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極東311  作者: 西田啓佑
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008.ボクの考えた「さいつよ」

長らくお待たせしてすみません


「ボクは思ったんだ。そろそろ、ライノガンズ以外にも乗って良いんじゃないか?とね」

「あの時の負け方がよっぽど悔しかったの?それともスナイプに飽きたなの?」


 古都子がオムニ邸に引っ越した翌日。ヴァイオレッタと古都子の二人は午前中の殆どをドローンクラッシュのプレイに費やした。立派なニートの誕生である。いや、そもそも不労所得を持っている二人なのだから、ニートではなく投資家とか資産家と呼ぶべきかもしれない。しかし、その生活実態は無職となんら変わらなかった。


「……。まあ、それは否定しないよ。けどさ、このゲームってさ。たぶんだけど、速くて、小さくて、固くて、破壊力のあるドローンが一番強いよね?」

「うーん。そうだね。加えて言うなら、破壊力つまり武器に関しては、射程が長くて、弾速が速くて、貫通力がつよくて、破壊面積が大きい武器が強いの」



「確かにそれらの条件をすべて満たすドローンが現れれば最強でしょう。しかし、実際には動力源や材質強度などの諸問題で、実現できないというのが定説です」


 二人の話に補足を加えたのはシャルロッテである。彼はヴァイオレッタの端末を制御するプロフェシーで、中性的で幼い男児のような声をパーソナリティとしている。しかし、その声とは裏腹に丁寧で礼儀正しい口調が基本だったりする。


「ということなの。古都子くんの言っている事は机上の空論なの」

「えー。けど、小さくて、速くて、硬い。くらいは実現できないの?」

「小さくて、速いは実現できるかもだけど、速さも程度によるし、硬さはそもそも難しいの」

「なんで?」


 古都子の疑問にシャルロッテが答える。


「まず、ドローンの固さつまり生存性なのですが、純粋な装甲強度だけが要素ではないのです。大出力の光学兵器や超音速の質量弾の前には、現代の装甲材は十全の効果を発揮できません。そこで、装甲や構造体は破壊されることを前提に設計されています。そして、破壊された部分を即座にナノマテリアルで補修しているのです」

「そういう事なの。つまり、ドローンの生存性と大きさは切っても切り離せない関係なの」

「そして、ドローンに搭載する武器の豊富さや出力もまたドローンの大きさに左右されます」


「どういうこと?」

「ドローンには古都子さんが生まれた時代の機械のように内燃機関を搭載していません。そして、動力源となる電力はナノマテリアルで構成された構造体に直接蓄えられます。つまり、体積がそのままキャパシタ容量の最大値となるのです」

「簡単に言うと、ドローンのスタミナとパワーはその体積に依存しているの」


 正確には骨格や装甲になっている構造体とキャパシタを形成するナノマテリアルは別物なのだが、形状や効能的にはほぼ同義である。このような性質を持つため、この時代のドローンの生存性はかなり高く、制御チップさえ破壊されなければ、どれだけボディを破壊されてもボディの構造が許す範囲で活動可能である。



 今は、午前中のプレイを終え、二人共昼食中である。メニューは合成食品によるサンドイッチだ。食感などもできるだけ再現してあるらしいのだが、古都子の記憶にあるサンドイッチと比べると言い表せない違和感がある。無理やり言うのならば、魚肉ソーセージみたいなパンと具材でつくられたサンドイッチだ。味はベジタブルなものや肉的なものや卵的なものなど多彩なのだが……。

 一方、ジュースの方にはそれほど違和感を覚えなかった。古都子の時代でも清涼飲料水の中身は果汁百パーセントでもないかぎり、食品添加物の使用は当たり前だったのである。


「そっか。だったらさ、武器に使うエネルギーを節約できたら、その分をドローン本体にまわせるよね?」

「まあ、そうなるかもしれないの」

「じゃあ、試しに作ってみようよ。ゲームで。できるんだよね?そういうゲームらしいし」


 というわけで、二人はふたたびドローンクラッシュにログインする事になる。リアルと同じ姿のままの二人は、ドローンクラッシュ内のヴァーチャルリアリティ空間にあるドローン建造用ガレージを訪れた。


「自分の使うロボットを自分で作るって、面白そうだよね」

「そこには同意するの。けど、ドローンクラッシュ内でのドローン作成はリアルでのドローン設計や製造と違ってすごく大雑把なの。もちろん、突き詰めればリアルで設計製造したドローンも再現できるけど、普通はそこまでしないの」

「まあ、とりあえず、ゲーム内でつかえればそれでいいよ」


 早速コンソールを出して、パラメータ項目や形状設計インターフェースを確認した古都子だが、開始一分も立たずに音を上げた。


「ねえ、シャルルにリクエストして、とりあえず適当に作るって出来るかな?」

「まあ、そう言い出す事は分かっていたなの。そして、答えはもちろん『イエス』なの。ドローンクラッシュのユーザーでも全部自分で作るマニアックな人は一部だけなの」


 というわけで、早速古都子はいろいろとシャルルにリクエストを始める。その内容を簡単にまとめると、四メートル級の人型ドローンであった。通常のドローンの全長が十メートル前後なので、体積的サイズは半分以下である。


「確かにちっちゃいの。けど、どうして人型なの?」


 と、ヴァイオレッタが聞いたところで、フレンドからのアクセスを知らせる音声とアイコンが二人の視界に現れた。アイザックが二人にコンタクトを取ってきたのだ。



「よう。ログインしていたか。今いいか?」


「何のようなの?」

「一緒に試合でも……。と思ったんだが、面白そうなドローンを組んでいるな」


 ルームオーナーであるヴァイオレッタがコンタクトを許可すると、ドローンのガレージにアイザックが姿を表した。引き締まった肉体を褐色に日焼させた銀髪碧眼の青年傭兵といった風体である。


「高機動な格闘用ドローンを目指しているのさ」

「しかし、射程十数キロから数十キロメートルが当たり前の戦場で格闘戦をメインで戦おうと思うとか、普通の人間にはできない発想だな」


「うーん。そう言われると不味いのかなぁ。と、思うけどさ。プラズマトーチって格闘武器だってあるわけじゃん。ボク、アレに一度ボコボコにされたわけだし」

「あー。うん。あるなぁ。まあ、武器のターレット旋回速度を凌駕したり、遮蔽を巧く利用できるのなら、存外効果はあるかもなぁ」


「けど、ヴァイオレッタ的にはあまりオススメでできないの。プラズマトーチはあくまでも非常用だし、この前の殺人円盤ドローンは、かなり特殊な例なの」

「ああ、ああいうタイプの運用を見て考えたのか。まあ、ナノマシンフィールドが混在する戦場では、レーダーとか無線通信は一切役に立たないからなぁ。そういう意味じゃ、隠密接近っていうのもアリなのかもな。リアルじゃ博打すぎるけどな」


「へー。そうなんだ。じゃあ、ドローンの遠隔操縦は無線通信以外でやっているの?」


 アイザックのつぶやきに興味を持った古都子が脱線気味の質問をすると、シャルルがメイド姿のアイコンで現れてそれに答えた。



「ドローンの遠隔操縦はナノマシンを媒介とした通信によって行われています。特に地面とナノマシンを媒介とした通信が安定しています。その為、戦場での航空機の運用は有人となるのです」


「ふーん。そういえば前に、ヴァイオレッタの飛行機が策敵したデータを地上機チームとデータリンクしていたよね。ああいうことはリアルではできないの?あれも無線通信だよね?」

「可能ですよ。リアルではナノマシン通信以外に光無線通信というものも利用されます。ちょっとしたデータのやりとりは問題なく可能です。ただ、高速機動する飛行機やミサイルを制御するには高度な通信同期が必要になり、照射装置の旋回精度の問題もでてきますし、光学兵器などによるノイズの問題も深刻化して、技術的に不可能になります。無線通信の困難さ、光誘導の困難さなどから、ミサイルの精度が極端に落ちて廃れたり、飛行ドローンが敬遠されるようになったのです」


「じゃあ、ドローンをジャンプさせたりすると制御不能になるの?」

「ホバーみたいに強風を巻き起こしながら常時飛んでいるようなモノではないかぎり、そういう恐れはありませんよ。ドローンの制御システムにも、ある程度の誤魔化しや冗長性はあります」


 古都子の質問が一通り終わったと判断したヴァイオレッタが、先ほどの話の続きを促す。


「ちっちゃいけど、人型だと速度出ないと思うの。その辺りはどうするの?」

「バックパックにロケットブースタ載っけて、蜘蛛男みたいにワイヤーアクションで跳び跳ねる感じでどうだろ?」


「え……。クモ男?」

「許せる!……。あ、いや、すまん」


 ヴァイオレッタが疑問の声を上げると、何かを思い出したようにアイザックがつぶやいた。この男、冗談を言う時も微妙に渋い顔なのは照れているからなのだろう。


「どういうことなの?」

「レガシー・フィルムでたまたま見かけたんだ。まあ、気にするな。それよりも、どうせ人型にするなら、携行武器や騎乗に拘ってみてはどうだ?ドローンが身一つで戦わなければならないなんてルールもないしな」


 戸惑うヴァイオレッタにアイザックが答えつつ、話題をドローンに戻す。


「え?ゲーム的にそういうの可能なの?」


 キョトンとした顔をヴァイオレッタに向けつつ古都子が尋ねた。


「どうなんだろ?開発に聞いてみないと分からないなの」

「そもそも、想定されていない可能性が高いですが……。シミュレータの側面も強いゲームですから、要望を伝えれば可能にはなると思いますよ」


 シャルルが少しだけ、データを閲覧するようなしぐさを中空に向けながら、二人の疑問に答えた。


「そっかー。だったら、そういうドローンを先にリアルで作っちゃえば良いなの。そうすれば、きっと問答無用でゲーム開発する事になるの」

「そいつぁ、景気の良い話だな」


 アイザックが半ば呆れたように言った。


「ところで、メインの格闘武器は何にするつもりだ?プラズマトーチを手持ち武器にするとしても、使い勝手は悪そうなんだが……」


 プラズマトーチは言ってみればバーナーやライターのようなものだ。相手に押し付けて使うもので、斬ったり殴ったりという用途には向かない。槍にアレンジすれば使えなくもないだろうが、格闘武器としては耐久性に難点があるかもしれないのだ。


「なら、極細超硬度の単分子ワイヤーを刃に仕込んだソニックブレードが良いかもしれないの」

「なにそれ?」


 聞き慣れない単語に、古都子はつい真顔でヴァイオレッタに聞き返してしまった。


「ようは、何でも切断できる電動ノコギリみたいな格闘武器なの」

「へー。神様でも真っ二つにできそうだね。んじゃ、それにしよう」

「飛び道具は持たないのか?」


 アイザックが忘れ物をした小学生をたしなめるような真顔で古都子に指摘する。


「うーん。どうしようかなぁ」


 古都子は、甘味処で追加注文をするかしないか迷うような素振りで悩んでいた。


「一点特化や局地戦専用は確かに強そうに見えるだろうが、リアル戦場じゃ役に立たんぞ?ある程度さまざまな状況に対応できるように、オールレンジで武器を用意しておくべきだ」

「そういうものですか?」


「そういうもんだ。射程の合う武器を持っていなかったせいで、一方的に殴られるなんてゴメンだろ?」


 アイザックが訳知り顔で古都子に答えた。


「確かに、それはそうですね」

「じゃあ、新しい古都子くん専用のドローンは、輸送ユニットと携行武器がオプションで付いている人型って事になるね」

「そういう事だね」


 二人がドローン設計の方向性で納得したところで、その日は解散になった。規格外のドローン設計にはいろいろと準備が必要だとヴァイオレッタが言ったからである。アイザックもさして驚くことなく解散に同意すると、実際に遊べるようになるのが楽しみだ。その時は呼んで欲しいと言い残してログアウトした。


エターナるかならないかのラインで頑張りたい所存です


2016/5/6付記

ヴィークル系ドローンのサイズは全長10メートル前後、全高が最高で5メートル前後を想定しています。

また、航空機系ドローンは全長が最大で20メートル前後まで長大化します。

それに対して人型系ドローンは全高4メートル~5メートルなので、体積的には半分以下となるわけです。

細かく決めると設定の幅が狭まりそうなので、この辺りでお茶を濁したいと思います。当然、話の展開によっては、後出し変更ありえるので、その点はご了承ください

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