2話 今年のさくら 今年のだんご 5
唖然とした。
掲示板にでかでかと張られている学校新聞を見て唖然とした。
「謎のコスプレ少女! 満開の桜の下でも大活躍!」
幸い後ろ姿で顔はよく見えないが写真がでかでかと載っている。
A4の用紙をわざわざ十六枚も張り合わせていったい誰がこんなものを!
いや、このアングルで写真が取れたのはただ一人、もう一度確認しようと顔を近づけたそのとき、
「ぽちっとな」
「ひゃうぃん!」
襟足のほくろを突っつかれ、またしても大勢の生徒のいる真ん中で変な声を上げてしまう。
わたしは振り返ると千代ちんの肩をつかみ、掲示板の前から離れる。
「ちーよーちん!」
「おはよー、ぼたんちゃん」
「おはよーじゃないわよ! まったく!」
精一杯して見せた怖い顔にもまったく動じず、千代ちんはニコニコと笑っている。
「一体全体どーしたのよこの記事!」
「あ、見た見たー? すごいでしょー」
「すごいでしょって、何でラク……じゃなかった、まほろばの緑道の記事はー?」
危うくラクシュミーの名前を口走りそうになる。
「緑道の記事は左下のほうにあるよ。それよりすごかったんだってぼたんちゃんが気絶しているあいだ!」
そう、あの時わたしは気絶していたことになっている。
というか、変身から戻ったあとの反動がすごくて動けなかったのだ。
機関車を正面から受け止めたのが効いたのだろう、腕、肩、腰、脚がミリミリと悲鳴を上げ、おかげで貴重なゴールデンウィークの間中ろくに動けず寝てすごしていた。
「部長に写真と記事を見せたらすごく気に入ってくれて、で十六枚編成の超特大紙面!」
千代ちんはとってもうれしそうに話を続ける。
「機関車の化け物をとぉーっ! って叩きつけたかと思うと、魔法のステッキでやぁーっ! って……あたし、ああいうのって漫画やアニメの中だけかと思ってたんだけど……ねぇねぇ、聞いてるぼたんちゃん?」
「う、うん、聞いてるわよ……」
いやだー、聞きたくなーいと内心思いつつもとりあえず相づちを打つ。
「それでね、あたし決めたの! このコスプレの人を探すって!」
「え?」
千代ちんの発言にわたしは目を丸くする。
「なんていうのかなー、ばかにされちゃうかもしれないけど、ああいうのに昔からあこがれてたって言うか……なってみたいなぁって……」
なってみたいなぁって……代われるものなら代わって欲しいよ……
「あぁ、今あの人はどこにいるのかしら……」
はいはい、ここにいまーす……
夢見る乙女の目をした千代ちんに、声に出来ないつっこみを入れるわたし。
せいぜい出来ることといえば乾いた笑いで相づちを打つことだけだった。
月夜の旧高畠駅を赤木と青木が連れ立って歩いていた。
例の騒ぎのせいもあり、公園の桜はすべて散ってしまっていた。
事件から十日たって、立ち入り禁止の黄色いテープはまだ移動のすんでいない機関車の周り以外からは剥がされていた。
遠目から機関車を見ると青木は舌打ちをした。
「くそっ!何度思い出しても腹が立つ! そもそもお前がもたもたしてなければギャラリーの大勢いる中でお前の雄姿を見せ付けることができたんだ。見ていたのが町民ともなれば友達千人、彼女も千人の超リア充ライフが送れたはずじゃないのか? なぁ赤木!」
そう言うと青木は赤木に人差し指を突きつける。
赤木はうつむいてじっと自分の両の手のひらを見つめていた。
「おかげで見ろ、あのざまだ! またあのラクシュミーとか言う小娘においしいところを持っていかれたじゃないか!」
「ラク……シュミー……」
赤木はつぶやくと開いていた両の手をぎゅうっと握り締める。
「そうだ! あいつは自分でそう名乗っていた。しかし……」
青木は再び機関車に目をやる。
「しかし、この間の戦いではダデーナーの面白い使い方が判ったのが収穫だったな……ようし、いいか赤木! 次こそは! この次こそはあのラクシュミーよりも先にかっこよく活躍して、幸せなリア充ライフを手に入れてやるぞぅ!」
青木の高笑いが公園中に響き渡る。
赤木は再び手のひらを広げてじっと見つめる。
赤木にはその腕の中に、この間抱きしめたラクシュミーの柔らかく温かな感触がまだ残っているかのように感じられた。




