第五話 青虫
なんて思って、幸せだったこともありました……。
ですが今は――――。
「ねぇ、テノール。私ね、青虫なんかじゃないのよ……?」
「えぇ。そうでしょうね」
やんわりと抗議したら、満面の笑みでそう言われた。
もちろん、食い下がるわよ?
「じゃぁ、どうしていつもいつも草料理なの……?」
もうね。
正直に言って、うんざりなの。
道端に生えてるような草ばっかりを使った料理はね……。
まぁ、それしかないから食べてますけど…………。
「薬膳料理です」
ニコリと微笑み、そう言いきるテノール。
変ね。
私、薬膳ってお肉も使うものだと思っていたのだけれど……?
「……あなたの料理でお肉を見たことないわ…………」
「薬膳料理なので当然です」
「(違うと思うのだけど、この様子だといくら言っても無駄よね……)…………………………そうなの…………」
いくらいっても無駄のようだから、諦めてその野草と言うか雑草と言うか……なんとも言えない料理を完食しました。
とても激しく!
もうとっても……料理長が恋しいっ…………!!
料理長のおいしいご飯が食べたいのよ!!
やり場のない悔しさをどうにかしたくて、ダンッとテーブルに両手の拳をぶつけた。
でもすっきりしないので、もう一回叩いてみます。
少し、すっきりしました。
でも。
だけどね、やっぱり私。
料理長のご飯が食べたいわ……。
「料理長のご飯食べたい……もう、草はイヤ…………」
どうして、どうして私、稼いでるはずなのに、こんなつつましやかな食事をしないといけないの?
パンが食べたいわ……。
お肉が食べたいの。
お野菜が食べたい…………。
ついつい顔を覆ってさめざめと泣いてしまいました。
ちなみに、このやり取りは何度目になるのでしょうね……?
十回を超えたあたりから、数えてないわ……。
「ねぇ、テノール。まともなお料理が出来る方を雇いましょう? 臨時で良いから……」
「いけません。お嬢様。どんな者が来るか分かったモノではありません」
笑みを浮かべたまま、はっきりと言い切ったテノール。
こんな所でなんて、負けないわ……!
「でもね。テノール――――」
「とにかく。いけません」
「そんな……テノール…………!」
「いけませんって言ったらいけません」
「そこをなんとか――――」
「無理です。ダメです。いけません」
「…………あなたはいつもそれしか言わないんだから……」
「本当の事です。無理なのモノは無理ですし、ダメなものもダメです。いつも言ってるではありませんか…………」
「じゃぁ……テノールが草料理じゃなくて、普通の料理を作ってくれたら何も言わないわ……」
「薬膳料理はお嫌いですか……?」
「(あなたの料理は薬膳料理なんてものじゃないわ……)……草料理もうイヤなの、もう飽きたの食べたくないの。普通の料理が食べたいのっ!」
もう、テノール。
貴方は何度言ったら聞いてくれるのかしら?
そして。
何度このやり取りを繰り返したら良いの……?
嗚呼。
料理長、お願いよ。
早く戻ってきて……!
じゃないと私。
テノールに青虫にされてしまうわ!!
読んで下さり、誠にありがとうございました!
お気づきの方もいるでしょうが。
テノールが、リスティナにその辺の草を食べさせてるわけがないし、そしてそれが野菜ですらないというね!
さて、なんでしょうね?




