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名門貴族の変嬢 作者:双葉小鳥

第二章 元、名門貴族な居候

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第四話 バリトン

 ***


「あら。テノール、料理長、ルシオにゼシオ。皆、どうしたの? お仕事はもう良いの?」

 きょとんとして問うた、ずれた娘の声。
 少し興が乗っていたというのに、またこの娘のせいでそがれてしまった……。
 俺は腰に回している刀をいつでも抜けるよう準備していたが、その手を離す。

 なにやら娘は小奇麗な男とくだらないことを言い合い。
 男の方が娘にあきれ果てている。
 苦労しているようだ。

 …………まぁ、これならわからんでもないが……。

 だが。
 小声で暴言を吐くところはしっかりているな。
 ついでに、娘の『目の下にクマが――』のくだりで、俺を鋭い目つきでにらむのも……。
 しょうがないだろう。
 俺だって仕事なんだからよ。
 なんて考えながら男たちから送られる、射殺すような鋭い眼差しをシカトする。
 そうしたら、ずれた娘が『くすっ』と笑った。

 …………何が面白くて笑ったのだろうな、この娘は……。

 そう考えていると。
 小奇麗な男が溜息をついた。
 もちろん、娘が気づかぬ程度のものだ。
 どうやらこの男。
 苦労性らしい。
 ついでに、この館の人間はおかしい。

 ……いや、まぁ。この娘が一番おかしいんだが…………。

 だいたい、その辺の娘と同じ気配しかしない。
 さらには注意力、警戒心と言った物も散漫。
 しかし。
 娘を除いたすべての人間。
 こいつらからは、俺と同じ匂いがする。
 恐らく同族だ……。

 そう分析していると、娘が不意に窓に目を向け、『皆、元気かしら』とつぶやく。
 これに激しく動揺する館の人間。
 それに笑みを浮かべ、笑いかける娘。

 こいつら、なんなんだ……?

 娘は見るからにその辺の娘と変わらな――――いや。違うな……。
 その辺の娘は猛毒の毒草を平気で茶にして飲んだりはしないし、毒を飲んだことによる体の異常を訴えないなどありえない。
 そう思い、暇つぶしにと持っていた『猛毒草図鑑』という題名の、本を取り出す。
 そして、ドドウィズ草のページを開き。
 娘に差し出した。
 娘は興味を示し、覗き込んできた。

『せめて効果ぐらい知っておいた方が良いだろう』

 そう思っただけだ。
 ……が。
 小奇麗な男に一瞬にして紙切れにされてしまった。

 …………以前あった時以上に素早い動きに見えたのは、気のせいだろうか……?

 そう悶々としていると、娘が嬉しそうな顔でこちらを向いた。

「ですって! どうかしら? 彼女。見た目は怖いけど、とっても優しくて料理が上手なのよ? あ。その前にバリトンボイスの親切な方。あなたは奥様がいらしゃる?」

 ……いやいや。
 何が『ですって!』だ……。
 どんだけ力入ってんだよ……。
 …………って。
 なんで俺は男を紹介されているんだ……?

 ……ん?
 ………………『彼女』……? 
 誰が、『彼女』なんだ?
 まさか。
 その古傷だらけの、見るからにやばそうな男か……?
 いや。
 ちょっと待て。
 聞き流していたが、確かそんなことを言っていなかったか……?

 そう思い、娘が『料理長』と呼んだ男――――いや、女? の方を向く。

 ……凶悪に笑う賊の頭目を見たような気がした。
 いや、幻覚だ。
 だが、以前は本当にそれだったのだろうな……。

 などと思い。
 娘の方に目を向けると、いつの間にか娘が目の前に置いてあったローテーブルに手をついて、身を乗り出してきていた。

「ね、どうなの? 奥さんいるの? いないなら、彼女は絶っ対! おすすめよ!!」

 満面の笑みに、キラキラとした目で言う娘。
 ……いや、まぁ。
 嫁自体もらっていないが、そんなものをお勧めせんでくれ…………。

 部下の様な屈強な嫁はいらん……。
 俺は可愛い嫁がいい…………。

 そう考えつつ、顔をひきつらせたとき。

『そんな高望みするからっすよ。『来てくれる』って言ってくれるなら、もらっておいた方がいいっすよ? じゃないと、ボス。一生独り身っす』

 冗談を言う風でもなく、酷く真面目で真剣な顔で言って来た部下の一人を思いだした。
 ついつい漏れた苦笑い。

「ねぇ? どうかしら? バリトンボイスの親切な方」

 身を乗り出し、小首をかしげた娘。
 その娘を『はしたないですよ』と軽くいさめる小奇麗な男。
 楽しげな古傷だらけの『料理長』と呼ばれる女。
 始終無言の双子。
 それらを見て、軽く頭を抱えた。

 ……まぁ、そうだよな…………。

 俺は頭の中に響いた、つい最近部下に言われた言葉に従うことにした。


 ***


 こうして、料理長とバリトンボイスの親切な方がであって。
 二か月後。
 二人は無事、結婚したわ。
 とても良いことね!
 私は料理長がずっと料理長をしてくれるって、一緒に居てくれるって言ってくれて、とっても嬉しかったの。

 でも、バリトンボイスの親切な方は、名前を教えてくれなかったわ……。
 だから、呼ぶときに『バリトンボイスの親切な方』と呼ぶのは大変だから、『バリトン』って呼ぶことにしたの。
 もちろん。
 彼には了承を得たわよ?
 テノールには呆れられたけど、私らしいって、笑ってくれたの。
 双子にはニヤって笑われたわ……。

『やっぱり馬鹿だな』
『あぁ』

 って。
 雰囲気だけで言ったから、テノールに言いつけたの。

『ルシオとゼシオが私を馬鹿にするの』

 ってね。
 そしたら――――

『お嬢様が馬鹿なのは本当の事ではありませんか』  

 心からの満面の笑みで言われたの……。
 これって、怒るべきなのかしら?
 そう、庭師をしてくれることになったバリトンに聞いてみたわ。
 バリトンは困った顔で苦笑するばかりだったのだけれどね……。
 でも。
 『姫さんの長所だな』って。
 訳が分からないわ。

 あぁ、後ね。
 料理長とバリトン、二人の仲も良好みたいよ?
 だって、料理長のお腹に子供が居るんですもの。
 なんでも、女の子だそうよ?
 きっと料理長に似た、優しい緑の瞳を持った女の子が生まれるのよね!
 髪は何色かしら?
 バリトンに似て、緑の髪なのかしら?
 ……それも、素敵かもしれないわね!

 こうして。
 バリトンと、バリトンについて来た人たちが屋敷に来て。
 少なかったメイドさんは少し増えて、使用人さんたちも少し増えた。

 テノールたちが建てて、私が居候している屋敷はまた一層賑やかになったわ。

 とても良い事ね!
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