13
竜騎士隊が撤退した今、ホオヅキ団長が駐屯する前線の維持は容易になった。それは泉の国に対しても同じことが言える。
これを機に各国は王国を奪還する作戦を立てる。草原の国は立地上、作戦が成功すれば陸地から攻められる心配が少なくなくなる。竜騎士隊の脅威は残るが、森林の国の部隊が駐屯することで牽制することが出来る。
草原の国は残る全戦力を投入する。帝国本軍が駐屯する王都へ向かい西方面から草原と森林の連合が進軍し、東方面より泉と俺が従軍する援軍が進軍することになった。
しかし俺が直面する問題に比べれば、こんな戦など些細なものだ。俺の心は深き闇へと堕ち、もはや生きる希望さえ失ったのだ。この世界に来てから自分の肉体の変化には薄々とは気が付いていた。まさかと思う時もあったが、自分を偽って生きていたんだ。
悲劇は3日前の夜に起こった。俺達3人は城下町にあるイメクラを訪れ、それは楽しいひと時を満喫した。しかし至福の時も終演を迎え、店を出る俺に対しあの2人はこう言った。
「娼館行こうずwww」
断る理由など存在するはずもなく「行こうずwww」と、即答で話はまとまった。無論、テンションも上がりに上がる。生きとし生けるもの母なる海に帰るのは至極当然の慣わしだからな。
夢の扉を潜る3人を出迎える華やかな色とりどりの女神達。そして1人の女神を即座に選ぶと愛と希望に満ちた個室へと通された……
クソがぁ!! この歳でEDとかマジありえねえぞ!!!
しかも言われた台詞が「あら、男娼の方が良かったかしら?」だと? あのクソビッチが!!
この世界に来てから一度もたとえ朝でも元気になったことなかったからおかしいと思ってたんだよ! そんな怒りに震える俺の魂にかつて聞いた言葉が呼び起こされる。
『それと枷を付けさせてもらう』
――あいつか。今しがた俺が生きる目的は決まった。この鳳凰田中、今一度あの場へ舞い戻り自称神を粉微塵に磨り潰し、餓鬼どもの餌にしてくれるわ!!
「そ、そろそろ離して頂けませんか……」
黙れ。顔を鷲掴みにされて引きづられているこのバカシスターは事もあろうか俺を題材に薄い本を書こうとしやがった。挙句、「あなたはもう『受け』として生きていくしかありません。それは主もお許しになるはずです」だと? ならば貴様が受ける仕打ちも許されるな!
情報提供者にも罰は与えている。後ろをよろめきながら付いてくるボコボコの顔したバカ2人だ。
「申し訳ございませんでした……」
「軽率な行動、心より反省しております……」
もちろん草が生やせなくなるまでボコした。
「ところで何でお前ついて来るんだ? 村には帰らなくていいのか?」
俺の指の後がくっきりと付いたナズナに問い掛ける。何の役割があるか知らんが、村で唯1人の聖職者なんだろ?
「はい、村には暫く留守にすると手紙を出してきました。私も聖職者の端くれです、傷ついた方の治療のお手伝いはでき……ゲフンゲフン、泉の国には同人誌を扱う店が多いと聞いておりますので後学の為、一度拝見しようかと」
本音と建前が逆だ腐。まあ、後生大事に即売会で手に入れたBL本を抱えているのを見る限り、もう手遅れだな。
「なあ、そういや俺達が向かってる泉の国ってのはどんなとこなんだ? 森林の国みたいに凄い武器とかあるのか?」
草原の国は主な戦力が騎馬隊だ、しかし森林の国には少々驚かされた。あの国の主戦力は豊富な木材で作られた兵器だ。泉の国に向かう俺達と入れ替わる形で森林の国の兵士がやって来た。元々はハルジオンの援護に向かう部隊だったらしく、報告を受け何割かが草原の国に駐屯した。
駐屯する兵士が組み上げたモノは大型弩『バリスタ』だった。それも車輪が付いていることから馬に引かせて移動しながら狙撃するんだろう。確かにこれなら竜騎士隊を撃退出来るのか? まあ俺が扱える代物じゃないからわからんが。
それと森林の兵士達に帯同していた技術者達に1つ頼みごとをしてきた。俺専用の防具と盾だ。あくまで人間が使用する事を前提で物を作る技術者達。だが俺の事情を話し、重量を無視出来ることを伝えると素晴しいモノを作ってくれると約束した。
なので泉の国にも期待してしまう。泉と言うからには水関連だろ? 巨大戦艦とか出てきたらどうしよう? 戦艦や戦車は男の憧れだ! 大きければ大きいほど尚良い! これをおっぱいに例えると……無理だな、普通が一番だ。巨乳? あんまり限度を超えると人間に見えなくなる。貧乳? 貧相すぎてご飯食べさせたくなるやん。
「凄い武器と言うよりは凄い舟ですね」
バカ2人に尋ねるとナズナが会話に割って入ってくる。聞けば、泉の国は領地内に泉はあるものの、東側は海に面している。それで船が発展したらしい。
「10人も乗れる舟ですよ! 見た事も行った事もないから知りませんけど」
知ったかかよ、黙ってBL本でも読んでろ。それに10人ってのも微妙だな。でかい船作って浮かべりゃ、10人なんて簡単に乗れるモンじゃねえの? まあ、俺の知識もこの程度なんだが。
しかし長い旅路でようやく着いた泉の国には、俺に慢性的な頭痛を起こさせる奴等がいた――




