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この日本人の業の深さよ……
何故、異世界に来て生活水準を少しでも上げる努力を惜しむ? 何故、異世界に来てサブカルチャーを蔓延させる努力は惜しまない? 何故、生産性の少な……いや、まったくないものを蔓延らせようとする?
「私的にはリッケルトは攻めだと思うんですが」
黙れ腐。答える気もなければ、必要すら存在せんわ。
結局、村を襲った人さらいは屋敷で俺達が戦った賊の生き残りだった。最終的にバカ2人に5人の賊が斬り伏せられた。他にもいたかも知れないがもういい、疲れたナリ。
松明を照らしながら来た道を戻る。分かれ道まで戻ったところでシスターに松明を1つ渡す。大丈夫だ、お前に聖書がある限り恐れるものは何一つとない。俺達はもうこのまま城に向かってしまおう。
「ところで御三方はどちらに向かわれるのです?」
シスターの問いに俺達3人の視線が交錯する。3人で培った信頼、今見せずにいつ見せると言うのだ!
「森」
「城www」
「城www」
協力しろやバカタレ! こいつ付いてくる気満々なんだぞ!!
「あー明後日城下町で即売会があるから行かないとなー。あーでも女1人だと危険だなー。チラッチラッ」
クソうぜぇ……その聖書持ってりゃ誰も襲いやしねえよ。その前に即売会とかやってんのかよ。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は近くの村でシスターをしていますナズナです。これから宜しくお願いしますね」
『これから』って何だ『これから』って。
シスター(腐)を一行に加えて街道を進んで行く。途中の寄り道のおかげで、屋敷を出て3日目に俺達は城下町に辿り着くことが出来た。
「この独特の雰囲気……この空気の澱み……滾るッ!」
シスター(腐)は「また後で!」と言い残し、イベント会場へと走り去って行った。もう会う事もないだろう。
俺達3人は協議の結果、イメクラには夜に訪れることを約束し、何の役にも立たないだろうが城へ向かうことにする。
城内は負傷者で溢れかえっていた。街の治療所も治療を受ける者、待つ者で溢れていたのである程度の予想はついていた。裂傷、骨折などはまだ良い方、四肢の一部を欠損しているヤツもいる。まさにこの者達の姿が戦闘の熾烈さを物語っているのだ。即売会やってる場合じゃねえぞ。
兵士の1人を捕まえて状況を聞くとハルジオン公爵及び行動を共にしていた側近達は未だ行方不明、ホオヅキ団長達は前線の砦に駐屯し帝国の進軍を食い止めている。
「竜騎士隊ってのはどうなったんだ? 空飛んでこっちに来るんじゃねえの?」
「そこは問題ない、竜騎士隊は撤退した。泉の国方面に援軍に出ていた森林の国の部隊が異変を察知して駆けつけてくれていたらしい」
どうやって撃退したんだろうな? まあ森林の国なんて絶対行かないからどうでもいいか。
「お前らちゃんと呼びに来いよ」
「おまかせをwww」
「期待していると吉www」
2人と夜の約束を交わし、それまでは別行動にする。なんせこの世界に来てから約2週間しか経っていない。今の俺は好奇心探究の塊だ、まずはこの城を調査することから始めよう。
しかし刹那に飽きる。確かに生前にこんな石造りの城を見たことはない。心底、人の技術には恐れ入る。だが、それだけなのだ。面白いかどうかと尋ねられれば、全く面白くない。
日が落ちるにはまだ時間がある、どうやって暇を潰すか……。城下町にでも行くか? 腐に絡まれる可能性があるから嫌だ。じゃあこの通路を脇に立って装飾品の真似でもしていようかな? そんな事を考えながら進んでいれば、もちろん迷子になる。ヤベ、帰り道がマジでわからんくなったぞ。
こういう時は道を尋ねる為に扉を開ける。そうすればマンガやアニメでお馴染みのラッキースケベハプニングが起こるという寸法だ。そしてあわよくばニャンニャンと! 俺はその考えに従い堂々と恥じることなく扉を開ける。
なるほど、ここはレンゲの部屋だな。推理もクソもない、何故なら壁という壁に矢が掛けられているからな。猟奇すぎんだろ。
そのレンゲ、当の本人は部屋に置かれている机に突っ伏している。まあ無理もない、親の生死すらわからん状況だ。
悲嘆に暮れる女に優しい言葉の1つでも掛けて落とす、まさにちょろイン認定待ったなしってヤツだな。任せろ、俺も伊達や酔狂で『成田のニュータイプ』とは呼ばれてない。
机に伏せたまま、よく聞けば何かを呟いている。
「このままでは私が家督を継ぐことになる……働きたくない……」
そういやこんなヤツだったな。干物のあげく、ニート属性持ちとか。この上、腐属性まで付いたら猛者の出来上がりだな。ナズナとの接触は極力控えさせるようメイドにでも伝えてやるか。
「タナカ、お前にこの国やる」
「いらねえよ」
気付いてたのか。まあ、あれだけ自分の悪口に敏感な耳だ、幾分おかしいこともないわな。
「タナカ殿、こちらにいらしたのですか。ホオヅキ団長より伝言を承っております」
兵士が開けっ放しの扉の向こうより声を掛けてくる。大分探していたのか汗だくだな、鎧を着て走り回って難儀なことよ。
「答えはノーだ。その伝言はお前の胸に留めておけ」
「そうだ、私達は働きたくないんだ」
「3日後に出発する泉の国へ向かう援軍に同行せよとのことです」
不満の抗議を上げる俺達を尻目に、兵士は一度聞こえるよう舌打ちすると淡々と伝言を伝え去って行った。俺はまだしも、一応公女のこいつにその態度も大概だと思うぞ。気持ちはわからんでもないが。




