客人の正体見たり枯れ尾花
「ということがあったわけなんですけど、その人たちと佐久間さんの関係性とか知ってますか?」
『知らないわ』
食事処から客室へと移動した俺は、荷物を適当に床に置くと、すぐさま相澤さんに電話を掛けた。
特に急ぎの要件があったわけではない。ただ館について早々、あまりに癖の強い人たちと絡んだため、普通成分を補充したくなったのだ。まあ、相澤さんが普通かは議論の余地があるが。
『あなた、今失礼なこと考えなかった』
「いやまさか、そんなわけ」
『やっぱり考えたのね』
「……」
そう言えば、相澤さんに嘘は通じないんだった。
気まずくなった俺が沈黙していると、通話越しに彼女のため息が漏れ聞こえた。
『まあいいわ。取り敢えずその三人について調べてみるから。スーパーカウンセラーと天才未来創造技師と、神通力使いだったわね。馬鹿みたいな肩書だし、たぶんすぐに見つかるわ』
「あ、でも、佐久間さんはまた違う呼び方をしてましたけど」
『そっちの方が古い情報だろうから今はいらないわ。それより、こうしてこっちを使って電話をかけてきたってことは、スマホは没収されたのかしら?』
今俺は、出発直前に相澤さんから受け取った黒いガラケーを使って事務所に電話している。
俺はベッドの上に投げ出していたスマホを手に取り、画面を見ながら言った。
「いや、スマホは回収されなかったんですけど、圏外になってまして。山奥だから繋がらないのかと思ってこっちのガラケーを開いてみたら、なぜかこっちは電波が繋がってたので。取り敢えずこっちで連絡してる感じです」
『あのガラケーだけ電波が繋がっている……』
「俺以外のスマホも圏外なのかは知らないですけど」
『……あなた、今部屋に一人よね?』
「へ?」
ガラケーを耳に当てたまま、部屋の中を見回す。
もちろん俺以外部屋の中には誰もいない。
「急にどうしたんです? 今は客室に一人ですけど」
『そう……なら気にしないで。でもそうね、嫌だとは思うけれど、できるだけ社長のそばにいた方がいいと思うわ。一人だと危険かもしれないから』
「……それ聞いて気にしないでいるとか無理なんですけど」
『それより、調べがついたわよ』
「早っ!」
まだ説明してから数分しか経っていないのに。というか話しながら調べられるとか、マルチタスク羨ましい。
『肩書を入れたら検索上位に出てきただけよ。まず誰から聞きたいかしら』
「誰でもいいですけど。じゃあ万里さんから」
『万里眼カウンセラーね。一言でいうならガチ恋営業女よ』
「あの、もうちょい言葉を選んだ方が……」
『あなたしか聞いていないから別にいいでしょ』
社交性の仮面はしっかり被れるのだが、如何せん素の状態だと遠慮がない。嘘を見破る能力とか関係なく、友達は少なかっただろうなあ、などと不躾なことを考える。
『また何か失礼なことを――』
「それで具体的にはどんな評判が!?」
俺は早口で続きを促した。
『万里眼の力で人間関係が改善したとか、未来の不幸を未然に防げたって口コミもあるにはあるけどごく少数。かといって大嘘つきのほら吹き女って口コミもごく少数。口コミのほとんどは「かわいい」とか、「今日も癒されました」とかそんなくだらないものばっかり。普段の営業とは別に万里眼集会という名のファンミーティングが月に一回あるみたいね。会員限定で参加費三万円。毎回完売しているそうよ。昨今は不景気だなんて言われてるけど、こんな無駄なことに金を払える程度の稼ぎはあるようね』
「後半に関して俺からのコメントは控えるとして。結局能力が本物かどうかは断言できない感じですか?」
『未来予知なんてできるわけないんだから嘘に決まってるでしょ』
「それ相澤さんが言ってもあまり説得力ないですけど」
『未来予知ができるなら社長がその館に来ることだって知ってたはず。知らずに驚いてた時点で偽物よ』
「それは否定できない」
一応擁護するのなら、未来予知は常時発動するタイプではないか、ぼんやりと抽象的なことしか分からないという可能性が考えられる。ただこんな怪しい場所に招待されるのに、未来予知で危険かどうか判断しなかったとは思えないため、前者の可能性は限りなく低い。後者ならまだわかるが、抽象的なことしか分からない未来予知にそこまで価値があるとは思えない。
やはり偽物と断じてしまって問題ない気がする。
『まとめると、金にがめつい未来予知系アイドルって感じね。口コミを見るに客の多くが満足はしてるみたいだし、悪質度は低いかしら』
「なるほど。じゃあクラフトさんはどうですか?」
『天才未来創造技師、ね。天才ってつくだけでどうしてここまで馬鹿っぽく感じるのか不思議だわ。こっちはオカルトグッズ販売サイトの運営人ね』
確かに天才ってつくと馬鹿っぽく感じる。ではなく、
「悪質度は高そうですか?」
『商品はどれも馬鹿みたいに高額で、書いてある文言も真実とは思えないものばかり。紛い物を高額で販売してるっていう点でまともな商売ではないわね。まあそれはうちも一緒だけど』
「ああ……」
ぐうの音も出ない。
『ただ効果はともかく、売られてるグッズの外観はかなり精巧らしいわ。インテリアとして購入してる人が何人かいるみたいだけど、概ね満足しているそうよ』
「じゃあこっちも悪質度は低いと」
『そうね。ぶっちゃけこんなもの信じて買う時点で買う側が悪いと思うから。これを買って効果がないとか泣きつく人がいても、世間に馬鹿にされて終わるでしょうし、こっちも悪質度は低いと考えていいんじゃないかしら』
「ふむふむ」
初対面の時は三人ともにとてつもなく怪しく感じたが、こうして正体がわかってくると幾分安心する。
こっちから変に仕掛けたりしなければ、何事もなくここだけの付き合いで終われそうだ。
『最後は自称神通力使いだけど、彼女だけはちょっと危険そうね』
「玉藻さんですか?」
『ええ。まず他二人と違って自分のサイトがないわ。それもあって口コミ含めて情報がほとんどない。都市伝説、SCPを紹介するサイトで、似た経歴の人物がいるぐらい。『タマモ』と名乗る不思議な力を持った女性の話』
「それって、都市伝説扱いされるほどやばい人ってことですか?」
『さあ。単にそれを見て真似してるだけの可能性もあるから。まあどちらにしても、身バレ防止を徹底してる奴は悪質なパターンが多いわ。彼女にはくれぐれも注意することね』




