名前とか」
「え? 覚えていますわ」
失礼ね。
私、ちゃんとみんなの顔は覚えているし、名前と声もしっかり覚えているのよ?
「じゃぁ、今君が居る大陸の名は? 国の名は? 王の名は?」
………………そ、そんなに矢継ぎ早に言わなくても――――
「わかんないだろ? まぁ、分かんないのは良いとして。本題に入るから」
「……? 本題、ですの?」
「うん、そう。君さ、一番新しいので、死んだときの記憶があるよね」
「え……?」
それって……私が驚きすぎて槍を落とした――
「そう、それ。【弟を庇って死んだ】ってやつ。あれなんだけどさ。本当は無かったんだよね。戦そのものが、さ……」
「どういうことですの……?」
「あぁ。俺のシナリオだと、君はイルディオでほのぼの隠居生活送ってる予定だったんだ。まぁ、たまにイベント起こす予定だったけど」
「あの、えっと、ごめんなさい。良くわかりません……」
「…………まぁいいや。コレあげる」
そういって手渡された物は、小さな琥珀色の石と、深い緑の石。
それら二つはとても綺麗。
とても濃い色をしているというのに、とても透き通っている。
不思議な石。
「綺麗……」
「そいつら転生の順番来たってのに、転生じゃなくて戻せと言ってうるさくてねぇ……。俺が手を加えても良いけど矛盾が生じるからさ、テキトーに体作ってやって。そしたら勝手に意識持つから」
男性はそれだけ言って『じゃね』って。
そう言ったかと思うと、私は何も感じなかったはずなのに、突如として重みを感じました。
………………この重みは、お布団?
……まぁ。
とりあえず状況の確認を――――と思って目を開けたのですか、真っ暗です。
…………明かりを……。
そう思い手探りでベットを抜け出そうとして、気がつきました。
私、右の手になにやら丸いようなものを握っているようです。
ためしにそれを落とさないようにそっと右の手を開いてみました。
…………暗くて見えません……。
当たり前ね。
私ッたら、何を考えていたのかしら……。
部屋が真っ暗なのだから、見えるはずがないのに……。
まぁ良いわ。
とりあえず無くさないようにしっかり握って明かりを探します。
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