第十話 生き物……?
「よし。出来たわ」
ついつい嬉しくて声が弾んでしまった。
そしてそんな私の目の前に引っ張ってきたローテーブルには、片腕で持てる大きさのビクスドールがお行儀良く、座っている。
私がただひたすらに『生きてないモノを』と考えた末の、形です。
人形です。
もちろん脈なんて恐ろしいものは打っていません。
なんと嬉しいことでしょう。
人形は黒髪で菫の瞳で――……って、何故私が出来たのかしら?
変ね。
依頼とかで脈を打つ人形を作るときは、私になんて似ないのに…………。
…………あぁ……。
そう言えば私。
依頼主の頭の中をのぞいて、それに合わせて作っていたわ……。
まぁ。
似て当然なのかもしれないわね。
だって、私。
『生きてないモノ』に執着していたから……。
それに、あの子もこれを見たら馬鹿なこともやめるかもしれないわね。
こんなにも私に似てしまったのですもの。
私はそう思って、お行儀良く座っているビクスドールに手を伸ばし、抱き上げた。
なんとなく自分と同じ菫の瞳が嫌で、瞳を閉じた形に変更。
えぇ。
これでいいわ。
少し満足して、それをローテーブルに戻す。
――――ドガーン
そんな音を立て、私の部屋の天井から壁が一部壊れてきました。
天井に張り付いていた明かりはかろうじて無事ですが、私が人形をおこうとしていたローテーブルはぺしゃんこです。
隣室はひどいありさま……。
……でも良かったわ。まだ手を離してなくて……。
そう、ホッとした。
で。
天井の一部と共に降ってきたモノに目を向けた。
降ってきたモノは、長くて美しい黒髪に藍色の瞳の女性。
それと、変な……そうね…………。
生き物って呼ぶのは変な感じだわ。
だって、腐敗臭の様なものを漂わせているのよ?
腹部から赤い何かを『だらりとたらして』?
いえ。
これは『引きずって』? いるし……。
まぁ、そんな感じなの。
で。
顔は骨みたいになっていて、皮? みたいなのが顎? それとも首? にぶら下がっているわ。
これは【生き物】って分類で良いのかしら?
そう思いながらそれを見ていた。
「チッ……。しぶといわね」
そう言ったのは落ちてきた女性。
これに生き物かな何かわからないものが、低く唸った。
その唸り声は屋敷中に響いたようで、部屋の扉がノックもなく。
勢い良く開いた。
「「「「お嬢様っ!!」」」」
「「「「姫さんっ!!」」」」
「「「姫様っ!!」」」
血相を変えたテノールと双子、バリトンだけでは無く。
彼らの部下が血相を変えて部屋に飛び込んできました。
その中には料理長の部下もいます。
身重の料理長が居ないことにホッと安心しました。
「あら、皆。どうしたの? そんなに慌てて」
なにやら青ざめている皆。
何かしら?
そう思っていたら、頭上に影が差した。
変ね?
だって、四号がつけてくれた明かりは無事なはずなのに。
なんて思いながら、明かりを遮った何かを見上げた。
落ちてきた低く唸る、腐敗臭の様なモノを漂わせる生き物が正面で歯を見せています。
犬歯がとても大きくて鋭いわ。
これで噛まれたら痛そうね。
なんて考えていたら、黒髪の女性が魔術を展開するよりも早く。
テノールと双子、バリトンが動いた。
四人はそれからどこかにいったようで、居なくなったの。
どこに行ったのかしら?
そう思っていたら、落ちてきた生き物がばらばらになって床に落ちた。
次の瞬間。
その生き物は淡く発光して、小さな犬に姿を変え。
可愛らしく、一階だけ吠えて消えた。
なんだったのかしら?
今の……。
「ねぇ、テノール。今のは?」
「………………」
沈黙し、目を逸らすテノール。
彼が言いたくないと言外に訴えてきたので、双子に問うけれどその双子もまた、沈黙。
だからバリトンに目を合わせる。
これに彼は気まずそうにして、頬を掻いて困った顔で笑った。
だから彼らの後ろ。
使用人をしてくれている皆に目を向けてみた。
でも。
反応はテノールたちと同じで、沈黙を返してきた。
「皆、教えてくれないの……?」
どうして?
皆は分かっているのでしょう?
なのに、教えてくれないの?
……私。
今まで生きてきてこんな生き物は初めて見たのに…………。
「…………えっと、良いかしら?」
突然聞こえた声。
それがした方に目を向けると、そこにはさっき降ってきた女性が居た。
なので『はい、なんでしょう』と声をかけると、女性は屋敷を破壊したことについて謝罪して、その壊れた場所を直してくれたの。
だから素直に礼を言うと、その女性が急に抱き着いてきました。
なぜかしら……?
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