第三話 混乱
「チェックメイトよ」
「っ! ……も、もう一度!!」
「あなた……。何度それを言えば気が済むの? もう分かったでしょう? 『あなたのような雑魚では、私に勝つことなどありえない』と」
「っく……!」
勝ち誇ったように微笑むお姉様。
それに隣国の変態が、目の前。
丸テーブルの上に置かれたチェス盤を、悔しげに睨みつけておりますわ……。
……………………。
…………あ、あら?
へ、変ね……?
え?
『何が』って?
分かるでしょう?
そんなもの。
この、私の目の前に繰り広げられている光景が、ですわ……。
「お、おねぇ……さま…………?」
「? あら、リース。どうしたの? 顔色が悪いわよ」
「え、えぇっと……。り、隣国にさらわれたのでは…………?」
「いいえ。私は今までこの変人と決着をつけていただけよ?」
「…………で、でも、ミフィが……」
「そう。ミフィが、ね……」
お姉様はそう言って、意味深に表情を曇らせた。
「いかがなさいましたの? お姉様」
「…………いいえ。なんでもないわ。ただ、どうしてこの私が攫われたと考えたのかしら?」
「え……? だって、お姉様はとてもか弱くて……――」
……あら?
本当に、そうだったかしら……?
確か、展開することすら困難な術を軽々と展開して発動まで一瞬で行っていたような気が……。
…………いいえ。
それだけではありませんわ。
一瞬にしてすべてを消し去るほど、強い力をお持ちで、『化け物』なんて呼ばれていて……。
し、しかも。
そ、そんな、お姉様が二人――――に、増えた……。
…………………………。
…………………。
……………。
そう。
そうよ。
ワタシガ、フヤシタ。
…………私が、増やしてしまったのよ……!
しかも!
そのせいで大勢の方々が、か、かか、過労死、を……っ…………!
っ……!!
わ、私。
私ッたらそれを……。
犯した、罪を……忘れていた…………。
なんということ。
なんと、いう……ことなの…………!!
ぐらりと。
視界が回った。
「きゃぁ! リース?!」
お姉様の驚いたようなで、悲鳴じみた言葉が聞こえた。
「リース! リース、大丈夫?! しっかりしてちょうだいっ!!」
体が容赦なく揺らされています。
回った視界がさらに回されて、具合が……。
「………………セイニィ。そんなにしたらソレ、死ぬよ?」
「?! あぁ、リース!! 待っていてちょうだい。直ぐに治療を――――っ、どうして?!」
「何を騒いでいるのさ。みっともない」
「なんですって?! あなたほどみっともなくないわよっ!!」
「なんだと?! この僕がみっともないとでもいうのか!!」
「当たり前でしょう? 自己陶酔症のナルシストのくせに!」
「はぁ?! それを言うなら君だろ、シスコンの化け物女!」
「なんですって?!」
…………おねぇさま……。
お願いです。
お願いですから、少し静かにして落ち着いて下さいませ……。
魔力が。
お姉様特有のずっしりとした魔力が、くるしい…………。
ついでに変態のピリピリとした魔力も……痛いわ………………。