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地球人がいるのか

「僭越ながらお二方の指導を任されました、アンナと申します」


 昼食を満喫した俺達を訓練所で迎えたのは、メイドだった。

 というか、昨日謁見の間で女王の側にいた人だ。まさかと思いつつ視線を巡らせると、いた。城壁に隣接した広場の片隅。訓練で使うのだろう機材置き場の横にポツンと置かれた不自然すぎる子供用の机と、そこでペタペタと紙にハンコを押している幼女王。少し離れたところで50人程の兵士が槍術の訓練をしているのが、またシュールだ。


「どうしてもご覧になりたいとの事でしたので」


 だからって無理して連れてこなくてもいいだろ。あの机わざわざ運んできたのか?

 時々こっちを見て元気に手を振って来るアルスティナ。凄いだろ、あそこで今、国のあれこれを動かす重要な書類に承認印が押されていってるんだぜ。


「てっきりケイツが教えてくれるんだと思ってたよ」

「あの方も中身こそちゃらんぽらんですが、一応は元帥ですので。昨夜のことも含めお忙しいのです」


 中身バレてるじゃん。まあ女の人の前でだけ猫かぶっても、噂なんかで伝わるのかもしれない。

 しかしメイドさんに教わるのか。魔法をだよね? 掃除の仕方とか言い出さないよね?


「ご安心を。女王陛下の教育を任されたメイドである私は政治、帝王学はもちろん、話術、計算術、心理学、戦闘術、格闘術、暗殺術、武器戦闘全般、軍事戦略、拷問尋問、料理、掃除、夜の奉仕、介護、薬品調合とあるゆる分野に精通しておりますので」

「うん、半分以上メイドの仕事じゃないよね?」


 それがこの国のメイドにとって当たり前の技能なら、もう安眠できる自信がない。ところでそれらの技能はどこまでアルスティナに伝授しているんだろう。もしかして俺、あの子より弱い?

 今もこっちに向けられている、あの無邪気な笑顔が急に怖くなった。


「それでは講義を始めさせていただきます」


 俺の不安をスルーして、突然アンナさんの手に箒が出現した。魔女が空を飛ぶのに使いそうな、古い形の箒。それがアンナさんのEXアーツなのか。


「まず、魔法とは何だと聞いていますか?」

「はい。魔物をやっつけるための武器です」


 琴音が手を上げて答えた。学校の授業じゃないんだけど、発言する時は手を上げたほうがいいのか?


 琴音の言う武器っていうのはEXアーツのことだろうな。俺はEXアーツから引き起こされた現象を魔法だと思ってたんだが。


「これはEXエクスアーツと呼ばれる物です。イーエックス、イクスと呼ぶ人もいます。これ単体では見た通りの道具、武器にすぎませんが、このEXアーツに魔力を流すことで--」


 アンナさんが箒を動かすと、そよ風が周囲の砂や枯葉を一カ所に集めた。あら便利。


「恥ずかしながら第10期魔法士の魔力では、この程度です」

「ええー、全然いいですよぉ! この魔法があれば境内の掃除も楽ちんだろうなぁ……」


 神社の敷地を箒でせっせと掃除していた琴音からすれば、是非とも欲しい能力だよな。今ならなんと、送料こみこみ19800円! ウソです。


「昨夜、風の魔法に襲われたコトネ様の前でコレを使うことに抵抗はありますが、生まれ持った属性以外は使えませんので、ご容赦を」

「……大丈夫です。気にしないでください」

「ありがとうございます。それでは続けさせていただきます。魔法とは、魔物……餓獣と戦う力です。つまり、オリジンよって持ち込まれた『属性』を持つ『魔力』を、触媒となる『EXアーツ』を経由することで形作られた現象。それが魔法です」


 お。俺正解じゃん。

 でもそうなると気になることが一つ。


「昨日琴音を襲った奴はEXアーツを使わずに魔法を使ってたぞ?」


 アンゴルのEXアーツ。鎌を出したのは琴音に追い詰められてからで、それまではEXアーツ無しで戦っていた。あれは魔法じゃないのか?


「なるほど、昨夜の襲撃者はよほどの手練れだったのですね。それは魔術と呼ばれる、EXアーツを介さずに魔力と属性だけで現象化させる技術です。EXアーツを経由すると、どうしても決まった形になってしまうので、自由に形作りたい時に使われます」


 なんだ、それならEXアーツ使わないほうが良さそうだな。


「ただし魔力の消費量は数倍に跳ね上がり、効果は数段落ちるので使われる機会はほぼありません。第9、10期の魔法士では、そもそも発動すらできないかと」


 そんなこと無かった。

 でも俺達は魔力はたくさんあるらしいし、できるんじゃないか……と思ったけど、自分の魔法を思い出して諦めた。鳥の形じゃなくなったから、なんだって言うんだ。全然意味がなさそうだ。琴音のジョウロも、自由な形にどうぞと言われても困る。

 その内いいアイデアが浮かぶかもしれないから記憶には留めて置こう。


「次に属性ですが、1200年前に来られた魔導師オリジンは10名。すなわち10種の属性があります」


 金色のオリジン……火属性

 紺碧のオリジン……水属性

 天波のオリジン……風属性

 滅紫のオリジン……雷属性

 琥珀のオリジン……地属性

 白夜のオリジン……光属性

 極夜のオリジン……闇属性

 薄雲のオリジン……空間属性

 暁のオリジン……強化属性

 黄昏のオリジン……重力属性

 

「琴音は愛属性だっけ?」

「それ恥ずかしい……」

「何で俺は属性分からないんだろ」


 琴音は覚醒と同時に、元々知っていたみたいに分かったらしい。その感覚には俺も覚えがある。魔力に目覚めた時、頭に流れ込んできたEXアーツの知識。琴音のはそこに属性の情報も追加した感じだと思われる。


「覚醒時の条件である命の危機ですが、より危機的な状況であるほどに覚醒の度合いが大きくなる可能性がある、という話を聞いたことがございます。事実として、簡略式で目覚めさせた人間が自分の属性を把握していたケースは一切ありません」


 ってことは追い詰められれば追い詰められる程、一気に魔法を上手に使えるようになるってことか。

 でも俺も結構やばい状況で目覚めたような……いや、そういえば血を飲んだのは死にそうになった時じゃなくて、虎と相打ちになって「やったか」とか思ったタイミングだったっけ。……もう少し後で飲んでれば良かったのか、くそぅ。


「使いながら把握していくしかないでしょうね。聞き及んでいる話から推測するに、捕食、吸収と言ったところではないでしょうか」

「ジルが喋れたら早いんだけどなー」


 ピィしか言わないからなぁ。いや当たり前だけど。


「そういえばオリジンって、結局1200年前から私達が来るまで、一人も来なかったんですか?」

「あ、そういやそーだよな。入口はわりと簡単に行ける場所にあったし」


 神社の雑木林なんて、1200年間誰も近づかないような場所じゃない。管理してる琴音の一族だとか、ちょっと参拝客が散策したりだとか、俺達みたく冒険と称して遊びに入った子供とか。それに昔のオリジンは色んな国の人が入り混じってたみたいだし、世界中に入口があると考えるべきだ。

 田中が来れなかった辺り、誰でも来れる訳じゃないんだろうけど、1200年あって0人ってことは無いと思う。


「私共には世界移動の法則など想像もおよびませんが……」


 アンナさんが困ったように視線を彷徨わせた。言うべきか悩んでいるようだが、やがて意を決して口を開いた。


「10年ほど前に1人……」

「地球人がいるのか!? 10年前ならまだ生きてるよな? 今どこに--」

「お話するのは構いませんが、どうか決してお会いに向かわないと約束してください」


 なにその前ふり。絶対ろくな事じゃない気配をびんびんに放ってるぞ。

 会ってみたいから知りたい。でも約束しないと教えてくれない。そして教えてもらうと会いに行けない。意味無いじゃん。

 でも心配して言ってくれてるんだろうから、じゃあ他の人に聞こう……ていうのも、人として抵抗あるんだよな。


「偶然会うのとか、向こうから来るのはノーカンだよね?」

「……はい。積極的に探そうとさえしないならば」

「じゃあ、約束する」


 どっちにしろ会えないなら、知っておきたい。


「名前、性別、年齢、容姿などは一切分かっておりません。わかっているのは所属する国と、称号。それと属性のみです」


 今思い浮かべてる第一候補は、テロスだ。日本でも見かけ、得体のしれない力を使う少年(?)。セレフォルンの軍で頂点に立つケイツでも手出しできなかった黒マント。あいつがオリジンなら、あの化け物っぷりも……まあ無理やり納得できなくもない。


「所属しているのは、ガルディアス帝国。そもそも、かの国が強気で出てくるのも、オリジンを獲得したためだと考えられています」


 テロスはオルシエラの関係者だと言っていたから、違うのか。ただ、複数の姿を持っているみたいだから一概に違うとも言い切れないな。むしろ同一人物じゃなかったら、もう1人化け物がいるってことになる。

 オルシエラの化け物テロス・ニヒに、ガルディアスのオリジン。




「属性は『悪』。称号はくろがねのオリジン。それがこの世界を戦乱に導いている魔導師の名前です」

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