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4話 二人はラクシュミー 5

「いやー、しっかしまさかぼたんちゃんがあのコスプレの人だったとはねー」

 高安からの帰り道、自転車を押している千代ちんは上機嫌だった。

「コスプレって言わないでよ……」

 わたしはヘビの締め付けのダメージが抜けきらずにへとへとだ。

 シンハはちゃっかり千代ちんの自転車のかごに乗っている。

「あれはラクシュミーって言うッハ」

「へーラクシュミーねー、インド系? あれ、亀岡文殊って神社じゃなかったっけ? お正月にお参りに行くんでしょ」

「違うッハ、大聖寺ってお寺だッハ!」

 千代ちんの勘違いにシンハがむすっとした声を出す。

「文殊様はまたの名を吉祥金剛ともいうッハ。吉祥つながりでラクシュミーっていうッハ」

「それよりシンハ……どうして、どうして千代ちんまで巻き込んだの……」

 わたしの質問に千代ちんは足を止めた。

「ああでもしなければぼたんはやられていたッハ……しょうがなかったッハ」

「だからって、もしもっと強い敵が出てきたら千代ちんもこうなっちゃうかもしれないのよ」

「ぼたん……」

 シンハがしょんぼりした顔でわたしを見上げる。

 そのとき、千代ちんがわたしの肩にぽんとやさしく手を置いた。

「大丈夫だよ、ぼたんちゃん、二人でやれば平気だよ」

「千代ちん……」

「ぼたんちゃん一人でしょい込まないでよ……一人であんな大変なこと……だめだよ」

「……千代ちん……」

 やさしく微笑む千代ちんを見て、なんだか涙がこみ上げてきた。

 思わずわたしは千代ちんに抱きついた。

 はずみで自転車が倒れ、シンハがかごから放り出される。

 千代ちんが「よしよし」とわたしの背中をなでる。

「二人でラクシュミーだよ、ぼたんちゃん……あれ、そういえばそんなアニメあったよね、むかし、二人はナントカっての……」

 湿っぽいのがいやな千代ちんは話を変えようとする。おっけ、わかった終わりにしよう。

「あぁ、あったねそんなの。 なんだっけ?」

 わたしは涙をぬぐって笑顔を作る。

「そんなことより、二人ともラクシュミーじゃわかりづらいッハねー」

 田んぼのあぜ道へ投げ出されたシンハが首を左右にひねりながら這い出してきた。

「ラクシュミーナントカってつけろってこと?」

 千代ちんがシンハを抱き上げながら言った。

「ぼたんは正体がばれるのいやだッハ」

 シンハが自転車を引き起こしているわたしをチラリと横目で見る。

「だってそうでしょー、ばれたら大変だよーいろいろ」

「東京のどこかの大学に一芸入試とか出来るんじゃない?」

「そんな入りかたしたくないわよ……」

 わたしは肩をすくめる。

「でも、まぁやっぱり必要よね……決めた、あたしはミレニアム!」

 千代ちんは人差し指をつきたててそういった。

「え~、中二病くさいし言いづらそうだよ~」

 言ってわたしは自転車のハンドルを千代ちんにわたす。

「いいじゃんホントに中二だし……じゃぁぼたんちゃんなら自分になんてつけるの?」

「わたしは~……んんん……ピオニィ……」

 言うなりシンハが吹き出した。

「どうしたのシンハ君?」

「ぼたん、じつは前から考えてたッハね、普通そんな単語とっさに出てこないッハ」

「なんて意味なの?」

「花の牡丹だッハ」




「どうしたんだ、いつものお前らしくないぞ……」

 あばら家の六畳間、せんべい布団に横たわっている赤木に湿布を張りながら、青木は言った。

「文珠一個のダデーナーなら余裕だったじゃないか。昨日のリハーサルだって危なげなく勝ってたのに……」

 そういってもう一枚、湿布であざを隠す。痛みのためか冷たさのためか、赤木は声を上げる。

「日本中のお客さん相手にあがっちまったのか? いやま、あがっちまったのは俺のほうか……コントロールがあやしくなっちまったせいで段取りが狂って……すまなかった……」

 言いながら湿布を張る青木にまたもうめき声で答える赤木。

「……なぁ……」

「ん?」

 赤木が口を開いた。

「……今日のタヌキ……本当に文珠一個だったのか?……」

 青木に目線だけを動かし赤木が尋ねる。

「あ、ああ、昨日までの文珠が三十七個だったろ、タヌキに一個、ヘビに一個使って、えぇと五かける七で……ほら、ちゃんと三十五個ある」

「……そうか……」

 青木の広げた文珠を横目で見ると、赤木は目をつぶった。

「日本全国からお客さんが来るなんて聞いたもんだから、その、無理させちまったな……すまない……」

 青木は文珠をジャラジャラと巾着袋へとしまいこんだ。

「まずはゆっくり休んで早くよくなってくれよ、友達が増える前にお前にもしものことでもあったとしたら俺は……俺は……」

「だいじょうぶ、俺たちは一緒だ……どこまでも……な……」

 赤木は瞳を閉じたまま答えた。

 青木はしばらく赤木の顔を見つめていた。

 やがて赤木がやすらかな寝息を立て始めると、立ち上がり、となりの部屋へ移り、

「おやすみ、赤木……」

 といってふすまを閉めた。


ラクシュミーは吉祥天でしたよね

牡丹の英語読みを翻訳ソフトで聞いたらペォニィって聞こえましたがちょっとひどいのでピオニィで行きます

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