第九話 苦笑
泣いている間、四号はただ黙って頭を撫でていてくれた。
そんな彼の優しさに甘えてしまったのが…………少し、恥ずかしい……。
「ありがとう、四号。忙しいのに手間をとらせてしまってごめんなさい……」
「なぁに、姫さんが気にするほどの事でもねぇさ。俺が抜けたくらいでまごつく訳もないですしね」
へらっと笑う優しい四号に、ついつい苦笑した。
だって。
この今の時間はお昼前。
調理場はとても忙しい時間なのよ?
きっと料理長代理の一号に叱られちゃうわ……。
……そんなの絶対だめ。
だって、私が引き留めてしまったようなものなんですもの……。
「四号。私も調理場に一緒に行くわ」
「え? なんでですか?」
きょとんとする四号。
…………そう言えば私。
彼がへらへら笑っている顔以外、あまり知らないのね……。
……もう、彼が賊だったなんて事実を疑いそうなほどにね。
て。
今はそんな事考えてる暇じゃないわ。
このままだと四号が……。
「なんでって……私のせいであなたが一号に叱られちゃうわ」
「え? あ、あぁ。それなら心配ご無用ってもんです」
「何を言っているの?! 『一号怒らせたら怖い』って料理長が言ってたのよっ!」
以前。
料理長が一号の愚痴を零していて。
私はそれを聞いて、優しくておいしい料理を出してくれる調理場の皆(と言う名の、料理長の部下)。
そんな彼らの中で特に、一号だけは怒らせないようにしようと心に決めたほどなのよ?
「あ。俺、いつも抜け出してるんで」
ハラハラする私とは対照的に、四号はいつものへらへらとした笑みを浮かべ、そう言ったの……。
「…………それも、どうかと思うわよ……? 四号………………」
「ははは! 見逃してくださいね? 姫さん」
笑う四号。
でも、そんな彼に怒りと言った感情は浮かんでなんて来ない。
代わりに笑みがこぼれた。
「……もう。しょうがないわね……」
「ありがとうございます。じゃ、今日は俺は姫さんのために菓子でも焼くとしますかね」
「ふふ。ありがとう。いつも楽しみにしているわ」
「んじゃ。今日の担当は俺なんでリクエスト、聞きますよ。何が食いたいです?」
「え? そうね……カップケーキ――」
「に、『クリームなしの素朴なの』とか言うんでしょう?」
「………………なんで分かったの……?」
「俺が聞いたらいつもそう答えるの、どこの姫さんですかね……?」
「…………………」
笑いつつ、そう言ってきた四号に沈黙を返す。
まぁ、間違いなく私の事をいっているのよね……。
「ま。姫さんが言いそうなことぐらい、想像つきますよ」
へらっと笑う四号は、それだけ言って部屋を出て行った。
私は彼を見送って、ベッドに座ったまま。
ミリーについて、考えることにしました。
――――――――
――――――
読んで下さり、誠にありがとうございます。
評価とお気に入り、ありがとうございます。
気になってくださっている方が居て下さると言うことが分かって、嬉しく思っています。




