6話 なみだの理由 5
気がつくと、木立の中に立っていた。
「ここは?」
「大聖寺、亀岡文殊の裏手へテレポートで逃げてきたッハ」
荒い息をつきながらシンハが答えた。
「おい青木は? 青木はどうした!?」
ものすごい剣幕で赤木君がシンハにつかみかかる。
「いないぞ! 置いてきたのか!」
「く、苦しいッハ」
「くそっ!」
赤木君はシンハを放り投げると、木立の下草を掻き分け、ふもとへと向かって歩き出した。
「あ、赤木君どこへ行くの?」
「決まっている! 青木を助けに!」
そういうと、振り返りもせずに駆け出した。
「待って! わたしも……」
追いかけようとすると後ろで「ひぐっ」と痛みをこらえるような声がする。
「ミ、ミレニィ……さっきかまれたところ」
見ると足首がパンパンに腫れていた。
「大丈夫、僕が治療するッハ」
言うとシンハが傷に手をかざす。暖かな光のおかげかミレニィの顔つきが少し和らいだ。
「シンハ……ミレニィのことお願い……わたしも行ってみる」
「待つッハピオニィ! 危ないッハ!」
「だって……ほっとけないじゃない!」
シンハが引きとめようと叫ぶ、が、わたしの頭からはさっきの青木君と赤木君の必死のやり取りが離れなかった。
「待つッハぼたん! ぼたんーーーーー!」
シンハの叫びを背中に受けながらわたしは赤木君の後を追った。
再び青木君の家に着いたときにはすべてが終わっていた。
青木君が光に包まれていたところには大きな水色の鬼の張りぼてがあり、赤木君はそれを抱きしめながら涙を流していた。
青鬼の張りぼてはボロボロに傷ついていたが、片手を挙げてにこやかな笑みをたたえていた。
途中で折れてしまった立て札には、広介童話の「泣いたあかおに」の一節が記されていた。
「ドコマデモ キミノ トモダチ」
その言葉が、まるで青木君の赤木君に対する最後のメッセージのように感じられ、胸が締め付けられるような気持ちになった。
でもなんであんな張りぼてに抱きついて泣いているの?
それにさっきの女の子、最初のラクシュミー? 文珠十個のダデーナー?……
いろいろな疑問の断片が、パズルのピースをはめ込んでいくように、ひとつの信じられないような結論を形作ろうと頭の中でくっつきだしていく。
ふいにキナ臭いにおいがする。
そちらに目をやると空間がゆがみ、シンハと千代ちんがテレポートしてきた。
千代ちんはまだ足を引きずっている。
「シンハ、説明して。いったいあれはどういうことなの? 彼女はいったい何者なの?」
わたしはシンハに問いかける。
すると、シンハは苦しそうな表情を浮かべて、
「彼女は僕が生み出した最初のラクシュミー……妙多羅天岩井戸……おっかな橋の弥三郎婆だッハ……」
と答えた。




