第七話 矢
はぁ……。
なんだが、戦場が混沌と化しているようにおもえるの……。
何故って?
そんなの、使用人をしてくれている皆が誰かわからないくらい、豹変しているからよ…………。
ついでにみんな笑顔なの。
ハッキリ言って怖いわ……。
………………もうこうなったら、目をそらします。
そうでもしないと私の精神衛生上悪そうだから……。
あ、そうだわ。
味方の様子を把握しておかなくてはいけませんね。
でもどうやって確認しようかしら……?
なんて考えていたら、頭の中にこの場が見え。
ぎゅんと上空に遠ざかり、私たちが小さく見えます。
そしてそれからびゅんと、上空からの映像が飛びぬけ。
ここから離れたある一点で止まった。
なんだろうと考えていると、ぐんと降下。
見えたものは。
とても危険な呪を纏った矢と、それを弓に構えている魔導師らしき者と、狙われている味方……。
その味方は敵と対峙しています。
勢いは味方が優勢。
そんな中。
当たり前のように、魔導師はただ一人を狙っていました。
それは誰か。
簡単です。
この場を指揮し、敵を退け終えようとしている指導者。
でも、その指導者は…………私が見慣れた、銀髪に空色の瞳を持つ青年……。
魔導師は彼を狙って、大きく引き。
矢は……放たれた…………。
「?!」
私は驚きのあまり槍を落とし。
でもそれに気づくことなく人形の姿になり、ゲートをくぐりぬけた。
けれど。
潜り抜けたは良いのだけれど、矢がどこに飛んでくるのかなんて、予測できない。
この小さな、小さな体では……小さすぎる……。
私は刹那にそう考え、彼のすぐ横で本体に戻った。
「っぅ…………」
「ぇ……?」
「「「「?!」」」」
私は胸のあたりに、矢を受けた。
もう少し判断が遅れていれば、この矢は彼にあたり、この矢の呪でファスティの血が途絶えていたわ。
父様と母様が酷く嘆いたことでしょう。
私は私が許せず、きっと後悔ばかりをしていたと思うの。
「お、あね……う、え…………?」
戸惑ったようすで私を呼ぶ彼に、私は彼が生きている事が嬉しくて、頬笑む。
混乱しているように見えたけれど、味方は敵を退けていました。
さすがね。
さてそれは置いておいて。
私はこんなものを放ってきた魔導師に仕返しをしなくてはいけませんわね。
ギュッと矢を握り、それを引き抜く。
当たり前ですが、血が沢山噴き出してきました。
痛みは不明です。
分からないの。
だって、この矢が纏っていた呪は、体の内から壊して行くものだから……。
……初めに痛覚を麻痺させるの。
それからじわりじわりと体の内を食らう。
解呪は……不可能。
だから私は…………。
もう、長くない……。
だったら。
それなら…………命尽きる前にあの子の、ミリーのもとへ。
「これは返すわ。受け取りなさい」
だからせめてもの腹いせに、私は体から引き抜いた矢に回避不可能で必ず対象物を貫く呪を掛け。
死ななくなる呪。
一生痛みに悶え苦しむ呪。
傷が癒えることのない呪。
そして。
それらが解呪不可能になる呪いを掛け、手を離した。
矢はふわりと浮かび。
一直線に対象物へと飛んで行く。
もちろん対象物はあの魔導師ただ一人。
他のものになど当たらない。
当ててなど、やらない。
直ぐに矢が当たった手ごたえと、矢にかけていた呪の発動を感じた。




