表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/95

第20話 コカトリス報告

ギルドに戻ったグランたちは、コカトリスとその亜種二体を討伐したことを報告した。

受付嬢は目を丸くし、持ち帰られた素材を確認すると、すぐさまギルド長へ連絡を入れる。応接室に通されると、そこにはすでにギルド長が待ち構えていた。

「まさか……コカトリス亜種、それも二体を討伐したというのか?」

驚愕の声に、グランは静かに頷き、現地での様子を詳細に説明した。

現れた亜種は図鑑に記された個体よりも凶暴で、魔力も濃く、攻撃も耐久力も桁違いだったことを。

ギルド長は腕を組み、難しい顔で唸る。

「コカトリス亜種というには……あまりにも異常だ。もはや“変異種”と呼ぶべきかもしれん。危険度で言えば、Sランク相当と見ていいだろう。……君たちは、その魔物を二体も討伐したのか」

「はい、なんとか」

「本来なら昇格試験であっても、一体倒せれば十分合格だ。だが今回の件は試験の範疇を超えている。……異例中の異例だが、君たちには正式にAランクを授与しよう」

思いがけない昇格の言葉に、セレナとこはるは思わず息を呑み、顔を見合わせた。

「ただし、目立ちすぎた。あのレベルの魔物を討伐したとなれば、他の冒険者や組織の目にも留まる可能性が高い。……くれぐれも気をつけて行動してくれ」

ギルド長の忠告に、全員が真剣な顔で頷いた。


その夜。

「今日は、うちに泊まっていかない?」

セレナが帰り道でこはるの腕を軽く引き、いたずらっぽく笑った。

「えっ……じゃあ、お邪魔します……!」

こはるは少し恥ずかしそうに頷く。

セレナはふと後ろを振り返り、ユエへと声をかけた。

「ねえ、ユエも来る?」

「……私も、ですか?」

ユエは驚いたように目を瞬かせた。

「もちろん。どうせ影でこっそり見てるんでしょう? だったら最初から一緒に来たほうがいいじゃない」

「……ふふ、確かに。それではお邪魔いたしますわ」

ユエが口元に笑みを浮かべると、三人は肩を並べてセレナの部屋へと向かった。


セレナの部屋は清潔で整った内装に、温かなランプの灯りが柔らかく揺れていた。

三人はベッドの縁に腰掛け、湯気を立てるお茶を手に、しばらく世間話に花を咲かせる。

やがてセレナは真剣な顔つきになり、こはるへと問いかけた。

「ねえ、こはる。グランのこと……どう思ってるの?」

「……正直に言うと、好き……なんだと思います。最初は助けてもらって、憧れて。でも、それだけじゃなくて……一緒にいると心が温かくなるっていうか……」

こはるの言葉に、セレナは微笑み、そして真っ直ぐに返す。

「私も、好きよ。ずっと昔から……あの人だけを見てきた。小さな頃から、憧れじゃなくて、心から。だから、譲る気はないわ」

「……うん。私も、負けないから」

静かながらも強い意思を込めたやりとりに、ユエが口元を抑えてくすりと笑う。

「……青春ですわね」

「ちょっと! いつから聞いてたのよ!」

セレナが慌てて声を上げる。

「最初から、ですよ」

「……ユエさんも、からかわないでくださいっ」

こはるが真っ赤になりながら抗議する。

「ですが、誤解のないように。私は主を愛してはいません。忠誠を誓った者としてお仕えしているだけです。恋愛感情など、一切ありませんよ?」

「そ、そう……なんだ」

セレナが少し拍子抜けしたように呟く。

ユエはさらりと言葉を継いだ。

「それよりも気になるのは、王女殿下のことですね」

「えっ、王女殿下?」

セレナとこはるが同時に声を上げる。

「もし主が戦略結婚などということになったら……あなたたちはどうします?」

「それは……困る、けど……」

「……その時は、本気で戦争になるかもしれないわね」

冗談とも本気ともつかぬやり取りに、室内は熱を帯びた。

そしてユエが追い打ちをかけるように言った。

「ちなみに、この国では一夫多妻制が認められています。法的には問題ありません。ただし、第一夫人や序列はあるそうですが」

「なっ……!?」

「えっ!? そ、そうなの……!?」

こはるとセレナが一斉に顔を真っ赤にし、声を上げる。

「そ、それって……順番ってことですか!?」

「ぐ、グランはどっちを選ぶのよ……!」

もはや茶会というより小さな戦場のよう。

ユエは優雅に湯飲みを傾けながら、楽しげに微笑んだ。

「……主が誰を第一に選ぶのか、楽しみですね。私はただ、影から見守るだけですので」

三人の夜は、熱く、長く、更けていった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ