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名門貴族の変嬢  作者: 双葉小鳥
第二章 元、名門貴族な居候
21/104

第二話 ずれてないか……?

 ***

 

 ……さて、俺は何をしているのだろうな…………。

 と言うか、この娘は馬鹿なのか?


「はい。どうぞ、召し上がれ」


 ……いや。

 したたかなのだろうな……。

 …………そうでなければ平気で猛毒のドドウィズ草(葉の欠片を口に入れただけで即死)を乾かしたものを、煮出して茶として出したりはしないだろう……。

 

「どうしたの? あぁ、このお茶の茶葉? あれはテノールが作ってくれたオリジナルのお茶の葉なのよ。良い匂いでしょう?」


 そういって、それを啜る娘。

 ……さて。

 二度目になるが、俺は何をしているのだろうな……。

 確か。

 二年前に建ち、その館で金をぼったくる怪しげな商売をしている女主人。

 それを殺すという簡単な依頼だったはずだ。

 

 例え。

 その現場が【攻略不可能の館】と名高いこの館であったとしても。


 【攻略不可能の館】の地図など、直ぐに手に入った。

 だから人をやり、女主人を殺すように命じていたんだ。

 それなのに、だ。

 何人やっても帰ってこない。

 そしてこの館に送り込んだ者たちの生命反応を示す石は色を失い、黒ずんだ。

 このことから、始末されたと判断した。


 『これ以上犠牲を出すわけにはいかん』


 そう、判断した俺はこの館に入り込んだ。

 誰も気づかないように見えた。

 だが、数日もすると微量だが劇薬の匂いを持つ男に攻撃を仕掛けられ。

 回避するとまた、数日後。

 今度は包丁を腰に巻き、古傷だらけな、いかついのが攻撃してきた。

 もちろん軽くいなして回避。

 その後はいろいろな者に攻撃を仕掛けられたが、無駄な血は好まない。

 俺の部下は血を好む者もいるようだが、基本的に仕事と割り切っている。


 あぁ、そう言えば。

 顔の良く似た男二人は骨があったな……。

  

「くすっ。思い出し笑いをする人って、スケベなんですって」


 正面に座る娘は、菫色の瞳に楽しげな色を浮かべ、口元に笑みを浮かべている。


 …………この娘。

 やはり、どこかずれてないか……?

 平気で猛毒の茶を啜っているぞ……?

 ………………俺の常識は、正しいはずなのだかな……。


「見つけたぞ。侵入者」

 

 酷く冷たい声。

 それと同時に首をはねられそうになったので、それを弾き、攻撃を仕掛けてきた相手を確認した。

 相手は、漆黒の髪と瞳を持つ、小奇麗な男。

 それの後ろには、いかつい包丁を巻いた男。

 それと、顔の良く似た男二人。

 背後には大量の人、人、人。


 …………これは、詰んだか……?


 ***


「あら。テノール、料理長、ルシオにゼシオ。皆、どうしたの? お仕事はもう良いの?」

 

 いつの間にかリビングの扉は人で埋め尽くされていたわ。

 変ね。

 私、バリトンボイスな彼の顔が変に真剣みを帯びなかったら、気がつかなかったわ。


「お嬢様。それはどこで拾ったのです?」

「拾っ……?! 嫌ね、まるで私が捨て猫とかホイホイ拾うみたいじゃない! もう、違うわよ! 後ろを見たら居たの。だからお茶に付き合ってもらっていたのよ? ダメだったかしら……?」

 

 なんか皆の顔が怖いわ……。

 そして手から見える暗器とか、剣とか刀とかの凶器も怖いの……。


「皆、そんな物出していたら危ないわ。箒とか、ハタキとか、新聞紙とか……お掃除に必要なものなら大丈夫だから、ね……?」

「お嬢様。お茶の相手に、暗殺者を採用しないでください」

「え? 暗殺者? 誰が? テノール?」

「俺じゃありません」


 呆れ顔なテノール。

 おまけに。


『チッ。ふざけるのもいい加減にしろよな。この馬鹿娘っ……!』

 

 って、小さく聞こえた気がするの。

 でも。 

 優しいテノールがそんなこという訳ないわよね!

 私の聞き間違いかしら?

 だいたい、彼は暴言とかそう言うことは言わないのよ?

 怒ってたら別だけど……。


 優しいのよ、とっても。


「あら? テノール。目の下にクマが出来ているわよ? もう、『ちゃんと休んでちょうだい』って、言っているでしょう?」

「申し訳ございません。入り込んだネズミを徹夜で退治しておりました」

 

 そう言って、私の目の前。

 バリトンボイスな親切な方を鋭く睨んだ。

 バリトンボイスの男の人は、口元に小さく笑みを浮かべています。

 だから考えてみました。

 屋敷の皆が必死になって、寝ることすら惜しんで一匹のネズミを追う姿を…………。

 ……くすっ。

 何て面白いのかしら……!


「お嬢様。お嬢様は、こちらに来てから徐々に警戒心が減ってしておりましたが、今は完全に欠落しております。少しは警戒してください」

「あら、何を警戒するの? もうここは、あの国じゃないのよ? だから安心して大丈夫よ」


 国中が私が死んだって信じ込んでるって料理長から聞いたし。

 【リスティナ・ファスティ】は墓の中。

 そしてここは大陸を渡り、大海を越えた大陸。

 もう、私を付け狙う黒幕は追ってこないでしょうし。

 最初は暗殺者が居たような気もしたけれど、今では皆の顔とか様子がおかしいのが日常で、慣れてしまったもの。

 警戒する方がおかしいと思っても変じゃないと思うわよ?

 

 だってこんなに平和なんですもの。

 

 警戒する必要なんて、どこにもないわ。

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