第六話 ケーキ
にしても。
口の中の水分が奪われて苦しいわ……。
「ミリー。紅茶を入れてちょうだい」
「はい、お嬢様」
笑みを浮かべてミリーは頷き、テーブルの上。
彼女が淹れたリンゴ入りの紅茶に手を伸ばす。
「新しいものがいいわ。そうね。それと、カップも変えて来てくれるかしら?」
「え……? でも、いつもは――――」
きょとんとして見せるミリー。
……どうしてこうも無防備なのかしら?
「そうね。でも今日はきっと何か良くないモノが入れられていると思うから、お願いよ」
「? はぁ……分かりました。ではちょっと行ってきますね?」
「えぇ。行ってらっしゃい。知らない人に会ったらすぐに逃げるのよ?」
「え? お屋敷の中で、ですか……?」
こてんと首をかしげる彼女に、私は微笑むだけにとどめ。
見送った。
はぁ……。
やっと一人になれたわ……。
まったく。
隠し子の次は侵入者、ね……。
しかも、テノールの様子だと、厄介な者かもしれないわね。
だって。
私が一度飲んだ紅茶に変なものを入れるんだもの。
よほど己の腕に自信があるようね。
じゃなければ、私が気づかないほどにテノールが気配を消して部屋に入ってくるなんて、ありえないもの。
あぁ。
せっかくぬるくなって、飲み頃だった紅茶が台無し……。
はぁ……。
…………まぁ、紅茶は忘れましょう。
今、考えるべきは隠し子と、母様よ。
まず隠し子。
仲良く出来るかと問われれば、否。でしょうね。
だって考えてみてくださいな。
家のためとはいえ。
父が、母を裏切ったのですよ?
……まぁ。
ありふれた物語や噂と違い『お前の弟だ。仲良くしなさい』と言わなかったところは評価しますが……。
その程度ですね。
今後かかわりを持つことはないでしょう。
この屋敷はあの少年が次ぐでしょうし、私は何処かへと嫁するでしょうから。
…………放置、で。
次に母様ね。
カンナにすがったという所で、今ごろ泣いておられるでしょう。
母様が物心ついたころから共にいたというカンナ。
彼女は母様と強い信頼関係を築いていて、母様は彼女にだけ弱みを見せ。
カンナもまた、母様に弱みを見せる。
互いが互いに依存している、と笑って母たちは言っていました。
まぁ。
カンナが傍に居るのであれば、母様が落ち着くのはすぐでしょうね。
ということで。
問題はなくなったわ。
そして眠い。
きっと料理長のしわざね……。
【劇的ケーキ】じゃなくって本当は【睡眠ケーキ】なんでしょ?
もう。
『変なもの盛らないで』って。
いつも言ってるのに……。
目が覚めたら、料理長に文句……言わなくちゃ…………。
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