ホストになって、血を吐いて。
多分俺、ワイン農家の人とかが見たら、泣いてぶん殴られそうな酒の飲み方してると思うわ。
だって、ロマネコンティに氷入れて流し込むみたいな飲み方やもん。
本来は、もっと、味わって飲むもんやろう?
わかっとるんやで、いい酒なのは。
けど、そんな飲み方しとったら、量サクサク飲まれへんからな。
仕事やからしゃあないけど、まあ、そんな飲み方しとったら体壊すのは当たり前で。
最初に胃を壊して血ィ吐いたのは二十四歳の時や。
仕事あけに、ギリギリギリって内臓をねじられるような痛みがきて、すぐ、やばいって思ったからいつもの病院に駆け込んだんやけど、俺の仕事終わりなんて夜中を通り越して朝方や。
いつもの先生は当然おらんで別の先生が診てくれたけど、その先生、まずは検査せなあかんの一点張りで、その検査の間中、俺は脂汗たらして何時間も放置。
そうこうしとるうちにいつもの先生が出勤してきて、俺は我慢できずにその先生らの前でがばっと血を吐いた。病院の床は一面血まみれや。
「なにやっとんの! 私この子のカルテに書いとっただろう! 出す薬もなにもかも全部!」
それ見ていつもの先生が夜勤の先生をガンガン叱りながらすぐ点滴してくれてな、そのまま入院や。
いつもの先生が電子カルテに赤い文字で、「なにもするな! 検査するな!」って打ち込んどるのが最後にちらっと見えたわ。先生あれ、最大フォントで打ち込んどったな……。
血を吐く前から内科には通っとって、胃の薬はもらっとった。その先生によく注意もされとった。
「酒を控えろとは言わんけど、せめてもうちょっと食べて胃に負担をかけんようにせんと。そのうち胃に穴あくで」
ってな。
けど、仕事終わって家に帰ると、食欲なんてあったもんやあらへん。
ぶっ倒れるようにベッドに横になって寝るんやけど、俺、あんまり長い時間寝られへんタイプみたいで。三時間も寝たらいいほう。
でも体は疲れとるから、じーっとベッドに横になって、そのうち犬やら鳥やらが俺の気配を感じて起き出してくる。特にうちで一番うるさいオキナインコ三羽が鳴きだすと、それにつられるようにして他の鳥たちや犬たちも鳴きだすからな。
そいつらのことを世話してたら昼近くになって、そしたらもう一度眠気が来るから、寝られるようなら少しだけ寝る。そんな生活をしてたんよ。
気がついたら今日一日何も食べとらんとか、ざらや。
けど、胃の薬はちゃんと飲まんとあかんし、薬を飲むためにはなにか食べんとあかん。
それでしゃあなし、食いたくないけどなんか食うか、ってコンビニでおにぎり買う。
けど、コンビニのおにぎりってまずくない? 薬臭いというか。
仕事が忙しくて、酒の量が増えに増えて、もうコンビニのおにぎりも食えへんってなった時の最終手段は、アンパンマンの子ども用パンや。
スーパーに行くと、パンコーナーの下のほうに置いとるやつ。
スティック状になっとって、プレーンとかチョコとか野菜とかいろんな種類があるけど、子ども用のパンやから胃にやさしいんよ。
あれをお茶と一緒に流し込んだらすっと溶けて、食欲ない時でもなんとかいける。
食いたいものを食うとか、うまいものを食うとかやなくて、薬を飲まんとあかんから食う、になっとるのよな。
ホストクラブのオーナーには俺の食生活は割と筒抜けで(後輩のホストがいろいろ喋ってるんやと思う。ハルヒくん今日もアンパンマンのパン食うてましたよ、とか)ちょいちょい、飯に誘ってくれる。
その時は俺もついていくし、食いたくなくてもちょっとでも食う。
そうしないと、血ぃ吐いたらまた入院やし、入院てなったら店にも迷惑かけるしな。
十八歳から二十六歳までの俺の毎日は、だいたいその繰り返し。
仕事して、動物たちの世話して、その合間に病院通って。
腰のヘルニアもあるから、整骨院で鍼打ってもらっとる。
手術も考えたけど、手術するほどでもないんよね……。でも整骨院を少しさぼると、腰だけやなくて、足とか、肘とか、変な場所まで痛くなってくるという。
ホストクラブのオーナーは、系列店でキャバクラも持っとるから、しばらく前からは週に二日、オーナー代理でそこのキャバクラの監督もやる。
ホストの仕事だけやともっと遅い時間でいいんやけど、キャバクラの監督もする日は早く出なあかんから、その日は一日が長く感じる。キャバクラの女たちはくっそ生意気で、ようよう言うこと聞かへんしな……。
週に二日のキャバクラ監督以外にも、週に三日、仕事に行く前、町内会の銭湯でバイトもしとる。
時給は最低賃金の992円でな。
月に八ケタ稼いどる人間が、なんでそんなことしとるかって?
それは、町内会の会長さんがやっとる銭湯だから。
俺が高校生の時、喧嘩して警察に追いかけられてたら、「ハルヒ、どうしたんや」って会長さんが声かけてくれて、銭湯の中にかくまってくれて助かったことが何度もあった。
そのおっちゃんももう年で、銭湯の番台に立てなくなって、でもいまどきそんな場所でバイトしてくれる人を探すのも大変らしいんよ。
しかもタチの悪いことに、昔っからバイトしとる古参のばばあが二人ほどおって、新しい人が入ってくれてもそのばばあらが意地悪するからすぐ辞めてしまう。
ある時おっちゃんに頼まれたのよ。
「ハルヒ、お前、人が見つかるまでの間、週に一日でもええから助けてくれんか」
ってな。おっちゃんの頼みなら断れへん。
「お前なら、あのバァさんたちともうまくやれるかもしれへん。それでもし、あいつらがうるさいこと言うてきたら、キレていいから」
言われてな。
最初のうちはよかったけど、俺が毎月のシフト作りを任されはじめたら、状況が険悪になった。
ばばあらは自分たちのシフトを減らされたくないねん。もう年やし、ここ以外で働ける場所もないんやろう。
それはわかるんやけど、こっちもおっちゃんの気持ちを汲んで若い人を入れていかなならん。
若い人が来てくれたら、その人にもシフトに入ってもらうのは当然やん。
けど、ばばあはそれが面白くなかったんやろうね。
若い人には意地悪言うて、俺にはチクチク嫌味を言うてくる。
おっちゃんは「いざとなったらキレてええ」言うてくれたけど、俺がキレたらどうなる?
ばばあたちを怖がらすのは簡単なことよ。けどな、それでばばあふたりが辞めてしまったら、その時間帯に入れる人間がおらへんやん。
そうしたら、俺はおっちゃんを放っとけんし、けど俺の体もそろそろここらで限界や。これ以上番台のバイトは増やされへん。
……って考えると、若い人の愚痴は親身に聞いて、ばばあらの嫌味は「そうですか、そうですか」って聞き流してやな。
これが本業以上にメンタルにくる。
キレたらあかん、我慢せなあかん、ってずっと思ってるからな。
そいつらの相手しとるとつくづく思うわ。
おっちゃんは、俺なら女の扱いに慣れとるやろうと思ったのかもしれんけど、ばばあいうのは女とはまた違う人種やって。
客でも鳴らさん俺の携帯、あのばばあら、自分らの文句と嫌味でようけ鳴らしよる。
まあ嫌なことばかりってわけでもないけどな。
銭湯からまっすぐホストの仕事に向かう時、いつも来てくれてる小学生の男の子が、
「にいちゃん、スーツ着るとやっぱりカッコええな」
って言ってくれるから、
「おっ、そうか? 褒めてくれたからフルーツ牛乳おごったるわ」
って一本渡したる。
やっぱり子どもはかわいいやん。俺、おにいとおねえの子どもにもよう懐かれてんで。
そうやってかわいがっとったら、
「にいちゃん、俺こっち掃除しといたるから! 仕事やろ、早う行きや!」
なんて言うてくれたりして。
「そんなんええよ、お前風呂あがったばかりなんやから、ゴミとかさわらへんでもええ」
って返すけど。その気持ちが嬉しいよな。
そんなんしてホストクラブに出勤して、その日も朝まで酒を流し込んで、家に帰るのは朝方。その繰り返し。
そんなやと、彼女とか、作る気にもなれへん。
十八歳から二十六歳の間に、ペットばっかり増えてく日々ですわ。
あとはもう、あんまり面白い話もないで。
ホスト始めてからは地味ぃーな毎日やから。
……そやなあ、せいぜい、お客さんに通帳一冊渡されて、「これでお店一日休んで私と一緒にいて」って言われるとか(丁重にお断りしましたボクは)。
あとは、店に刃物持った女が来たりして、しゃあないからナイフ掴んで止めて、手ぇ血まみれになったりするくらい。
けどそんなんは、高校時代から喧嘩相手がナイフ出してきたりすることもあったし。刺されるのもこれが初めてとちゃうし。
大体どんなやつでも、自分の刃物で相手が血ぃボタボタ流しとるのを見ると一瞬ひるむんよ。そこをすかさず、
「おねえさん、今ナイフ引かんどいてな、俺の指千切れるし。そのままな」
って言いながら刃物をとりあえず放させて、ホストの後輩にあと任せて、警察呼べよ、あと俺病院行ってくるから、って言い残して、傷口縫ってもらって、病院から帰ってきたらまたいつものように酒を飲んで、おしまい。
ストーカーされたこともあったな。
それがストーカーだって気づくまでに一年くらいかかったけど。
銭湯の番台のバイトをあがる時に、なんやいつも立っとる女の人がおるんよ。
じろじろ見たりはせえへんけど、同じ女の人だってことはわかるねん。
最初は俺、こう思った。
「こんな遅い時間まで女待たせて。男のやつ、早う迎えに来てやれや」
ってな。
そんで、そう思っただけで、ストーカーとは思ってへんかった。
けどある時、ふと思った。
……あれ、俺にだけ見えてるんちゃうよな? 俺にだけ見えて他の人には見えれへんやつやったらどないしようって。
実は俺、おばけとかめっちゃダメやねん。ホラー映画とかも怖くてよう見られへん。
だから中学時代の友達に事情話して、俺が仕事あがるいつもの時間に来てもらって、
「お前にも見える? あれ?」
「うん、見えるわ」
「足ある?」
「あるで。でな、ハルヒ。あの人お前のこと見とるで」
「まじかい」
それからどうしたかって?
何事もなかったかのように、静かーに、暮らしましたよ。
そういうのは刺激したほうがよくないし。
俺が仕事あがりに自分の車に乗り込むところも見られてるし、ということは車のナンバーもバレとるわけやしね……。
けどな、その年の秋の連休に、俺、甥と姪を連れて和歌山のアドベンチャーワールドに行ったんよ。甥っ子も姪っ子も俺に似て、動物好きやから。
そしたらな。アドベンチャーワールドに、そのストーカーの女の人も一緒に来とったねん。
アトラクションとか乗った後に、集合写真を買えるようになっとる場所があるやん。自動で撮られて、買いたい人はどうぞってなっとるやつ。
それを子どもらのために買ったろかと思って、ふと写真見たら、俺らと同じ組の写真にその女の人が写っとんの。
しかもその人、動物やなくて俺を見とるのよ……。
更にその後、別のアトラクションを子どもらと一緒に見とる時、ふっと横を見たらな。
おるねん。
隣に。その人が。
そこから、相手にもなんか加速がついたんやろね。
今まではじっと見とるだけだったけど、向こうから話しかけてくるようになったから、もうこうなったら向き合って話をせなならん。
「好きなんです」
「嫌いなんです。ストーカーとかする人」
「私は好きなんです。結婚してください」
「僕と結婚するのにいくら出せます?」
「はっ?」
こういう時は、なんやこのゲス、って思わせとくに限るねん。
下手にやさしいこととか言うと、いつまでも終わらんから。
そんで相手がきょとんとしとるうちにさっさと帰った。
それから何度かそういうことがあって……今は、姿を見ないから、多分収まっとる。
まあ、もっとこっそりやられとるだけかもしれんけど。
なっ、全部たいしたことないやろ。
二度目に血を吐いて入院したのは、ついこないだのこと。
仕事終わってさあ帰るかってなった時、急に気持ち悪くなって、やばい吐く、しかもこれは血ぃ吐くやつやって。
こういうのがすぐにわかるようになるのも嫌なもんやけど。
そうしたら案の定や。
ぎりぎり内臓が痛み出したと思ったら、我慢できずに店の床にどばーっと血を吐いてもうた。
汚したままでごめんやけど、って後輩の子らに後任せて、そのままタクシーで病院行って、即、入院や。
点滴してもろて、まあ二度目やから慣れたもんやった。
退院の日、俺は手続き済ませて病院の駐車場に向かって歩いとった。
そうしたら、少し離れたところの車椅子に乗ってる人が、さっと立ち上がったねん。
なに? って思ってそっちを見たら、エルやった。
がりがりに痩せて、病院の車に乗せられようとしとるところ。
車椅子に乗ってるくらいやから、もうひとりでは歩かれへん状態なのよ。けど、俺を見てエルが立って、こっちに来ようとしとる。その後ろではエルのおばちゃんがボロボロ泣いてる。
エルがこっちに歩いて来ようとしとるのを、病院の男性スタッフがふたりがかりで押さえ込もうとしとった。
そういう時の患者って、どんなに痩せてても、ものすごい力を出すからな。
で、エルが押さえつけられて無理やり座らされとるのを見て、またおばちゃんが声上げて泣いとる。
そんなん、俺かて素通りできへん。
「あの、スタッフさん、すみません」
そう言うて近づいて、
「手ぇ押さえとるの、ちょっとだけ離してやってもらえん? おばちゃん泣いとるし、暴れたら俺がなんとかするし」
言うて。
俺が近くに行くと、エルはぴたっと大人しくなったから、スタッフさんも手を離してくれた。
そんで改めておばちゃんに事情を聞いた。
エルはあれからシンナーだけやなくて覚せい剤をやっとったこと。一緒にいた男の影響やってこと。薬物依存者を対象にした回復施設にも何回か入ったけど、駄目だったこと。結局病院に入ることになって、でもそこで暴れたらしいことも。
そんなことが何度もあるとそこには置いておかれへん。
そやから、その日、エルは別の施設に送られるところやってん。もっとしっかりした厳重な施設にね。
俺が話を聞いてる間、エルは俺の服の裾をぎゅっと握って、離そうとせん。
そんで俺に向かって言うのよ。
「ハルヒと一緒に帰る」
おばちゃんが教えてくれたんやけど、どうも入院してる間、エルの中ではまだ俺とつきあっとるってことになってたらしい。
「連れて帰って」
エルは言うけど、そうもいかへん。
「あのな、エル。お前は今体調がよくないやろう? せやから入院して治しに行くんやろ? 俺もや。俺も体調おかしくして、病院で治療して今日退院やねん」
話して聞かせると、まばたきもせんとじいっと俺のことを見とる。
「みんな同じなんよ。体に悪いところあったら、病院で治してもらって、治ったらまた戻ってきたらええの。わかった?」
「……のどかわいた」
「そうか、ほな何か買ったるわ」
自販機であったかいお茶を買ってな。
もうエルの手はペットボトルの蓋も自分であけられへんようになっとるから、俺があけてやって、飲みや、って渡してやった。
「それ飲んだら行くんやで」
「……」
「行くんやで」
行かな病気も治されへんやろ、病気を治さな帰ってこられへんやろう、って何度も言ったらようやくエルはうなずいた。
「……行く、けど」
「けど?」
「ハルヒ、迎えに来て」
「お前が頑張って病気ちゃんと治したら、迎えに行ったる」
エルはちょっとずつ、ちょっとずつお茶を飲んどった。
長い時間かけて、病院の人らにも待ってもらって申し訳なかったけど、ここは俺がしっかりしとかなあかん場面や。そう思ったから、落ち着いて、笑顔でエルを送り出したわ。
おばちゃんは最後まで泣いとったなあ。
「いつも迷惑かけてごめんなあ、ハルヒくん」
「ええよ、おばちゃん。俺たいしたことしてへん」
「ほんま? ほんまにええの? あの子に、治療を頑張ったらハルヒくんが迎えに来るって思わせとって構わんの?」
「別にええよ」
ええよ、とは言ったけど。
俺もおばちゃんも、胸の中ではわかってる。
エル、ああなってしまったらもう、元の健康な体には戻らへんやろうって。
お互いに口には出さへんかったけどな。
その日家に帰ったら、犬三匹が先を争って飛びついてきた。
俺がいない間おかんに頼んでこの子らには餌をやっとってもらったけど、おかんは爬虫類がダメやねん。せやし、トカゲとカエルはノータッチや。
まあこいつらは毎日餌やりは必要なくて、週に一度くらいでええのやけど、それでも汚れた部分は替えてやらなあかん。
犬たちも、ペットシートでやったらええのに、わざわざ俺の目の前であてつけみたいに粗相しよる。
そいつらを叱りながら、次から次へと世話をしながら、俺は考えとった。
なんでやろう。
なんであいつがあんな姿にならなあかんのやろう。
まず、男もアホや。
覚せい剤なんかやらせたらエルがどうなるか簡単にわかることやろうに。
惚れた女になにやらせとんねん。
エルの男も今すぐぶん殴ってやりたかったけど、俺が一番情けなかったのは自分のことや。
あいつがああなったんは俺のせいやと思ったから。
ずっと前、付き合ってた中学生の頃、俺はあいつを大事にしてたつもりやったけど、足りひんかったんや、きっと。
鳥かごの中では、俺が帰ってきたから、インコたちが一斉に鳴きだしとる。
犬の一匹は、撫でろ、言うて強引に俺の手の中に入ってきて、俺が撫でとらん、言うて文句吠えしとる。
「お前らちょっとも大人しくできひんの……」
帰ってくるまで我慢しとったけど、もう限界やった。
ペットシートに涙と鼻水を落としまくりながら、俺は思った。
ほんまに、なんでやろ。
俺は好きな女を大切にしたいし、しとるつもりでおったけど、俺と付き合った女はみんな不幸になったりおかしくなったりやん。
真面目に付き合いたいと思った相手ほどそうなるやん。
これってなんでなん? 俺が悪いん?
だってそうでも考えんと説明つかないやろ?
高校の時に付き合った彼女も、それから会ってないけど、噂では次々男変えて、高校も中退して姿消したって聞くし。その後に付き合った女もそうや。
せやから俺は最近意識して彼女を作らんようにしとった。
大切にしたいと思った相手ほどこんなんなるの、俺のほうが耐えられへん。
元々俺はおとんともおかんとも血がつながってへんし、なるべく早く自立して家から出なあかんと思っとった。
それもあって、高校を卒業してすぐホストになって、金もたくさん稼げるようになった。
自分なりに頑張っとったつもりやったんよ。
けど、どんだけ頑張っても、意味ないやん。
関わった人を今でも不幸にしとるのやから。
「どんだけ頑張っても、強くなっても、ダメなもんはダメなんか……」
言葉にしたら、なんや胸の中が冷たくなって、涙が引っ込んだ。
産みの母親が、俺をいらんって捨てたのがわかった時もこうなった。エルがシンナーを始めて、俺がいくら言ってもやめへんかった時も、似たような気持ちになった。
俺の言葉も俺の気持ちも、結局誰にも届かへん。
俺は誰のことも幸せにしとらんし、きっとこれからも幸せにはできへん。そういう気持ちに。
そばにおっても平気なのはこいつらペットたちだけやって。
そう思ったら、なんや、なにもする気が起こらんで、俺はだらだらとスマホをいじっとった。
本当は店に行く準備をせなあかん時間やったけど、今日は退院直後ってことで休みをもらっとったし。
前にやってたゲームも、ログインしたら誰かに話しかけられると思ったら、煩わしくて行く気になれんかった。
なんでもいいから気を紛らわしたくて、適当にいろんなサイトを覗いてたら、その中のとあるサイトに、話し相手を募集しとる女の人がいた。
だいたいそのサイトにいる人間は、やりたいだけの男が七割、ネカマと業者が一割、残りの一割はなに考えとるのかわからんエロ女ばっかりなんやけど、たまーにちゃんとした人がおる。
その人が書いとる募集文面はこうやった。
『頑張っても頑張っても結局孤独になる。なんでも言っておいでとか、俺を頼っていいよとか全員言うけど、そんなのは最初だけ』
あ、俺と同じこと考えとる、って思った。
普通そういうサイトでは、女性が人待ちしとる場所はすぐに埋まってしまうんやけど、そこはあいとった。その文章で誰を募集する気なん? って内容やし、もう文面から、「ワタシに関わらないでオーラ」がひしひしと出とったしな。
「こんばんは。ハルヒと言います。よろしくお願いします」
この人も、なんかヤなことあったんかなあ。
俺と話して少しでもすっきりしたらええな。
そう思って俺はそのチャットルームに入っていった。
「あっ、こんばんは。こちらこそ宜しくお願いします」
募集文面のとげとげしさとは裏腹に、その人は丁寧にしゃべった。
愚痴の百連発を聞かされるかなと思って覚悟したけど、そんなこともなく。
普通に、感じよく話す人やった。
そこからなにを話したのか、よう覚えてへん。
覚えとらんくらい、すんなりと楽に話したっちゅうことでもある。
結局俺らはその日の夜のうちにスカイプのIDを交換して、毎日のように話すようになって、あっという間にお互い好きになってくんやけど……。
けど、その時はまだそんなことはわからなくて、ただ、楽しいな、なんやこの人と話しとると楽やな、せやけどあんな募集文面書くぐらいやし、思うことは色々とあるんやろうな。この人ずっとその件に触れんけど、言うてくれてもええのに……いや、それは俺が信頼されてからの話か。
そんなことを考えながら、ずっと、長いこと、話し続けた。