目を見れば分かる
「犯人を暴くだと。本気で言ってるのか」
真っ先に突っかかってきたのは和彦さん。
彼は今も俺たちを疑っているらしく、目には敵意がありありと浮かんでいる。
未だ敵意に晒され慣れていない俺は肩を震わせるが、佐久間さんには当然通じない。
笑顔で「勿論ですとも!」と叫び、大きく手を広げた。
「犯人を見つけることなど簡単です! 人間の表情というものは、どれだけ隠そうとしても本心が漏れ出てしまうもの。正面からまっすぐ目を見て質問すれば、誰が文義様を殺したのか分かるはずです!」
「……こいつ、頭いかれてんだろ」
竜也さんがぼそりと呟く。正直それに関しては俺も全くの同意見なので反論できない。
ただ、やることがなく黙っていても退屈なのは事実。好きにやらせておけばいいという雰囲気になり、佐久間さんによる尋問(?)が始まった。
宣言通り、それぞれの顔を真正面で見つめながら、事件についていくつか質問する。
「あなたが文義様を殺した犯人ですか?」
「深夜の会話を言えない理由は何ですか?」
「死亡推定時刻前後に何か見たり聞いたりしていませんか?」
などなど。
そんなの犯人が答えるわけないだろという質問を恥ずかしげなく全員に実行。皆一言二言しか返さないため尋問は十分程度であっさり終わり、佐久間さんは定位置に戻ってきた。
期待はしない、しかし少し気にかかると言った絶妙な視線が集中する。
それらの視線を一身に受けた佐久間さんは、何度か鷹揚に頷くと、
「皆さま躊躇わず否定されていたことから、この中に犯人はいないと推察されます!」
と断言した。
何人かがコントのようにずっこける。悔しいことに俺もその一人。
いや最初から分かってはいた。こんな雑な質問で犯人を特定できるわけないと。でもまさか、ここまで意味のない答えが出るのは予想していなかった。
ただ幸いにも、犯人がいないという言葉は気休めでも俺たちの心を軽くした。緊張しきっていた雰囲気が、少し弛緩したものへと変化する。
――これならあと数時間、そこまで精神をすり減らさずに待てるかもしれない。
そんな楽観的な気持ちが湧いてきた直後。アカリさんが、重々しく口を開いた。
「ねえ……お母さん。お母さんは、あのお金、どこから来たと思う」