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名門貴族の変嬢  作者: 双葉小鳥
最終章 変嬢の行く末
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★ 『第八話』 驚愕

 さて。

 敵も降伏してくれるそうですから、ミリーの様子を――――


 そう思って槍に問うと、槍は信じられないものを私に見せました。 


『っ……?!』


 あまりにもショックで、涙が頬を伝い。

 思わず槍から手を離して口元を覆ってしまい、私の手を離れた槍はカランと音を立て。

 それを見たマリアとメイサが不思議そうに問うてきたけれど、私はそれどころではなかった。

 私に動揺を与え、さらに感情を支配したモノ。

 それはとても激しい怒り。

 でもそれは私の中で急激に冷え。

 固く。

 固く固まった……。

 

 だって。

 だって……ミリーの頬が赤く張れているの…………。

 ミリーの口元からは血。

 あの子は両手で顔を覆い。

 肩を震わせ……怯えたように声を殺して…………泣いていたのです……。


 だれ……。

 誰なの?

 わたしの……ミリーに。

 私の家族に、こんなことをしたのはっ……!


「お嬢様?」

「いかがなさいました?」


 心配してくれる二人。

 私はそんな二人に問う。


『遠くの、不特定多数に声を聞かせる力を持つ人はいるかしら?』

「それでしたら、メイサが」

「えぇ。お聞かせ願えますでしょうか?」

『……ありがとう。でもその前に、テノールと料理長、ルシオとゼシオに聞きたいことがあるの。呼んでくれるかしら?』

「かしこまりました」


 笑顔でメイサは頷いてくれたわ。

 それから彼女は『姫様がお呼びです』と呟いた。

 私はその間に本体へと姿を変えた。

 


「姫さん具合でも悪くなったか? 悪いんだったら無理すんな。帰ろう」


 やってきてすぐ、料理長に抱きしめられ、一息に言われました。

 ……料理長。

 お願い。

 締め上げないで……。


「「ふっ…………」」


 そこの双子!

 『ざまぁ』じゃないでしょっ?!


「「………………」」

 

 『めんどくさい』でもないでしょう?!

 ねぇ、助けてよっ!!

 息がっ……!


「お嬢様。何かございましたでしょうか?」

 

 ばりっと音が聞こえそうなほど勢いよく料理長がはがされたわ。

 おかげで窒息しなくて済みました。

 ありがとう、テノール!

 って。

 それではなくてね。

 

「メイサ、お願いね?」


 そう言うとメイサが微笑んで頷いてくれ、私たちの足元に、桃とも紫とも言い難い色の陣を展開し、発動させました。

 だから話をします。


「……ねぇ、皆? 私、あの国を強奪しようと思うの。ざっと見積もって、何時間かかるかしら?」

「……『あの国』と申されますと、シャティフィーヌ殿下を攫った揚句、こちらに戦を仕掛けてきたゴミ屑な国の事でしょうか?」

 私の考えを一瞬で理解した様子の四人。

「えぇ。そうよ」  

 私はテノールの問いに笑顔で肯定する。

 そうしたら料理長がクックッと笑ったわ。

「んなもん、一時――いや、そんなにいらねぇな。一刻で余裕がありすぎるくらいだな」

 耐え切れなくなったのかげらげらっと下品な声を上げて笑ったの。


「瞬殺」

「抹殺」

「「皆殺しも可」」


 綺麗に声をそろえた双子。

 私はそんな双子に衝撃を受けました。

 だって、片割れが話をしたらもう一方の片割れは口を開かないのですよ?

 それなのに……。 

 『瞬殺』の『しゅん』と『抹殺』の『まっ』だけが違うだけで、一語一句違いがなかったのです!

 ……やっぱり双子だからかしら?

 ねぇ。

 やっぱり双子だからなの?

 だから声がそろうの?

 声の高さも一緒だったのよ。

 本当に不思議ね。

 この双子…………。

 ……って、そうではなくて!

 何と答えれば良いの?

 ねぇ。

 誰か、教えてちょうだい。

 今ね。

 隣国にリアルタイムでここの会話が流れているの。

 私、あまりにもイレギュラーなことが起こってしまったから、頭の中がショートしてしまったみたいだわ。


「……とにかく。俺たちは殿下の救出と、アノ国の王侯貴族と軍上層部を消してきます」

「あぁ。直ぐに終わらせてくる」

「「………………」」


 にたりと笑みを浮かべた四人。

 私はそんな彼らに何と声をかけたら良いのか解らず。

 とりあえず『お願いね』とだけ声をかけました。

 これに四人は頷き、サッと姿を消したのでした……。

 ……えっと。

 嗚呼。

 そうだったわ。


「メイサ。ありがとう」

「いえ」


 そう言ってメイサは微笑み、陣を消しました。

 彼女の笑みを見て、心が和みました。


 …………あら?

 私確か、ミリーの事で怒って……?

 おかしいわ。

 だって心がこんなに穏やかに…………って。

 嗚呼。

 そうね。

 そうよ。

 あのイレギュラーなことをしでかしてくれた双子のせいで、その感情が吹っ飛んでしまったのね……。

 なんて考えていたら、戦場をかけていた凶悪な集団の姿がありません。

 いつの間に居なくなったのかしら?

 

 ――――ドォオオオオン

 

 激しい地響きと爆音が響きました。

 そしてそれに次ぐかのような発光と煙。

 それらは敵国の方角からです。

 

 とりあえず、槍を拾いましょう。

 ………でも……。

 困ったわね。

 皆があまりにも頼もしくて、この槍の使い道が分からないわ……。

 いえ。

 まぁ、自衛のためと言うのも分かるのですよ。

 えぇ。

 分かりますとも。


 ――それから。

 料理長の言ったように一刻ほどもたたず。

 いつも通りの様子に戻った皆が笑みを浮かべ、戻ってきました。

 料理長の手には丸められた羊皮紙が……。

 内容はというと……。


 国を『リスティナ・ファスティ』に丸ごと譲る。

 何があっても異議を唱えない。

 何があっても命令に従う。


 その三つが描かれていたの……。  

 しかも恐ろしいことにこの羊皮紙。

 実は羊皮紙ではなく、呪いで作られた羊皮紙だったわ……。

 ちなみに。

 もしこれに署名した契約者が反した場合。

 王族の血を引くすべてのモノ……つまり、国民全員の命を奪う。

 なんて、効果がある契約書だったわ……。

 …………なんて物騒なのかしら……。


「り、す……。っ……リースっ!!」


 両手を広げて駆け寄ってくる、以前より成長したあの子……。

 彼女は最後に会ったとき以上に立派な大人の女性になっていたわ……。

 怪我も治っている。

 良かった……。

 無事で…………。

 私は思わず、またもや槍から手を離し、駆け出した。

  

「ミリーっ……!」


 私は彼女を呼んで。

 駆けてきた彼女を抱きしめた。

 

「無事で……。無事で、本当に良かった…………」

「うん。リースも……」

「ミリー……」

「なぁに、リース」


 私を見つめる。

 涙をいっぱいに溜めた茶色の優しい瞳。

 目の周りが張れていないのは、誰かが治療してくれたのでしょう。

 でも……。

  


「…………遅くなってしまって、ごめんなさい……。怖かったわね……」

「りぃす……」

「もう、大丈夫よ……。だいじょうぶ」

「っ……ふっ…………。ぅん……。こわ、かっ…………っ~~~」


 

 私のその言葉に、ミリーの瞳に溜まっていた雫があふれて零れ。

 ミリーはワッと声を上げて泣いた。

 私はただ。

 ミリーを抱きしめ、背を摩るしかできないから、優しく。

 背を撫でた……。




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