第22話 護衛任務とユエの帰国
正午を過ぎたころ、ようやくセレナが寝室から姿を現した。
寝ぼけ眼をこすりながら、グランたちが談笑している食卓へふらりとやって来る。
「んー……おはよう……あれ、もう昼?」
「おはよう、セレナ。ほら、朝食だよ」
リオが笑顔で皿を差し出す。
「……朝食っていうより昼食よね、これ」
セレナは苦笑しながら席に着き、差し出されたパンをかじった。
食事を終えたところで、グランが皆の前に口を開いた。
「国王から依頼があってね。王女殿下の護衛任務を受けた。出発は一ヶ月後、詳細はその一週間前に通達されるらしい。それまで準備と訓練をしておきたい」
その言葉に、セレナとこはるの顔色が一気に変わる。
「王女殿下!? まさか、ライバルが増えるんじゃ……!」
「うぅ……また綺麗な人だったらどうしよう……」
二人の取り乱した様子に、ユエはくすくすと喉を鳴らして笑った。
その日の午後。ユエがこっそりとグランを呼び出す。
「主……少し、お時間をいただけますか」
人目のない場所で向き合うと、ユエは真剣な顔つきになった。
「魔王国で少々、揉めごとがありまして。悪魔たちの間で、次のまとめ役を誰にするか……という話です」
「君は今、悪魔の代表……トップなんだろう?」
「ええ。ですが、私にはもう後継ぎがいます。素質もありますが、まだ経験が浅く、反対意見も多い。……一時的に帰還し、話をまとめてきます」
ユエの静かな言葉に、グランは少し黙し、そして頷いた。
「分かった。任せた。何かあれば、すぐ戻ってきてくれ」
「はい。では、数日中に私の子をこちらに向かわせます。補佐として問題ない能力です」
その夜。ユエは皆をリビングに集め、静かに告げた。
「私情により、一ヶ月ほど出かけます。その間、私の“子”がこちらで補佐に入ります」
セレナがぎょっとして立ち上がった。
「えっ、子ども!? 結婚してたの!?」
こはるも目を丸くし、思わず声を上げる。
「そ、それって……昔の話ですか?」
ユエはさらりと肩をすくめ、微笑んだ。
「あれ? 言ってませんでしたか?」
あまりにも自然に言うものだから、こはるはぽかんとしたまま、やがて「なるほど……」と納得したように小さく頷いた。
数日後。
ユエの代わりとして現れたのは、見た目二十歳前後の長身の青年だった。
整った顔立ちに涼しげな瞳、黒衣を纏った姿はどこか神秘的で、人を寄せつけない気配を纏っている。
彼の名は――「ナツ」。
グランに近づくと、彼は耳元でそっと囁いた。
「よろしくお願いします、魔王様」
その声には、確かな忠誠と期待が込められていた。




