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名門貴族の変嬢  作者: 双葉小鳥
第二章 元、名門貴族な居候
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第三話 紙切れ

 私はそっとテノールから目をそらし、窓に向けた。

 空は綺麗に晴れ渡って、優しい空色。

 その優しい空色に、無言で別れた父様を思い出し、その隣で微笑む母様を思い出した。

 もちろん。

 母様の隣にはカンナ。

 


「…………皆、元気かしら……」


 ポロッとこぼれた言葉。

 と言っても……。

 死人になった私はもう、家族に会うことはできないのだけれど…………。


「お嬢様……」


 悲しみが混ざったような、テノールの声がした。

 ……あ、いけない。

 テノールたちに心配かけてしまうわね。

 私は一斉に心配しだした皆に慌てて笑顔を向けた。


「大丈夫よ。私には、みんなが居てくれるものだから、寂しくないわ。それに、私が決めたことだもの」


 だから、皆。

 そんな心配そうな顔しないで……?

 

「命に代えても、お嬢様をお守りいたします」

「いやだわ、テノール。大げさ過ぎよ。それに、私。命と引き換えに生かされても嬉しくないわ」

「……では。そのように…………」

「えぇ。私は皆に怪我をしてほしくないの……。だから、刃物は仕舞って。ね……?」

  

 お願いだから……。

 ね?

 早くその凶器たちを仕舞って……!

 怖いのよ!

 それを投げつけられそうでっ!!

 

 内心で絶叫していたら、テノールが右手を軽く上げると同時に、後ろに控えていたメイドさんや使用人の皆が凶器を仕舞ってくれました。

 

 さすがはテノール。

 我が家の統率者ね!

 ……で。

 テノール、料理長、ルシオにゼシオ。

 …………あなた達は仕舞わないの……?

 その危ない物……。

 なんて意味を込めて、四人を見つめました。

 もちろん。

 無言で無視されました。

 視線すら合わせてくれません。

 しかも四人は私の正面。

 バリトンボイスが素敵で親切な方に注がれています。

 ……また私、のけ者…………。 

 悲しいわ……。


 そう思って軽く落ち込んでお茶を啜っていると、バリトンボイスの親切な方の手には、文庫本サイズの本を一冊。

 何処かのページを開いて私の目の前に……。

 何かしら?

 そう思って覗き込んだ。


 ――――ヒュンッ……スパ、スパスパッ!


 あら?

 一瞬で紙切れになったわ……。

 もう、だぁれ……? 

 こんなに悪いことするの。

 そう思って、切れ味の良いナイフが飛んできた方向に目を向けた。


 満面の笑みを浮かべたテノールと目が合いました……。


 私は喉元まで上がってきていた文句を必死に飲み込んだ。

 ……いやね。

 違うのよ?

 テノールが怖いんじゃないわ。

 ただ、目が笑っていないの。

 これで文句なんて言ったら絶対、怒るわ……。

 彼が怒ったらメイドさんたち使用人の人たちが泣いちゃうの。

 『怖いから何とかしてください!』ってね。

 泣き付かれちゃうのよ……。

 しかも機嫌が悪いから、私もあまり近寄りたくないわ。

 だからすぐ、謝罪するの。

 だって、怒ったままのテノールは雰囲気が怖くなるから……。

 

 ところで。

 双子は別として、今日は料理長が異様に静かだわ……。

 変ね。

 どうしたのかしら?


「料理長。どうしたの? 今日はやけに静かね、具合が悪いの? もしそうだったら無理しなくていいから、休んでちょうだい」

「……いや、大丈夫だ。ただ、姫さん。その茶は……――」


 どこか真剣そうな料理長。

 変ね。

 いつもは彼女、飄々としているのに……。

 でも、視線は私の持っているお茶の入ったティーカップ。


「え? このお茶? テノールがくれた茶葉よ?」


 そう言ったら、料理長が怖い顔をさらに怖くして、テノールを睨みつけたわ。

 …………いつもの倍以上に怖いわね……。

 でも、そんな彼女が作る料理はすべて美味しいの。

 ……彼女の内面に惚れた男に奪われたらどうしましょう…………。


「ねぇ、料理長。結婚しても料理長を続けてくれる……?」


 不安になってきたのでそう問う。

 そしたら、瞬きをして、きょとんとしてこちらを向いた料理長。 


「…………急にどうしたんだ? 姫さん」

「だって、料理長がお嫁さんに行っちゃったら、私。生きていけないもの」

「……くっ、ははは!! 『生きていけない』、か……」


 豪快に笑った料理長。

 とても楽しそう。 


「えぇ。だって、料理長の料理、好きなんだもの。それに、私。あなたが居なくなったら寂しいわ…………」

「大丈夫だ、安心しろ。アタシは姫さんの傍を離れねぇよ」

「……ありがとう、料理長。でも、私。あなたの幸せを願っているの」

「アタシの幸せは姫さんが、幸せに生きていてくれることだ」

「………………ありがとう。でも、結婚したいって方に会ったら、紹介してね? 全力で応援するわ!」

「くくっ……。こんな男みたいなのを貰いたいって物好きはいねぇよ」

「あら。私が男だったら、料理長ほど素敵で、理想的な女性はいないと思うわよ?」

「姫さん。あんたは根本的にずれてっからな……。まぁ。ありがとよ」


 なにやら苦笑されたわ……。

 私、本気でいったのに……。


「もう、本当よ! 私が男だったら料理長をお嫁さんにもらって、おいしいご飯を作って貰うわ!」


 ……あら?

 それだと太っちゃうかしら?


「くくくっ……。じゃぁ、アタシはもうあんたに嫁いでおくとしよう」

「? あら。それは嬉しいけれど、私。女よ? だから、料理長には素敵な殿方と一緒になって、子供を見せて欲しいわ」


 きっと、あなたの優しい緑の瞳を受け継いだ、良い子が産まれることでしょう。


「…………んじゃ。今、姫さんの目の前に居る男で手を打とう」

「あら、素敵ね! ですって。どうかしら? 彼女。見た目は怖いけど、とっても優しくて料理が上手なのよ? あ。その前にバリトンボイスの親切な方。あなたは奥様がいらしゃる?」

 

 そう言って、正面に座るバリトンボイスの方に問う。

 何やら料理長が楽しそうに笑った気がするけれど、気のせいよね!

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