フレージアの調査メモ:「家族と魔法について」
療養作戦は無事に達成しそうなフレージア。
自分や周りの人のことについて集めた情報をまとめているようです。
結果から言うと、お母様の療養作戦は無事に成功した。
ガッチガチの髪をお湯でほぐしながら洗ったことで横になれるようになり、その後みるみるうちに体調が回復したのだ。
換気や食事の改良なども行ったが、おそらくただの風邪をこじらせただけだったのだろう。
数か月経った今、走り回ったりするのは難しいが、屋敷の中を自由に歩き回ることはできるようだ。
とにかく、命に関わるものじゃなくてよかったよ。
そしてなんと、私にも毎日の湯あみが許可されたのだ!体を拭くだけだが、それでも匂いがかなり減る。
病気でもないのになんでって顔はされたけど、頑張って説得してよかったよ。本当のところは、他の皆にもお風呂に入ってほしいんだけどね。
「フレージアお嬢様、もう起きていらっしゃいますか?」
「起きてるわ。入っても大丈夫」
ガチャリと空いた扉から顔をのぞかせたのはティリアだ。私の専属らしく、あの時私を追いかけていたのもティリアだったようだ。ふくよかな体格だが、子供の全力の遊びについてこれる、すごい人だ。
「おはようございます。今日も一人で起きられてえらいですね」
白を基調とした花模様の大きなベッドから這い出ると、ティリアが私を抱き上げて化粧台の椅子に乗せてくれる。もちろんこのベッドのシーツも交換済みだ。
「今日も図書館に行かれるのですか?」
「お昼ご飯の後にお父様とお話をする約束をしているから、そのあとに行くことにするわ。ねえティリア、今日の朝ご飯は何かしら?」
「今日は黒麦パンのサンドイッチでしたよ」
「やったあ!あれ好きなの!」
会話を返しながらもティリアの手が止まることはなく、あっという間に寝起きの状態から整えられていく。
毛量の多いまっすぐの髪はポニーテールのようにまとめられ、サイドが落ちてこないように編み込まれる。
今日は屋敷の外に出る予定はないので、白いシンプルなワンピース。大きな水色の瞳と相まって、とても涼しげだ。お嬢様と言ったら、毎日ドレスなのかと思っていたので、最初は正直驚いた。
「はい。できましたよ」
「ありがとうティリア!」
その後、部屋で朝ご飯を食べ、まだ教師がついていない私は自由時間だ。最近はこの世界や家族のことについての情報収集をしている。
看病のことを考えすぎて、こういうことにまで気が回っていなかったんだよ。今まで怪しまれなくてマジよかった。
机の中から隠しておいたノートを取り出す。もらった紙をまとめただけの簡単なものだ。
ペンとインクを用意し、部屋に誰もいないことを確認して紙を重ねただけのノートを開く。そこには記憶から掘り出したこの世界のことと、今まで少しずつ集めた情報がまとめられていた。
この世界の文字はまだ知らないので、日本語のそれっぽい発音で書いてあるのだ。もし見つかったら、紙によく分からない模様を書く変な子になってしまう。
小さくて動かしにくい手で羽で作られたペンを握り、数年ぶりに慣れ親しんだ字を書き連ねる。
「えっと、私の名前がフレージア・ブロムキント。さっき起こしに来てくれたのがメイドのティリア。名字は分かんないや」
怪しまれないようにそれとなく話を聞いているので、どうしても情報の穴が多い。これはまあ、仕方ないよね。それにもともとフレージアは周囲にあまり興味が無かったのだ。知っていることが少ない。
「そして、薄い緑色が混じった白髪のお父様、ヘンディアノ・ブロムキント。そしてこの領地の領主。お母様がロザリナ・ブロムキント。金髪碧眼のザ王道王子さまがアスターお兄様。お兄様より2歳年下で白髪と薄い碧眼の女の子がリリアナお姉様。お兄様お姉様はよく一緒に遊んでくれるんだよね」
年齢が分からないな……今まで私が気にしてなかったってのもあるだろうけど、確認しておいたほうがいいよね。
「私がいるのがブラフヘルメルっていうところらしい。本当に異世界ってやつなんだなあ。
……これくらいかな。あまりにも情報が少なすぎる。集めるのも一苦労だよ」
あ、そうだ。ご飯は意外と美味しかった。メモメモ。異世界転生系だと、ご飯が美味しくないってのが鉄板だけど、そういうわけでもないみたいだね。……本当に転生するとは思ってもなかったけど。
ペンを置き、椅子にもたれて上を見上げると大きなシャンデリアが目に映る。花柄のカーテンに縁取られた大きなガラス窓からは明るい日差しが差し込み、バルコニーでは小鳥が羽を休めている。
手入れされた庭を挟んだ遠くの方には山や森が広がり、広い鮮やかな花畑も見える。
「領主の娘だし、どうみても身分がいい家だよね。メイドもいるし。
娘が急にこんなやつになっちゃったのは申し訳ないけど、正直助かったよ。これで貧民とか村人Aのスタートだったら、成り上がる前に死んじゃいそう」
前世でよく読んでいた転生系の物語を思い返す。他に転生経験者がいるかは分からないが、多分私は恵まれている方だろう。
「あ、そうだよ!転生といったら魔法じゃん!つよいステータス!最強チート!あとドラゴンとか、クラーケンとか!」
こうなったらものは試し。小説好きとして、やってみるっきゃないでしょ!
「ステータスオープン!」
すると、前につき出した右手の先に半透明の板が……現れなかった。豪華な広い部屋に子供の声がむなしく響き渡る。
「あ、あれ?言葉が違うとか?ウィンドウオープン!スキル!ファイアーボール!ウィンドカッター!」
それでも炎がとび出すことも、風の刃がとんで行くことも無かった。
「ダメだー!ポーズを変えても何も起きない……。もしかして、魔法が存在しない?そんなあ。異世界の醍醐味なのに……。やり方が違うだけだったりしない?」
その後もいろいろ試してみたが、ちょっとポーズをとっていたらすぐに息が上がってしまったので、一旦魔法のことは諦めることにした。
子供の体って扱いが難しいよ!
ご覧いただきありがとうございました!
魔法あるんでしょうかね~にやにや
そろそろ気づいた方もいらっしゃるかと思いますが、今出てきている人の名前は花の名前になっています。どんな花なのか、花言葉とかも意識したので調べてみてください!
ご飯はおいしいようで安心したよ。よかったねフレージア。




