6話 なみだの理由 3
「どういうつもりなの……」
部長らと別れ、わたしと千代ちんシンハ、そして赤木君と青木君は彼らの家へと向かって自転車を押しながら歩いていた。
「青木君と赤木君は友達が欲しいんでしょ、だからみんなでお友達になったの」
わたしの問いかけに千代ちんはさらりと答えた。
「ともだ……だって、この二人町をめちゃくちゃにしたのになんで?」
すると、千代ちんはちょっと立ち止まって、さびしそうな顔をした。
「ぼたんちゃん、お友達がいない、一人ぼっちって言うのはホントにつらいの……わたし、転校ばっかりだったから、二人の気持ちすごくわかるんだ……」
「千代ちん……」
「低学年くらいの頃はまだいいのよ、すぐに仲良くなれるんだけどね、四年生の時だったかな、最初はものめずらしさでちやほやされるんだけどさ、クラスで一番のイケメンに色目使ったとか、わけのわからない因縁つけられてさ、女子から総スカン食らってね、無視されることが続いたの……」
「…………」
「五年のころは派閥争いみたいのに巻き込まれたりしてね、だから顔色伺って、でも卑屈になりすぎるとまたいじめられたり、六年のときは方言かなぁ……関西だったから今となってはネタだったのかもしれないけど……で、登校拒否したこともあったり……」
「そんな……」
「でもほら、転校多いから、毎年リセットリセットで気は楽だったわ。それに去年は中学デビューする子も多いでしょ、だからまぁ、それなりに友達もいたし、彼氏もいたのよ。だからあの頃より楽っちゃ楽だったかなー」
わたしが暗い顔をすると、千代ちんはそれを紛らわせるように明るく振舞う。しかし、言葉の端々からはそれが気丈に振舞っているのだというのが感じられた。
「だからね、羽山公園でこの二人の気持ちを聞いてから、わたしが助けてあげなくちゃ、って思ったの……」
「千代ちん……」
「そりゃ、今までのことはあるけどさ、二人ともやりすぎたって反省はしてるみたいだし、シンハのおかげで町の人もケガくらいですんでるし、それに警察とかに言っても相手にされないでしょ、こんな話……」
「…………」
「だったらココはひとつ、今までのことはみんなの胸の中にしまっておいて、二度とこんなことがおきないようにする。無力な中学生にはここらが落としどころじゃないかなぁ?」
「……そう……かもね……」
確かにほかに方法はないかもしれない。それに、芋煮が出来上がったときに感じた妙に居心地が悪いっていう感じ……長い間千代ちんやこの二人は、ああいった、いやもっと嫌な空気の中で生きてきたんだと思うと、なんだかやるせなくなってきた。
「と、いうわけで、ちゃんと「もらうモノ」もらう約束はしたわよ、シンハ」
「本当ッハ?」
「あぁ、俺たちが持っている文珠を全部返すよ」
ゴミ袋を手にした青木君が振り返って言った。
シンハがかごの中から顔を出し、うれしそうに尻尾を振りながら、わたしと千代ちんの顔を交互に見る。
「これでもう高畠を襲う化け物は出ないわ。正直もうちょっとラクシュミーを体験してみたかったけどねぇ……ま、わたしは人気ないみたいだし……」
そう言って胸のあたりをなでながら、ジト目でわたしを見る千代ちん。どうやらさっきのコトを根に持ってるようだ。
でもそうか、もう変身しなくていいんだな……それはそれでちょっとさみしいかもしれない……
「あとは今日の芋煮とジュース代もナ」
「何よ、そのくらいとーぜんじゃない、それは迷惑料よ安いもんでしょ」
「ふふん、そうだな、それにこんなに心から安らいだのは俺も赤木も初めてかもしれない……」
青木君は立ち止まって天を仰いだ。そしてゴミ袋を下においてこちらへと向き直る。
「冬咲君、今まで本当にすまなかった。いくら謝っても謝りきれるものではないかもしれないが……なんとかこれから赤木ともども俺たちと付き合っていってはもらえないだろうか……」
青木君は深々と頭を下げた。赤木君もあわてて抱えていた鍋を下ろし青木君にならう。
「…………ま、まぁ友達としてなら……ね……」
「あらぁ、友達でいましょうは振られたのと一緒よ、残念ね青木君」
「振られって、ちょっと! そういう流れの会話じゃないでしょ千代ちん!」
「ははは、振られるにしてもこんなうれしい振られ方があるか、なぁ赤木」
青木君は、赤木君と顔を見合わせて笑った。
そういえば、この二人が笑った顔を見るのは初めてかもしれない。
怖いとか、気持ちわるいとか、そんな風にみてたけど、この二人はこんな顔をして笑うんだ。
そんな二人を見ているうちに、なぜだか目頭が熱くなってしまった。
「さぁついたぞ、ちょっと待っててくれ、すぐ持ってくる」
そういうと青木君は本当に人が住んでいるのだろうかと思うような家の中へと入っていった。
「結構大変そうなお宅なんじゃないの? 大丈夫? 芋煮のお金……」
「うーん、なんだか罪悪感を感じてきたわ……ね、青木君のご両親って何してる人なの?」
「ご両親?」
千代ちんの問いかけに赤木君が首をかしげた。
「知らないの? 友達なんでしょ?」
「あ、あぁ、すまない……」
千代ちんの言葉に背中を丸くする赤木君。
そのリアクションから、なにか言いようのない違和感を覚えた。
そうこうしている間に家の中から巾着袋を手に青木君が現れた。
「さぁ、これで全部だもってってくれ!」
さっそく地面へと広げてシンハが数を数え始めた。するとすぐに、
「おかしいっハ、ぜんぜん足りないッハ」
と首をかしげる。
「残り三十四個じゃないのか?」
青木君が横から広げられた文珠を覗き込む。
「全部で百八個になる計算だッハ。あと五十個くらい無いと計算があわないッハ」
「そんな……家にあるのはこれで全部だぞ」
「このあいだ拾い忘れたんじゃない? 流されちゃったとか?」
「そんなはずないッハ。全部拾ったはずだッハ」
わたしの問いかけに首を振るシンハ。
「ちなみにこないだの竜には何個文珠を使ったの?」
千代ちんの質問に青木君は不思議そうな顔をする。
「それなんだが……あの晩俺たちが使った文珠は一個だけ。最初の黄色い竜の着ぐるみに対してだけなんだ……」
「?」
「?」
わたしたちは顔を見合わせる。
「じゃ、じゃぁ、あの青いほうの龍は何なのよ? 誰があんなことできるわけ?」
千代ちんがしゃがみこんでシンハにたずねる。
「そんなのこっちが……」
不意にシンハの言葉がとまる。
「なに? なんか思い出した?」
わたしもシンハの前にしゃがみこむ。
と、そのとき、
「……うぁあぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁ……」
と、背後で青木君の絶叫が上がる。
その声に振り返ると青木君を光が……
まるでラクシュミーのトゥインクルファウンテンのような光が包み込んでいた。




