11話 本当のねらい 4
赤木君が拾ってきてくれた文珠は四つあった。
その文珠の残った力を使ってダメージを回復させると、人気の無い場所を探し変身をといた。
「あれ?」
「どうかしたか?」
同じく変身を説いた赤木君が覗き込む。
「如意宝珠が……」
なぜだろう、いつもなら変身をとくと不思議な力でシンハの元へと返るはずの如意宝珠が手に握られている。
シンハが疲れきって寝てるから?
いや、なんだかわからないがすごくいやな予感がする。
コートのポケットをまさぐって携帯電話を取り出すと表示しきれないほどの着信履歴と留守電メッセージ、全部自宅からだ。
まさかシンハに?と思った瞬間携帯が鳴った。また家からだ。
「もしもし」
「あぁやっと出た、まず肝心なときに電話さ出ねんだがら……」
電話の主はお母さんだった。
「ゴメ……」
「そがなごどよりお前の部屋大変なんだず! 竜巻来て農機具小屋のお前の部屋だげバラバラになったんだは。竜巻の中さ人影みだいな見えだがらお前だど思って、んだげんどお祭りさ行ってだがらど思って何べんも電話するのにさっぱり出ねくて……」
竜巻?
人影?
岩井戸!
「お母さん! シンハは? シンハは?」
「まずいいがら帰って来い! はやぐ顔見せで安心させでけろ~」
お母さんの声が最後は泣き声になっていた。
夕暮れも迫るころ家にたどり着くと、それは想像以上の惨状だった。農機具小屋の上半分が花でも開いたかのようにひろがっていた。
気をつけながら階段を上ると何も無かった。学校の教科書はおろか、ピンクのカーテンも、きのこのぬいぐるみも、石油ファンヒーターも、ウサギの毛布も……果樹園のほうにがれきが散乱しているようだが、事実上、今わたしの身につけているモノを除いて全てが失われてしまっていた。
「シンハ!……シンハーーーーッ!」
シンハがいない……まさか岩井戸に……と不安で胸が押しつぶされそうな気持ちになる。と、
「ぼーたーん、シンハちゃんこっちゃいだぞー」
と、下から声がする。おばあちゃんがシンハを抱きかかえてくれている。
わたしはあわてて階段を駆け下り、おばあちゃんからシンハを受け取る。
「よかった! 息がある!」
シンハはわずかながらも胸を上下させているようだ。
「なんだかシンハのうめき声っていうが、お前のごど名前呼んでるみだいに聞こえでよぉ」
わたしはポケットから文珠を取り出すと、シンハの胸元に押し付けるように当てる。
シンハはひとつ大きな深呼吸をすると、うっすらと瞳を開いた。
その黒々とした瞳でわたしの顔を認めると、のどを詰まらせながら大粒の涙を流した。
いつもとは違うそのシンハの様子に、わたしはいたたまれずにシンハをやさしく抱きしめた。
「なるほどねー、遂に動き出したってわけか……あたしがいなくなったとたんかぁ……」
とりあえず寝部屋にと準備された客間で、電話越しの千代ちんの声は複雑そうだった。
「それで今はシンハ弱っちゃっててさ、話できる状態じゃないみたいなんだ。また詳しいことわかったら連絡するけど……」
「うん、待ってる。それにしても赤木君とのコンビもなかなか様になってるんじゃないの?」
「え?」
「部長がメールで写真送ってきたの、抱っこされてるトコ」
「だっ、だってあれマジでやばかったんだよ! 叩きつけられてから体まともに動かせなくなって。ファウンテンだって赤木君に手伝ってもらってやっと撃てたみたいなもんだし」
「ファウンテンを手伝ってもらった?」
「そう、ロッドも持てないから一緒に持ってもらって、体支えてもらって、おさいと焼きの塔に刺さったダデーナーに向かって一緒に……」
「なんだか想像してみたらさ、ケーキ入刀やキャンドルサービスみたいだね。初めての共同作業……みたいな」
「……なんで千代ちんはそっち方向に話を持ってくのよ!」
わたしの反応に千代ちんはケタケタと笑っている。しかし、突然まじめな声になって
「二人とも絶対に死んだりしたらだめだからね。そんなことになったらあたし、悔やんでも悔やみきれないんだから……」
と言った。
「千代ちん……」
しんみりとした空気に、お母さんのいい加減に寝なさいというお小言が聞こえてきた。
わたしは電話を終えるとまぶたを閉じる。
体は疲れているものの、様々な不安が澱のようにわたしの心にたまってしまい、その日はなかなか眠りにつくことができなかった。




