人材発掘
「いや~、ユニさんについてきて、本当に良かったです」
口いっぱいに、肉料理を詰め込む合間に、ミントが感謝の意を述べた。
宿屋で部屋を取った我々は、現在、宴会の真っ最中だ。肉料理を集中的に食べるミントを見ていると、彼女が相当、雑草のみの食生活を我慢していたことがわかる。
しかし、好きなように料理を食べられる彼女がうらやましい。
かたや、自分は野菜を頬張っている。試してみたのだけど、どうにも料理は匂いや味が濃くて、食べられたものではなかった。
ミントが普通に食べているところを見ると、この体のせいだろう。
はぁ……、せめて火の通ったものが食べたい。
「それに、会社名も『ミント牧場』なんてつけてもらって……。ひょっとして、私、社長ですか?」
「いいえ」
「そ、そうですよね。ちょっと欲張りすぎました。部長ぐらい……ですか?」
「いいえ」
「……せめて、正社員でお願いします!!」
「いや、ミントさんは奴隷だから。その、なんていうか、備品?」
ミントが頭を抱えて、うずくまった。
まずい、本気でヘコミ始めた。
「まあ、落ち着いてください。ミントさんはなんといっても、たった一人の従業員じゃないですか。実力しだいで、社長にもなれちゃいますよ」
「ホ、ホントですか!? よ~し、それなら頑張っちゃいますよ!」
こうして、初めての宴会は終始、和やかに行われた。だが、ミントは知らない。翌日には、主人が新たな仲間を迎えようとしていることを。
頑張れ、ミント。君の明日はどっちだ。
「え~、では、これから奴隷を買いに行きたいと思います!!」
翌朝、清々しい空気の中で奴隷購入を宣言する。
「え?」
「さ、行きますよ、ミントさん。ぐずぐずしていたら、いい人が売れてしまいます。大丈夫、場所は宿の人に既に聞いてありますから、心配要りません」
さて、新人とは初対面になるから、身だしなみを整えないと。まずは昨日、切られてしまった角だな。たてがみはミントにやってもらわないと。
身だしなみえを整えるため、角をニュッと生やしていると、ミントが慌てた声を出し始めた。
「ま、待ってください!? 新人なんて来たら社長への道が塞がれてしまいます! どうか、お考え直しを!!」
どんだけ、社長になりたいんだよ。それと、自己評価低すぎだろ。そんなんで、よく社長になるなんて言えるなぁ。
「大丈夫ですよ、ミントさんは神様なんですから。それ以上の人材なんて、そうは居ませんよ」
「そういえば、そうですね。な~んだ、心配して損しました。さ、行きましょう。私が新人をビシバシ、指導してあげますからね」
ミントの機嫌が直ったところで出発する。しかし、そこらへんの人間でも、自分以上の存在がいるとは、考えないものなんだろうか、この娘は。
ミントさんの自信の源が分かった。
奴隷市場に到着して、意気揚揚と清純な乙女を探し始めたら、そうそうに問題が発生した。
その原因は、この世界の人間の大半が未開の地で暮らしていて、ろくに教育を受けていないことを失念していたことにある。つまり、言動が動物的な娘が多いってことだ。馬の自分から見ても。
まさか、こんなことになろうとは。これは、本当にミントさんに教育をお願いしなくてはならないだろう。そうなると購入対象は、教育しやすい幼女ということになる。
う~ん、悪くは無いんだが、できればもっとこう、お胸の豊かな方をお迎えしたい。もちろん、若い娘で。
有り体に言えば、巨乳少女を探しています。
「アッ!?」
ミントが驚きの声を上げる。人が、必死でユニコーンの本能を働かせているところで何をやっているんだ、こいつは。まったく、真面目に人材発掘の仕事も行えないようでは、社長への道は遠いぞ。
ミントに非難の視線を送るが、彼女は一点に集中していて、こちらに気がつかない。
いったい、なんだというのか。彼女の視線の先には、一人の少女が居た。その娘は、柔らかい金色のくせ毛と白い肌の人間の上半身に、淡い茶色の馬の下半身が生えていた。つまり、ケンタウロスの少女だ。
「ケンタウロス! そういうのもあるのか」
少女の上半身は、まずまずの巨乳で、可愛らしい顔立ちと緑色の瞳が印象的な娘だ。自分の人間的な部分が合格を出す。その下半身は淡い茶色の毛並みに金色の尾が揺れて、きらめいている。自分の馬的な部分も合格を出す。
ともすれば、どっちつかずになるところを絶妙なバランスで成り立っている少女は、十分にハーレム入りする存在だろう。あとの問題は、彼女の中身だ。
「待ってください。あの娘は、あんまり良くないんじゃないかと思いますよ」
ケンタウロスの少女に近づこうとすると、ミントが止めてくる。と、いうことはアタリの可能性が高まるな。よし、幸先がいいぞ。
「あっ! ミントちゃん」
ケンタウロスの少女が、ミントを見て手を振り始めた。
ミントの知り合いかぁ~。これは減点項目かもしれない。類は友を呼ぶっていうしな。
「知り合い?」
「えっと、まあ、友人です。昔の職場の同僚でもあります」
え~、友人かよ。本格的にアウトくさいな。
とはいえ、念のため、話してみるか。先入観を持っていると足元をすくわれるというし。
「わぁ~、ミントちゃん、久しぶり。元気にしてた?」
少女の目の前に立つと、彼女はミントに挨拶を始めた。あれか、ユニコーンはただの乗り物だと思っているのか?
「麦わらちゃんも元気そうですね。ところで、そんなところで何をしているんですか」
「私? 私はねぇ、仕事があるって紹介されて、ここで待ってるんだ。えへへ」
こいつも失業者か。神様世界は不況なのか?
だいたい、仕事の斡旋を受けているはずなのに、どうみても商品になっちゃてるんですけど、それは大丈夫なんですかね?
同じことを疑問に思ったのか、ミントが問いかけた。
「いったい、誰に紹介されたんですか?」
「う~ん、こっちで知り合った親切な人。名前は知らないんだ」
「あなた、売り飛ばされちゃってますよ」
さすがミントさんや、言いにくいことに、ズバッと突っ込んでくれる。別に、痺れたり、憧れたりはしないが。しかし、ミントにすら、突っ込まれるとは、この娘の脳内がスゴく心配です。
「またまた~。そうやって、すぐ騙そうとするんだから~。私も、いつもいつも騙されたりしないんだからねぇ。もう」
現在進行形で、騙されているやつだから言えるセリフだな。感動した。
「いや、マジですよ」
「え? ……嘘だよね? ねぇ?」
「嘘じゃないですよ」
「そ、そんな!? 私、どうしたら……。ミントちゃん、助けて!!」
さて、そんなところでタイムアップ。奴隷商人が近づいてきました。
しかし、どうするかね、この娘。見た目は合格だか、中身の方がちょっと……。ミントの友人だというのが、減点ポイントになることを、如実に証明してくれる御仁である。
ミントの様子を窺うと、なにやら考え込んでいる様子。おそらく、一も二もなく友人を助けようとは思っていないだろう。その思考の根底にあるのは、自己保身であるはずだ。
うん、まあ、いいか。
中身の方は、ミントに丸投げしよう。美味しいところだけ、こちらで頂く。それが、俺のジャスティス。
よ~し、値切れるだけ値切っちゃうぞ。