第五話 父親
「ねぇ。セイニィ?」
「……何よ」
「勝手に僕をしゃべれなくして、存在を希薄にするのって本当にやめてくれる?」
「あら。存在を消してほしいの? よろしくてよ。私直々に手を下して差し上げますわ」
「いやいやいや。こんなに美しい僕が消えたらファランの民と国が悲しむだろう?」
「あら。諸手を上げて喜ぶのではなくて?」
「……本当に君って、性格悪いよね」
「あなたほど崩壊してなくてよ?」
「君の方が酷いよ」
「なんですって?」
「何かな?」
……その数分後。
彼らの居た屋敷は無傷の二人を残し、その場に崩れ落ちたのだった……。
自軍天幕にて今後の策を講じていた時。
転がり込むようにして、男が現れた。
「失礼いたします! 敵、魔導連射機を作動中! 傍らには魔導師と思しき男を発見。自軍魔導師、対応中ですっ!」
男は片膝を着き、頭を垂れ言った。
私はその男の報告におもわず目を見開き、机上の地図から顔を上げる。
だがそれは私だけでなく。
この場に居る者すべてがそうだった。
「何?! 連射機だと!! っ……被害想定規模はどのくらいだ」
「はっ。……このままでは、壊滅的かと…………」
この場の一人の問いに、男はそう答え。
深く頭を下げた。
その時だ。
天幕中に取り乱した男の声が響いた……。
『て、敵魔導連射機崩壊っ! 敵魔導師後退しました! それらの原因不明!! ―――――っ! あれは………………人形……?』
「人形?」
「人形だと?」
「どういうことだ?」
ざわりと場が揺らぐ。
『し、失礼いたしました。人形です。なにやら棒らしきものを所持しており、敵を後退中ですっ!!』
継いだ言葉に、さらに場が揺れた。
…………人形……?
……まさか、リスティナ…………?
ふっ…………。
何を馬鹿な……。
あれはもう…………この世のすべてを探そうとも、見つかるはずはないというのに……。
嗚呼。
私は一人娘の死を、受け入れられないだけでなく。
ありもしない可能性を求めるとは……女々しくなったものだな…………。
…………リスティナ。
もし。
もしも本当に、お前の死が偽りならば……誠に生きてるのならば、今一度会いたいものだ……。
そして出来ることならば、精神を病んでしまった我妻と、その友を癒しておくれ………………。
……医者を呼んだことが気に入らないようで、口をきいてくれないのだ……。
こちらは心配しての行いだというのに…………。
リスティ……私の愛しい娘よ。
私は。
父様は、疲れてしまったよ…………。
―――――――――
――――――
『これで良いわ!』
とても危険な魔導連射機を難なく破壊出来ただけでなく、魔導師を後退させることが出来。
ついつい嬉しくて笑みが浮かんでしまいます。
いけませんね。
しっかりしなくては。
…………と言うより。
この槍、まるごとお姉様の様なモノな気がするわ……。
何故って?
それはね。
『さぁ頑張って破壊しましょう』と槍を持ち替えて、振り下ろそうと構えただけで、破壊対象を粉々に壊してしまったのよ?
信じられます?
…………私は、信じられませんわ……。
……さて。
いったん槍の事は忘れます。
こんな危ない槍の傍に居ては危険ですわ。
ですが。
彼らは国境を越えようとしています。
それは許せませんし、見逃すことなどできません。
お引き取り願いましょう。
……槍は使いませんわ。
危険すぎますもの……。
…………あぁ、でもこのままでは誰も聞いてくれませんね。
だって私。
人形ですもの。
宙に浮いてる人形……不気味ね…………。
…………………………自分で言って凹んで居ては、いけませんね……。
分かっています……。
かといって本体を呼び寄せる何てこと、やったことはありません。
何とかして本体を――――……って。
あら?
いつの間にか足が地面についています。
ですが、視界は変わりません。
変ですわ。
槍だって大きさは変わって…………た。
「な、なんだ貴様!」
「どこから現れた!!」
………………………………。
…………もう、良いわ……。
きっとこの槍ね。
この槍のせいなのね……。
分かったわ。
もうそれで良いわよ。
気にしないから…………。
* * *
それと同じころ。
テノールたち四人が居る屋敷はと言うと――。
「っ……いやぁぁぁぁぁぁぁあああああ!」
屋敷の中心。
つまり、リスティナの部屋でマリアが絶叫していた。
「だ、誰か、誰かぁぁ!!」
「どうした! マリア……っ?!」
「「「「「?!」」」」」
「お、おじょうさまが……お嬢様が…………。ぅぁ、ぁああああぁぁぁっ!!」
彼女の絶叫を聞きつけ慌てて駆け付けた屋敷の者たちは皆。
絶句した。
何故なら。
屋敷の奥で大切に守ってきていた宝が。
彼らの敬愛する主人の本体が、寝台の上でどろりと溶けていたからである……。
* * *
はい。
前書きに変態が気になる人がいるかもと思って書きました。
要らないと思ったんですけど、まぁ良いか。




