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2話 今年のさくら 今年のだんご 3

 高畠町の桜の開花は例年ゴールデンウィークの一週間前ぐらい。

 気温や天気しだいだが、おおむね四月いっぱいは桜が楽しめる。

 遠く残雪を抱いた吾妻の山が黄砂でぼんやりとかすむなかを、わたしと千代ちんはデジカメ片手に、高畠駅から町内を目指してまるで桜のトンネルとなった「まほろばの緑道」を歩いていた。

 シンハも犬の振りをしてついてきている。

「まほろばの緑道」は高畠駅から屋代地区へ向かい市街地を通り安久津八幡神社へと続く全長約6キロのサイクリングロードだ。

 元は高畠鉄道という路線の線路が走っていたが、1974年に廃線となり、町民の憩いの場となるべく整備されたという。

 道の両脇には約七百本の桜の木や果樹などが植えられている。

 また、途中には「泣いた赤鬼おに」などの代表作を持つ、高畠出身の童話作家「浜田廣介」の記念館もある。

 どうしてこんなところを歩いているかというと、例の新聞部の活動である。

 まず千代ちんが目をつけたのがこの桜満開の「まほろばの緑道」だった。

 サイクリングロードだから自転車でというわたしの提案は千代ちんに一蹴される。

「自転車じゃ見落とす景色もある。こういうのは歩いてなんぼ」

 なんだそうだ。

 日ごろ自転車ばっかりで歩きなれてないわたしとしては、となりを通り過ぎていくレンタサイクルの家族連れがうらやましい……

 九時ごろに駅を出発して約一時間。廣介記念館の庭にあった童話をモチーフにしたオブジェの数々にだいぶ時間を取られたわたしたちはようやく屋代小学校方面へと続く道へと向かう。

 古い農家の趣を残した家の立ち並ぶ一本柳の道路をわたると一面の田んぼが広がっている。

 このあたりは盆地のほぼ中心部なので山が遠く、さらにごちゃごちゃとした建物が無いのでより田んぼの広さが感じられる。

「すごーい」

 千代ちんが目を丸くする。

 そんなにたいしたものかなぁと思いながら、わたしとシンハは走り出した千代ちんの後ろを追いかけた。

 その後も、ときどき置いてある高畠石の巨石や、子供たちになでられすぎてペンキがはげてしまった動物のオブジェを仔細に眺めたり、道端に設置してある遊具にまたがってみたり、地面に描いてあるケンケンをやってみたりと、千代ちんは何かを見つけるたびにスマホのカメラで撮りまくっては全力でそれを味わっていた。

 わたしはというとその様子を写真に収めたりしつつも、見慣れてしまい、代わり映えの無いような風景に正直飽き飽きしてきた。

 このように道草をくいながら歩いてきたので旧高畠駅公園に付くころにはお昼近くになっていた。

 一面桜色に染まった公園に着いて、本当ならここで一息入れたいところだが、名ガイドであるわたしは、あえて高畠石で組まれたレトロでモダンな駅舎を横目に公園を突っ切り「昭和縁結び通り商店街」へと向かう。

 この「昭和縁結び通り商店街」にも千代ちんの興味を引くものはたくさんあるが、わたしは寄り道を許さず、目的の店「おばこや」の前まで千代ちんを引っ張って行った。

「おばこや」は甘いもののお店でこの時期にはだんごをメインに売っている。

「すいません。予約していた冬咲ですが……」

「はいよ、冬咲さんね……じゃ、これ880円」

 この時期は予約なしには買えない人気のこのだんご。

 あん、ゴマ、しょうゆ、そして枝豆をすりつぶしたじんだんの4種類、各2本ずつ入ったパックを受け取る。

 そのあいだ千代ちんは、おかみさんがだんごの生地を棒状にのばし、リズミカルに包丁で切って、串にさしていく様子を店先から感心した様子で写真に収めていた。

 わたしたちは再び旧高畠駅の公園へと戻る。

 花見客が大勢いる中、わたしたちは腰を下ろせそうなベンチを探す。

 が、千代ちんが先ほどスルーした旧駅舎に釘付けになる。

 濃い肌色というか、薄い茶色というか、明るいオレンジ色をした凝灰岩の高畠石。

 この石をまるで西洋の城砦のようにくみ上げた外観をしているのが旧高畠駅の駅舎の特徴だ。

『ロクヨン』とか言う映画の冒頭にチラッと映ったりはしているというらしい。

 現在では耐震性の問題などから中に入ることは出来ないという。とはいえ2011年の大地震はしっかりと耐え切ったので何か活用しないのはもったいないような気もする。

 五分後、渋る千代ちんを何とか駅舎から引き剥がし、かつて高畠鉄道で活躍していた機関車、といってもセダン車のような形をした電気機関車なのだが、この機関車の前にあるベンチに腰を下ろせた。

 千代ちんは機関車が見たくてうずうずしているが、まずは団子だ昼飯だ!

「やっぱりこの季節になるとこれを食べずにはいられないのよね~♪」

 と、包みをほどくと千代ちんの目も団子に向く。

 最初の一本、わたしはゴマから、千代ちんはじんだん。

「おいひー」

「やわあはーい」

 わたしたちは同時に声を上げた。

「あおね、あおね、おらんごがね、えきたへやからね……ふんごふやあらかいのよ」

 千代ちんが興奮して訴えてくる。

 わたしはお茶のペットボトルのキャップをひねると千代ちんに手渡す。

 千代ちんはごくりと一口だけ飲み、一息つくと再び感想を語りだした。

「そしてこのずんだ? じんだん? これもおいしいのよ! 初めて食べたんだけど!」

 千代ちんはそういうと二玉目へと口をつける。

 ひとかみふたかみして千代ちんは目をつぶると足をばたばたさせ団子のおいしさを全身で表現する。

 お団子がおいしいのはわかるけど……紹介したお団子を評価してくれるのはうれしいけど……こうまでリアクションされるとなんだかばかにされているように感じてしまう……

 あっという間に一本食べ終えた千代ちんは魚肉ソーセージをねだるシンハのような目をしてわたしを見つめる。

 はいはい、もう一本じんだんが食べたいのね。

 わたしは黙って団子のパッケージをくるりと回し、くしの出ているほうを千代ちんに向ける。

 そのときシンハとも目が合う。はいはい、あんたも欲しいのね。

 ペットボトルのフィルムをむいてから団子を一玉はずしその上に乗せてやる。

 まってましたとばかりに団子にむしゃぶりつくシンハ。

「おいしいッハ♪」

 と、思わず声に出す。

「え?」

 千代ちんが驚いたような顔をしてシンハを見る。

 シンハはしまったという顔をしてわたしを見る。

「……え、と……ほら、あの……『おいしい? シンハ』ってきいたのよ。ほら曲がってしゃべると変な声が出るじゃない!……おいしい? シンハ……」

 シンハの声まねまでして弁明する。千代ちんはあっけにとられたような顔をしている。

 ここはひとつ話題を変えないと……

「そ、それよりさ、今まで念入りに時間をかけてまほろばの緑道を見てきたじゃない? どう? いい記事かけそう?」

 わたしは千代ちんに問いかけた。

「うん、だってすっごく楽しかったから」

「ふうん、楽しかった……ねぇ」

 即答する千代ちん。それに対して少し言いよどんでしまうわたし。

 そんなわたしに千代ちんは微笑みながら言葉を続けた。

「きっと、ぼたんちゃんは見慣れちゃってると思うんだ、この風景に。毎年、毎年、この桜並木を歩いて、このお団子食べて……」

 千代ちんは団子をひと玉口に入れ、飲み込むとまた言葉を続ける。

「あたしさ、お父さんの仕事の都合で毎年毎年あっちに行ったりこっちに行ったりで、毎年見てきた桜も食べてきたお団子も違うんだ……だから、この季節になったらココに来て、ココのコレ食べなきゃっ、ていうのを持ってるぼたんちゃんがうらやましいんだよね……」

 そういうと千代ちんは少し寂しげな目をして見せた。

「もう来年は見れないかもしれない、もう来年は食べれないかもしれない、だったら思いっきり楽しんで、思いっきり味わってやろうって思って、一期一会って言うのかな? ちょっとちがう?」

 千代ちんは少し照れたような顔でこちらを見る。

 わたしは千代ちんの微笑みを受け止められず、足元のシンハに視線を逃がしてしまう。

「そうだったんだ……」

 千代ちんの思いを知って、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 その思いが見透かされたのか千代ちんがわたしに言葉をかける。

「……なんだかしんみりさせちゃってごめんね、でもあたしお得なのよ。だってぼたんちゃんよりもっと多くの桜の名所やお団子の味を知ってるんだもの」

 そういって千代ちんは薄い胸を張って見せた。

「こいつぅ」

 と、わたしは千代ちんをひじでつつく。わたしたちはしばらく笑いあった。

「あとね、これはお母さんからの受け売りなんだけど……」

 千代ちんは人差し指を立て目をつぶり、一呼吸置いて言った。

「女は、ふるさと以外に住んでる男の人を好きになって結婚したら、その人の町に暮らさなきゃいけなくなるじゃない。だからそれまでは自分のふるさとを大事にしなさいって、自分の子供にふるさとのいいとこをいっぱい教えられるように……」

 千代ちんはわたしを見て、

「あたし、お母さんの大好きなこの町に来れて幸せなの」

 と、微笑んだ。

 そのとき。

 藤棚の東屋の向こう側、駅舎の裏手の広場のほうから大勢の人の悲鳴が聞こえてきた。

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