第20話 コカトリス報告
ギルドに戻ったグランたちは、コカトリスとその亜種二体を討伐したことを報告した。
受付嬢は目を丸くし、持ち帰られた素材を確認すると、すぐさまギルド長へ連絡を入れる。応接室に通されると、そこにはすでにギルド長が待ち構えていた。
「まさか……コカトリス亜種、それも二体を討伐したというのか?」
驚愕の声に、グランは静かに頷き、現地での様子を詳細に説明した。
現れた亜種は図鑑に記された個体よりも凶暴で、魔力も濃く、攻撃も耐久力も桁違いだったことを。
ギルド長は腕を組み、難しい顔で唸る。
「コカトリス亜種というには……あまりにも異常だ。もはや“変異種”と呼ぶべきかもしれん。危険度で言えば、Sランク相当と見ていいだろう。……君たちは、その魔物を二体も討伐したのか」
「はい、なんとか」
「本来なら昇格試験であっても、一体倒せれば十分合格だ。だが今回の件は試験の範疇を超えている。……異例中の異例だが、君たちには正式にAランクを授与しよう」
思いがけない昇格の言葉に、セレナとこはるは思わず息を呑み、顔を見合わせた。
「ただし、目立ちすぎた。あのレベルの魔物を討伐したとなれば、他の冒険者や組織の目にも留まる可能性が高い。……くれぐれも気をつけて行動してくれ」
ギルド長の忠告に、全員が真剣な顔で頷いた。
その夜。
「今日は、うちに泊まっていかない?」
セレナが帰り道でこはるの腕を軽く引き、いたずらっぽく笑った。
「えっ……じゃあ、お邪魔します……!」
こはるは少し恥ずかしそうに頷く。
セレナはふと後ろを振り返り、ユエへと声をかけた。
「ねえ、ユエも来る?」
「……私も、ですか?」
ユエは驚いたように目を瞬かせた。
「もちろん。どうせ影でこっそり見てるんでしょう? だったら最初から一緒に来たほうがいいじゃない」
「……ふふ、確かに。それではお邪魔いたしますわ」
ユエが口元に笑みを浮かべると、三人は肩を並べてセレナの部屋へと向かった。
セレナの部屋は清潔で整った内装に、温かなランプの灯りが柔らかく揺れていた。
三人はベッドの縁に腰掛け、湯気を立てるお茶を手に、しばらく世間話に花を咲かせる。
やがてセレナは真剣な顔つきになり、こはるへと問いかけた。
「ねえ、こはる。グランのこと……どう思ってるの?」
「……正直に言うと、好き……なんだと思います。最初は助けてもらって、憧れて。でも、それだけじゃなくて……一緒にいると心が温かくなるっていうか……」
こはるの言葉に、セレナは微笑み、そして真っ直ぐに返す。
「私も、好きよ。ずっと昔から……あの人だけを見てきた。小さな頃から、憧れじゃなくて、心から。だから、譲る気はないわ」
「……うん。私も、負けないから」
静かながらも強い意思を込めたやりとりに、ユエが口元を抑えてくすりと笑う。
「……青春ですわね」
「ちょっと! いつから聞いてたのよ!」
セレナが慌てて声を上げる。
「最初から、ですよ」
「……ユエさんも、からかわないでくださいっ」
こはるが真っ赤になりながら抗議する。
「ですが、誤解のないように。私は主を愛してはいません。忠誠を誓った者としてお仕えしているだけです。恋愛感情など、一切ありませんよ?」
「そ、そう……なんだ」
セレナが少し拍子抜けしたように呟く。
ユエはさらりと言葉を継いだ。
「それよりも気になるのは、王女殿下のことですね」
「えっ、王女殿下?」
セレナとこはるが同時に声を上げる。
「もし主が戦略結婚などということになったら……あなたたちはどうします?」
「それは……困る、けど……」
「……その時は、本気で戦争になるかもしれないわね」
冗談とも本気ともつかぬやり取りに、室内は熱を帯びた。
そしてユエが追い打ちをかけるように言った。
「ちなみに、この国では一夫多妻制が認められています。法的には問題ありません。ただし、第一夫人や序列はあるそうですが」
「なっ……!?」
「えっ!? そ、そうなの……!?」
こはるとセレナが一斉に顔を真っ赤にし、声を上げる。
「そ、それって……順番ってことですか!?」
「ぐ、グランはどっちを選ぶのよ……!」
もはや茶会というより小さな戦場のよう。
ユエは優雅に湯飲みを傾けながら、楽しげに微笑んだ。
「……主が誰を第一に選ぶのか、楽しみですね。私はただ、影から見守るだけですので」
三人の夜は、熱く、長く、更けていった――。




