第十一話 四人
「…………ルシオ、ゼシオ……」
と。
低音を吐いたテノール。
それに、私に抱き着いたままびくっとして、固まるミリー。
やれやれと呆れ顔の料理長。
目をせわしなく動かす双子。
ちなみにその双子、花束投げ捨てて、あっという間に窓から逃げ出しました。
「チッ……あの野郎…………」
またも低音。
ついでに舌打ち。
ちょっとテノール、やめなさい。
ミリーが怯えて震えだしたでしょう……。
え?
彼がどんな顔をしているか、ですって?
…………そんなもの、確認するまでもなく。
怖い顔に決まっているでしょう……?
ていうか。
確認なんてする勇気は私にはありません!
彼の正体を知ってしまった私はなおさらです。
そうね。
でも、テノールが怖いなんて思わないわ。
いえ。
それは違うわね。
今の、テノールは怖いわ。
えぇ。
とっても怖いの……。
だって、すごく怒っているんだもの……。
ピリピリしてるのよ。
雰囲気とかが、ね…………。
まぁ良いわ。
とりあえず、今後の事を話したいの。
だから、ミリーにはちょっと席を外してもらうかしら?
「ねぇ。ミリー」
そっと震えてるミリーの頭を撫でつつ声をかけた。
「なぁに、リース……?」
私に押し付けていた顔を離して、上目使いで見上げてきた。
うん。
これが、王女様……ね…………。
……護衛する人は、大変そうね……。
「ねぇ、何? リース」
「ぇ……あぁ、良ければお風呂の用意をしてきて欲しいの。ほら、私。いっぱい汗かいちゃってるでしょう?」
「あ。そう言えば、そうだよね! 分かった、行ってくるね?」
素直に離れたミリー。
でも、どこか心配そうに私を見て居る。
「大丈夫よ。待っているわ」
「ん。わかった……」
名残惜しげに振り返りつつ、ミリーは部屋を出て行った。
さて。
これからは時間との勝負ね。
「テノール、料理長。『誰の目につかず、王に会いたい』の。出来るかしら……?」
極力声を控えて言った言葉。
これに、二人は一瞬驚愕の表情をしたのち、表情を引き締めた。
「それは、何故……?」
問うテノール。
そしてそれに頷く料理長。
私は、知ってしまったことを言うべきか、言わざるべきかで一瞬悩んだ。
だから――――
「『誰の目につかず、誰にも知られず、ミリーを王に会わせたい』出来るわよね……? 貴方たちなら…………」
言わないことにした。
だって、彼らが何も言わないんだもの。
だから私も言わないわ。
あなたたちが何処かの国中で、凶悪犯として指名手配されていて、作った劇薬を売ったり使ったりして商売をやっていたり。
大勢の手下を従えて殺しと略奪が喜びの、無慈悲な賊の頭目だったりとか。
はたまた何処かの大国で暗躍していた組織のトップであり、二人で一人の(凄腕の)暗殺者をやっていた。
とかね……。
まぁ、私は。
あなたたちが教えてくれるまで。
知らない顔をしておくわ。
例え……。
屋敷に仕えている人間すべてが、この三人の部下だったとしても、ね…………?