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名門貴族の変嬢  作者: 双葉小鳥
第三章 伯爵家末娘となった変嬢
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第二話 退屈な日

 チュンチュンと、庭で囀る色鮮やかな小鳥達。

 私は刺繍をしていた手を止めて、庭のテラスに置かれたテーブルセットから眺め。

 マリアが入れてくれた紅茶を飲む。

 朝の優雅なティタイム。

 ……いいえ。

 一人ぼっちのティタイムね……。

 だって、私の周りに誰もいないのよ。

 マリアはお茶を入れてくれて、しばらくして退室したわ。

 代わりにメイサがやってきて、お菓子を進めてくれたのだけれど、彼女も退室しちゃったの……。

 だから私。

 一人ぼっちなの……。

 ミリーはまだ起きているみたいで、まだこちらへ来ていないわ。

 はぁ……。

 …………空しい……。

 あぁ。

 こんな時にお仕事の依頼でもあれば、こんなに空しくは感じないのに……。

 私は紅茶を見つめていた視線を、空に向けてみた。

 小さな雲がところどころに見える青い空。

 のぼって数時間のお日様が心地良い。

 そう思ってぼんやり空を眺める。

 雲はゆったりと動き、空を移動していく。

 平和な朝ですこと。

 私は平和と言うより、退屈ね……。

 何か面白い事無いかしら?

 あぁ。

 そうだわ!

 術を研究してみようかしら?

 そうよ。

 それがいいわ!

 という訳で。

 持っていた紅茶をテーブルに置いて、テラスから庭へと出た。

 相も変わらず、この庭は緑しかないわ。

 まぁ、しょうがないわね。

 だって、皆。

 もともとは裏の人間なんですもの……。

 さて。

 そんなどうでも良い事より、術の研究をしましょう。

 何をしようかしら……?

 人の意識を操る?

 でも、人が居ません。

 では。

 人を作ってみましょうか。

 あの脈打つ人間みたいな気持ち悪い人形を……。

 ………………いえ。

 やっぱりやめましょう。

 なんだか嫌だわ……。

 それに、処分にも困……らない、わね…………。

 ルシオとかに任せれば。

 よし。

 作りましょう。

 誰を作ろうかしら?

 う~ん……そうね、試したいこともあるから、お姉様にしてみようかしら?

 という訳で、術を展開。

 案の定、右手の人差し指に痛みを感じると同時に血が流れ、闇色の陣に吸い込まれました。

 それを見届けていると、鼻がむずむず―――。

「は、くしゅっ……!」

 こらえきれずにくしゃみをして、それと同時に目を閉じてしまいました。

 そのおかげでちゃんと人形が出来たか不明です。

 だから、慌てて目を開けると。

 何故か生き生きとした全裸のお姉様に正面から抱き着かれたの。

 …………へ、変ね?

 わ、私。

 お姉様の人形を作ったはず、よね……?

 なのに、どうして。

 どうして、お姉様が全裸で私に抱き着いているの……?

 あ……。

 あぁ、わかりました!

 きっとこれはお姉様を模した人形ね!

 私ったら、いつの間に操ったのかしら?

「リース! 会いたかったわ!!」

 ………………あら……?

 へ、変ね?

 だ、だって!

 私の人形は、私の作った人形たちは……言葉を話さないのですよ……?

 ……と、言うことは。

 『私はお姉様を全裸でこの場に呼び出した』と、言うことになるのでしょうか…………?

 …………何と言うことを、私はしてしまったの……。

「ご、めんなさい……。おねえ、さま…………」

「? どおして?」

「ふ、服が……」

「ん? ふふふ。大丈夫よ、私の本体は学園で仕事に追われているわ」

「え? おねえさま。じゃ、ない、の……?」

 そう問うと、お姉様(?)はきょとんとして、小首をかしげたの。

 ……あぁ。

 さっきまでとは違う、嫌な予感がするわ。

 それに、胸がバクバク言っているの……。

 え、えぇっと…………。

 そ、そうよ!

 きっと何かの間違いよ!

 私の予感は間違って――――

「リース! やっとお仕事が終わったわ!!」

 そんな嬉しそうな声と共に後ろから抱き着かれました。

 しかも。

 この声を間違いなく、お姉様……。

 さぁっと血の気が引いて行くような気が…………。

「………………」

「? リース? ……あら? これって、私?」

「えぇ。私よ」

 私の後ろに居るお姉様の問いに対し、正面に居るお姉様(?)は嬉しげに肯定。

「まぁ、すごいじゃないリース! 言葉を話しているわ!!」

 嬉しそうで、楽しそうで、驚いていらっしゃるお姉様。

 私はそのお姉様に後ろから抱きしめられているので、お顔は拝見できません。

 ですが。

 きっと……。

 そう、きっと。

 正面から私に抱き着いているお姉様も、そんな顔をしていらっしゃるのでしょうね……。

 だから、私。

 嫌な予感が的中したことから、必死に目をそむけてしまいました…………。

「ねぇ。いくら私が美しくても、外で全裸はいただけないわ」

 そう楽しそうな声で言ったのは、背後から抱き着いているお姉様。

 これに正面から抱き着いているお姉様は軽く驚き――

「あら、やだ。私ったら……つい嬉しくて忘れていたわ」

 ふふっと笑った。

 ―――だけじゃない。

 えぇ。

 それだけではないの。

 だって、一瞬で難解な魔術を展開して、その次の瞬間には青のドレスを身につけておられたのです……。

「まぁ! 私と同じように魔術が使えるのね!」

「あら。当たり前でしょう? 私は貴女なのよ?」

「ふふ、そうね。転移もできるのかしら?」

「当たり前よ」

「では、家に帰りましょう。リースを連れて……」

「そうね。リースを連れて……」

「「ふふふ」」 

 二人なお姉様は妖艶に微笑んでいたことでしょう。

 この後。

 私は、私が作った方のお姉様が展開し、発動させた転移の陣により、お父様のいらっしゃるお屋敷の玄関ホールに移動したのでした。

 …………もしかして。

 今更かもしれないけれど、私。

 本物そっくりな人形じゃなくて、本人と同じ人間も作れるの…………?

 いいえ。

 それより問題なのは。

 『国王陛下やその他もろもろの重鎮たちすら、頭を悩ませになるお姉様が二人に増えた』と言うことですわ。

 ……嗚呼。

 これは。

 これでは……私。

 ミフィだけでなく、お姉様にかかわりのある、国中の方々に……叱られちゃう…………。

「あら? どうしたのリース。顔が真っ青よ?」

「まぁ、本当。大丈夫、リース? どこが具合でも悪いの?」

 そう問うて来られるお姉様二人に、私は何も答えられませんでした……。

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