第14話 旅立ちの前に
講義を終えた三人と一匹は、それぞれギルドカードを受け取り、帰宅することにした。
――帰宅後、家族と共に町へ出かける。
リオが最初に連れて行ったのは防具屋だった。
「お前たちには無事に帰ってきてほしい。だから、ちゃんとした防具を買ってやる」
「父さん……ありがとう」
グランの声に、自然と温もりが宿る。
グランとこはるには店で一番の軽装防具、セレナには最高級の魔導服、そしてフェンリルには……犬用のカスタム防具が選ばれた。
「こんなに……お金、大丈夫なんですか?」
セレナが遠慮がちに問うと、リオはふっと笑う。
「ふっ……この前、なぜかボーナスが出たんだ。国王の近しい方が来て、直接手渡された。理由は分からんがな」
グランたちは互いに視線を交わし、その理由を悟っていた。――先日の事件の“報酬”だと。
買い物を終えると、今度はレナ、セレナ、こはるの三人が服屋へ向かう。
「さあ、女の買い物タイムよ〜!」
楽しげな声をあげたのはレナだった。
「あっ、あのワンピース可愛い……!」
セレナの視線はすぐに可憐な服へと吸い寄せられる。
「この髪飾り……グランさん、喜んでくれるかな……」
こはるの小さな呟きに、レナは微笑んだ。
「ふふ、じゃあ買っちゃいましょ!」
三人はそのままカフェに立ち寄り、甘いスイーツを楽しみながら笑い合った。
オシャレなテラス席に並び、それぞれ苺タルト、ショコラケーキ、季節のパフェを前に、湯気の立つ紅茶を片手に談笑が始まる。
「ふふ、さっきの服屋ではしゃぎすぎじゃない? まるで初めて城下町に出た村娘みたいだったわよ、セレナちゃん、こはるちゃん」
レナが目を細めて笑う。
「うぅ、レナさんがすごく楽しそうに選んでくれるから……つい、つられてしまって」
こはるが恥ずかしそうに言う。
「……はしゃいでたのはこはるだけです。私は冷静に選んでました」
セレナはそっぽを向いた。
「ほんと〜? さっき、リボン付きのワンピース手に取って頬を赤らめてた子は誰だったかしら?」
「っ!? それは……! こ、これは戦闘服とは別の……」
レナはにっこりと微笑みながら、くすくすと笑い声を漏らした。
「でもね、こうして見ると……ほんと二人とも可愛いお嫁さん候補って感じね」
「――え!?」
セレナとこはるが同時に驚きの声をあげる。
「だって、ねぇ? 毎日グランと一緒にいて、息もぴったりだし……もう、どっちが先にプロポーズしてもおかしくないんじゃない?」
「ぷ、プロポーズなんて……! わ、私はそういうの、興味ないですし……べ、別にグランが誰と結婚しようと……ぐぬぬ……!」
セレナが耳まで赤くしながら言い訳をする。
「わ、わたしは……そ、そういうのまだ考えたことないけど……で、でも……その……グランさんが、好きって、思ってくれたら……」
こはるの声はか細いが、確かに届いた。
「ふふふ、本音が出たわね」
「っっ! ちょっ、レナさんっ……!」
セレナが真っ赤になって抗議する。
「ちなみに私は、どっちとでも賛成よ? あ、もしくはどっちもっていう選択肢もあるわよ?」
「!? !?」
二人の少女は顔を真っ赤にして固まった。
「そ、そんなのダメですよぉ……!」
こはるが慌てて声を上げる。
「ば、馬鹿な……正妻は……一人……!」
セレナも必死だ。
「冗談よ、冗談。でもね。どちらにしても、グランは優しい子だから、きっと幸せにしてくれるわよ。それに、あなたたちの笑顔を見ていると、本当に家族みたいで、私、嬉しいの」
レナの柔らかな言葉に、こはるは照れくさそうに頬を染めて笑い、セレナは紅茶を飲んで誤魔化すように視線を逸らした。
そんな温かく、少し胸が高鳴る時間が、カフェの午後にゆっくりと流れていった。
一方その頃。
グラン、フェンリル、リオは冒険に必要なアイテムを揃えるために道具屋を訪れていた。
「ポーションにアイテム袋、野営道具と……あ、リードも買っとくか」
「やめろ。誰が犬だ」
「いや、犬だろ」
軽口を交わしながらも、必要な品々を買い揃えていく。
買い物を終えると、三人は町外れの公園に立ち寄った。
「あのとき……お前たちに助けてもらって、本当に感謝してるよ。フェンリルも……ありがとうな」
リオの言葉に、フェンリルは静かに答える。
「……当然のことをしたまでだ」
「こうやって家族で笑い合えるのが、何より嬉しい。冒険は危険もあるだろうけど、無事に帰ってきてくれよ」
「……大丈夫です。俺には、皆を守れる力がありますから」
グランの言葉に、フェンリルは無言で頷いた。瞳には忠臣としての誇りが宿っていた。
夕方。再び全員が合流し、にぎやかな夕食の時間を迎える。
「さあ、たくさん食べて明日も頑張るのよ」
レナが優しく微笑み、食卓に料理を並べる。
セレナとこはるは、どこかそわそわとした様子で顔を赤らめていた。グランはその様子を見ながらも、あえてスルーする。
「……さて、食べるか」
笑いと温かさに包まれた食卓には、確かに“家族”の絆があった。
こうして、冒険への準備はまた一歩進んでいくのだった。




