11話 本当のねらい 3
人目を避けて変身したわたしたちが現場にたどり着くと、予想通り大わらじにダデーナーが取り付いていた。
ふらふわと宙に浮かぶ二足のわらじ。
なんとなく攻撃パターンが読める。
案の定つま先が上がって……ほらきた、人を茶色いカサカサ動く「アレ」に見立てたように叩きつけてくる。
余裕でバックステップでかわすが、その威力! アスファルトを叩き割り、その圧力で消雪用の水がまるで噴水のように3メートルあまりもの高さに噴き上がった。
いまだ起き上がってこないわらじに対して反撃を試みた赤木君がもう一足のわらじにはね飛ばされる。二足のコンビネーションプレイか……トゥインクルファウンテンの儀式のための時間作りのことを考えるとやりづらそうだ。
赤木君が倒れているため二対一になったせいか、わたしに対しての集中攻撃が始まった。
まるで巨人がステップを踏んでいるかのように今度は連続で叩きつけの攻撃を行ってくる。
とはいえ攻撃自体は単調で回避するのにそれほど苦は感じない。
何とか回避しながらファウンテンのための踊りを踊れないものかと思っていると、片方のわらじが最初のときのように大きく振りかぶった構えを見せた。
でもその場所は間合いが少し遠い。
一応どんな攻撃にも対応できるようにと、両足を肩幅に、かかとを少し浮かし腰を落として身構える。
振りかぶったわらじは回避する必要も無いほど前の道路を激しく叩く。
先ほど以上の衝撃が響き、叩いた地点から順に消雪の水が噴きあが
「んごおっほおぉおおぉおっっ!」
ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない
予想だにしなかった「ポイント」へ叩き込まれた攻撃の余波のせいで、わたしは海老反りになり、頭の中がその言葉だけで満たされた。
男女を問わず、およそ人間のもっとも弱く敏感な部位を突然撃ち貫かれたわたしはまともに立ってはいられなかった。
この小学生のいたずらのような攻撃を狙ってやったというのなら、このダデーナーはなんという変態なんだ……
そしてこの変態は、無論こんな無防備な体勢を待っててくれるほどやさしい相手ではなかった。
柔らかな草が素材とはいえたっぷりと水を吸って重量を増したそれは、すくい上げるようにわたしの体をとらえた。
受身すら取れないわたしは体をバラバラにされるような痛みを感じながら空中へと放り上げられる。
はっきりしない意識でうっすら黄褐色のものが見え
「がはあっ!」
打ち据えられたわたしはアスファルトへとしたたかに叩きつけられ視界が真っ暗になった……
気がつくとわたしは赤木君の腕の中にいた。
彼の視線の先を見ると、道路に折り重なっていた二足のわらじダデーナーが再びゆっくりと中に浮き上がっていく。
たぶん彼が抱きかかえて運んでくれなかったらわたしはあの下にいたのだろう。
身構えようとして全身に激痛が走る。
痛みにのけぞるわたしを落とさぬよう赤木君がしっかり抱きしめてくれる。
どうやら状況は最悪らしい。
わらじはくるくると回転していたが、突然フリスビーのようにこちらへ向かって突っ込んできた。
赤木君が横っ飛びでかわしたので、わらじは背後の電柱をなぎ倒した。
着地点に時間差で襲い掛かってきたわらじも何とか飛びのいてかわす。
普段のラクシュミーならなんて事のないこんな動きだが、抱きかかえられているだけでもワンアクションごとに痛みが襲ってくる。
再び宙に浮きくるくると回りだすわらじ。それを見た赤木君はわたしを胸に抱きながら一目散に逃げ出した。
「だ…やっ……」
ダメだよやっつけなきゃ、といいたいのだが言葉がだせない。
「しゃべるな! 舌をかむ!」
赤木君は信号のある交差点を左に折れ、人気の少ない屋代川の河川敷へと向かう。
わらじのダデーナーが町を破壊するのではないかと不安に思ったが、幸か不幸か二足ともわたしたちを追いかけてきた。
時折突っ込んでくるダデーナーを何とかジャンプでかわしながら河川敷を東へと向かう。
走りながらわたしの回復を待つつもりだろうか、それとも人気の少ない方へとおびき寄せて人や建物に対する被害を少なくしようという赤木君なりの気遣いなのだろうか、しゃべる余裕すらないわたしたちが向かう先にはうずたかく円錐形に積み上げられたおさいと焼きのわらの塔が見えてきた。
わらの塔とはいえ、その芯には木製の骨組みがある。そうでもなければ昨年一年飾られてお役目を終えたわらじが掛けられ、また頂上付近に大きなだるまをいくつか棒に刺して突き立てるようなこともできない。
そのわらの塔を赤木君はどういうわけか登り始めた。
追い詰められるだけではないかという不安がわたしの胸に渦巻いたが、体を動かせない以上彼を信じるほかは無い。
ついに頂上へたどり着き、さらにいちばん高い位置にあるだるまの上にバランスをとって立つ赤木君。しかし、すでにその少し上にはもうわらじが二足とも待ち構えていた。
「あの、盾みたいなやつは出せるか?」
「パリッチャ……」
わたしはためしに気をこめる。
「何とか……」
「なら、合図したら全力で上に張ってくれ」
答えようと赤木君の顔を見るとさらにその上、わらじが反り返っているのが見えた。
なんとなく赤木君のしようとしている事を理解したその矢先、わらじがその体を叩きつけてきた。このタイミングだな。と思ったとたん
「今だ!」
と、赤木君が叫び、同時に中に身を投げ出した。
わたしは言われたとおりにパリッチャを張る。
そこをダデーナーに激しく叩かれ、赤木君がクッションになってくれたとはいえわたしたちは地面に叩きつけられる。
追撃が来るかと振り返ったその目に映ったのは、わらの塔の頂上付近に突き立てられただるまの串が幾本も刺さって身動きが取れなくなっているわらじダデーナーたちの姿だった。
「今がチャンスだ!」
赤木君が叫ぶ、わたしは震える手を何とか胸の如意宝珠まで導くとトゥインクルロッドを出す。しかし、
「……ダメ、もてない……それに足も……」
立ち上がることさえできないこの体では気を集中させるための儀式など……いずれ串から抜け出したダデーナーに叩き潰されてしまうのか……
あきらめかけたそのとき、赤木君が向かい合うようにわたしの腰を抱き体を起こす。そして彼の大きな手でわたしの手ごとロッドを握る。
「俺がお前の手足になる。だから教えてくれ、どう動けばいいかを」
赤木君の必死なまなざしがわたしの心に火をつけた。そうだ、あきらめるなんて馬鹿なことしてたまるか。ゴキブリ扱いされて死んでいくなんてまっぴらだ!
「ゆっくりと反時計回りで回って。急がないで、ゆっくり……ゆっくり……」
回転は何とか赤木君に任せて、せめて手の動きだけでも正確に……
やった、いつもよりゆっくりだけど力が満ちてくるのがわかる。
わらじは?
いや、あせるな、ゆっくり、確実にだ。
チャンスは一度きり、慎重にそして確実に力をためるんだ。
いつもの何倍もの時間がかかったが気力が満ちた。
わらじは?
よかった、まだもがいてる!
「気力……充実……」
わたしの言葉に赤木君がうなずく。
二人で構えたロッドをゆっくりと、確実にわらの塔の頂上へと向ける。
「ラクシュミー……トゥインクル……ファウンテェエェエエェェェーーーーン!」
叫びとともに輝く光がわらじダデーナーへと向かってのびる。
「ダデェエェェエェェェエェエエナァァァァァアアアアアアァァー…………」
わらじダデーナーが悲鳴を上げる。
途中痛みで何度も意識が飛びそうになるが、そのつど赤木君がぐっと手を握ってくれて正気を取り戻す。
おそらくほんの十数秒やそこらだったのだろうが、悲鳴がやむまでがものすごく長い時間に感じられた。
最凶ウォッシュレットとなった消雪道路ですが、数年前から壊れて水が出なくなっています。




