第21話 王の依頼と理想の国
早朝の薄明かりの中、グランはひとりギルドへと足を運んでいた。
セレナ、こはる、ユエは昨夜の女子会で遅くまで盛り上がり、まだ眠っている。静かな街路を歩きながら、グランは胸中にある思いを整理していた。
――ついにAランク。元魔王国に入る条件のひとつは満たした。残るは……入国の許可だ。
重厚な扉を押し開けギルドに入ると、予想外の人物が目に入った。
「……国王陛下?」
飾り気のない外套を纏ったノア国王が受付で話をしていた。隣にはギルド長の姿もある。王はグランに気づくと穏やかに微笑み、手招きをした。
「グラン君、よいところに。少し話をしようか」
通されたのはギルド長の私室。円卓に並んで座るのは、国王、ギルド長、そしてグランという異例の構図だった。
「実は、王女の護衛任務についてギルドに依頼を出しに来たところだ。できれば、君たちのパーティーに頼みたいと思っている」
「えっ……私たちは昨日Aランクに昇格したばかりです。通常なら、Sランクに任せるべき任務では?」
ギルド長が慎重に口を挟む。
王は頷きつつも、迷いのない声で答えた。
「それは分かっている。しかし、私は君たちにこそ任せたいのだ。理由は……信頼と直感。そして“あの事件”での働きを見れば十分だ」
グランはしばらく黙した後、ふと切り出した。
「では一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか。――元魔王国への入国についてです。許可をいただくには、どうすればよいでしょうか?」
ノア国王は目を細め、少し考え込む。
「ふむ、そこを聞くか……。この護衛任務を引き受けてくれるのなら、私から入国許可を出そう。君たちは十分すぎる働きをしている」
「……分かりました。この任務、引き受けさせていただきます」
即答するグランに、王は満足げに頷いた。
話が一段落したところで、グランはためらいながら問いかける。
「王は……どのような国を理想とされていますか?」
それは――魔王としての己の存在を意識しながらも、人間として生きる道を模索するグランの心からの疑問だった。
王は少し考え、やがてゆっくりと答える。
「ただ皆が笑って暮らせればよい、とは私は思わない。人が安心して生きるには“秩序”が必要だ。秩序とは、法であり、国政であり、ときに上下関係でもある」
「威圧的でない上下関係……ですか?」
「そうだ。国民が自らの意思で動き、それでも秩序を保つ。そのために、国はときに“悪者”にならねばならん。それを担えるのが国という器だ。貴族も同じ。貴族が偉いのではなく、その地方をよくし、国と連携する“役所”であるべきなのだ」
王の言葉を聞きながら、グランは黙って頷いた。
そこにはかつての自分にはなかった“政治”の理と重みがあった。
「他国はどうしても“力”を先に立てる。しかし政治干渉はご法度。ならば、自分たちの国をよくするしかないのだ」
ノア国王は最後に、ふと問いかけた。
「……なぜ、そんなことを聞く?」
「いえ。少し考え事をしていただけです。……ありがとうございました」
席を立ち、深く一礼したグランはギルドを後にする。
――少しだけ、見えたかもしれない。かつての自分とは違う“在り方”が。
そう心に刻みながら、仲間たちの待つ家へと戻っていった。




