第十八話 お見通し
「……みんな、ありがとう。明日も早いから、もう休んでちょうだい。私ももう休むわ」
私はそう言って微笑み、四人に背を向けてベッドに向かう。
不思議なことに、四人は動かないわ。
…………困ったわね……。
早く部屋から出て行ってくれないと、準備ができないじゃない…………。
……勘づかれるわけにはいかないの。
焦ってはダメ。
失敗は、死ぬ確率を上げるだけだから……。
だから私はいつも通り、ベッドに上がる。
ミリーと共に眠ったこの広いベッド。
小さなころは、あまりに広すぎて怖かった……。
でも、彼女が来てからはそれがなくなったのよ。
それに、成長した私とミリーが一緒に寝ても余裕があった。
だけど……もう、ミリーはいない。
…………別れ際に見えたあの子の……絶望の表情が、頭に焼き付いて離れない……。
そして四人も部屋を出て行ってくれないわ……。
どうしてかしら?
私、泣き顔ってあまり人に見られたくないのよね…………。
……そうだわ。
このベッド、天蓋がついていたじゃない。
という訳で、四本の柱にまとめていたカーテンのリボンを解く。
そうするとそれらは、はらりとベッドを覆った。
え?
どうして忘れていたのかって?
…………いやね、違うのよ?
真っ暗が怖いとか、そう言うんじゃないんだからね?
えぇ。
えぇ、違いますとも!
ただ真っ暗で、閉ざされた感があることが、落ち着かないだけなんです!
それだけよ。
えぇ、それだけですとも!
……決して、決っして。
幼いころ、天蓋を閉めてはしゃいでいた時に、背後から何処かの双子に殺されかけたのが引き金とか、そう言うんじゃないわよ?
だから、『暗くて狭い所が怖い』って訳じゃないの。
背後とか周囲が見えないのが嫌なのよ…………。
さて。
涙も引いたことですし、ミリーの思い出は頭から追い出すわ。
だってそうでもしないと今は思い出すことが辛いから……。
という訳で、頭を空っぽにして準備します。
もちろん。
私と言う存在を亡き者とするために……。
ほわりとしていて、闇に溶ける魔術の陣。
これは生身の人間の体を作る術。
私はそれを発動させた。
一拍置いて。
右手の人差し指に痛みが走り、小さな傷口からは真っ赤な血が流れ。
それはベッドに落ちることなく、陣の上に流れた。
次の瞬間。
何も纏っていない私が出来上がった。
うん。
良く似ているわ。
我ながら上出来ね!
「お嬢様。ドレスを着たまま、お休みになるのですか……?」
ちょっと自画自賛していたら、なにやら怖い声が聞こえたわ……。
もしかして勘づかれたのかしら?
「お嬢様……?」
いやだわ。
どことなく、テノールが怒ってる気がするの…………。
なんて思っていたら、双子がサッと、無言で天蓋のカーテンを両脇の柱に押し付けるようにして、開け放った。
そのせいで見えたテノールと料理長。
…………作り物の、怖い笑顔を浮かべていたわ……。
しかも、よく見たら双子が口ものとに笑みを浮かべています……。
嗚呼。
これは、詰んだ……の、かしら…………?
私は作った【私】の体を隠すことすら忘れ、顔をひきつらせた。