3話 チェリーの気持ち 1
「なあ、赤木……実はさ……」
まさか人が住んでいるとは思えないようなツタのからまるあばら家の中、台所のテーブルにひじをついて座っていた長髪の少年が、窓際で頬杖をつきながらしとしとと降りつづける雨をながめている巨漢の少年に向かって語りかけた。
「実はさ……いや、やっぱいいや……」
長髪の少年は言いかけた言葉を飲み込んだ。
「……言えよ青木……友達だろ……」
赤木と呼ばれた巨漢の少年は視線を長髪の少年にうつしてつぶやくように言った。
青木はごくりとつばを飲み込むと、ひとつ深呼吸をしてからしゃべり始めた。
「じ、実はさ、このあいだ女子から声をかけられたんだ、生まれて、初めて……俺の探してた本を手渡してくれてさ、わ、笑いかけてくれたんだ……これってさ……これってさ……もしかして俺のこと、す、す、す……」
青木は湯飲みの水をゴブリとのどに流し込むと興奮を抑えきれずに言葉を続けた。
「と、とにかくさ、俺思ったんだよ。今まではダデーナーに暴れさせて、それを俺たちが退治することで不特定多数の人にアピールして友達を作ろうとしてたじゃないか? そうじゃなくて、誰か一人! 誰か一人のピンチを救って深い関係を作ってさ、そこから友達の輪を広げていくっていう作戦のほうがいいんじゃないかな? どうだ? どうだ赤木?」
時どき声を裏返らせながら早口で青木は赤木に訴える。
しばしの沈黙のあと赤木はゆっくりと口を開くと
「相手は?……」
と、たずねた。
青木は立ち上がり、赤木に向かって両腕をテーブルに着く。そして大きく息を吸い込む……が
「……あ……」
だの
「……お……」
だの、口から出る音は言葉にならない。
一分近くそんなことをしていたが、しまいには再びイスに座り込み、下を向いたまま消え入るような声で
「……あの……お、同じクラスの……冬咲……冬咲ぼたん……ちゃん」
と、言った。




